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夜の秘密の会話

「本当にまさきは寝言が多いよね。起きてるのかなと思うもん」


「ふうん。俺は聞いたことないけどなあ」


 それは陽一が夜泣きでも決して起きないほど熟睡する人間だからである。

 かよ子が陽一とそうして話していると、りくがほてほてと近づいてきて、「おかあさんだって喋るじゃん」と気になることを言った。


「え。りく、おかあさんが夜中に喋ってるの、聞いたことあるのか?!」


「ちょ、ちょっと!」


 わくわくと訊き返した陽一に、かよ子は慌ててりくの口を塞ごうと立ち上がった。

 しかしそれは杞憂だった。


「うん。喋ってたよ」


「何て言ってた? なあ、おかあさん何て言ってた、りく?」


「ええ? 恥ずかしいことだよ……、だから言わないよ」


 ――恥ずかしいことって何? 何喋ったの?!


 慌てまくるかよ子をよそに、りくは決して口を割らなかったのである。

 ほっとするような、爆弾を抱えているようで不安なような。

 このままではおいておけない。いずれ気になった陽一に聞き出される可能性がある。


 かよ子はそっとりくを隣の部屋に連れて行き、交渉を開始した。


「りく、お母さん何て言ってた? お母さんだけに内緒で教えて?」


「いや、だからさぁ……」


 りくはもじもじとして喋らない。

 ありを無心でぷちぷちと潰していたこともあるような豪胆な男ではあるが、こういうかわいらしいところもあるのだ。

 しかし今はとにかく教えてほしい。


「おねがい、りく! おかあさんこのままじゃ気になって眠れない!」


「だいじょうぶ、おかあさんすぐ寝るじゃん」


 確かに。

 時折子どもたちを寝かせるつもりが寝かされている。


「そうなんだけどさあ~。じゃあさ、じゃあさ、お土産でもらったチョコ、りくおいしいって言ってたよね。あのおいし~い(高い)チョコ、最後の一つなんだけどりくにあげる。だからこっそりお母さんだけに教えて!」


 苦渋の決断である。

 後でこっそり一人で食べようと隠しておいたのだが、時には贄を捧げなければならないときというのがある。


「えー。だからさあ、あれだよ。ぼくがさぁ、冷たくなっちゃったじゃん? あの時お母さん、喋ったじゃん」


「え」


 冷たくなった時、というのは、りくがおねしょをした時、ということである。


「それって、さ。『着替えておいで』って言ったこと?」


「そ」


 一文字で返された返事に、かよ子は愕然と項垂れた。


「それ、普通に起きて喋っただけじゃん……。寝言じゃないじゃん……」


 恥ずかしかったのはりくであって、かよ子ではない。

 恥ずかしいことを今喋らされたのは、りくだったのだ。


 考えてみれば、りくはまさきと共に夜もぐっすり眠っているのだから、寝言を聞いたことがあるとも思えない。

 寝言がなんなのかわからなくても仕方がないし、そもそもよく思い返してみれば『おかあさんだって喋るじゃん』と言われただけである。

 それを勝手に寝言だと勘違いしたのはかよ子と陽一の方だ。


「チョコどこ? ちょうだい」


 恥ずかしい寝言を聞かれたのではないことにほっとしながらも、かよ子は大切な何かを失った。

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