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キミの掌

 夏の日の夕方のことだった。

 洗面所で手を洗い、振り返ったかよ子はびくりと肩を揺らした。


 ――人の、手形……?


 べっとりと血の付いた手で壁を撫でたかのような。


 それも、細く小さな子どもの指だ。


 この家は新築。

 住み始めて三年も経っていない。

 元は畑だし、霊障なんてのにはあったことがない。


 ぞくりとして慌てて洗面所から出ようとドアノブに手を伸ばし、かよ子は今度こそ悲鳴を上げた。


「キャーーーーーー!!!」


 ドアにもべったりと、手形が付いていた。


 わなわなと震える手を握り締めていると、ガチャリと向こう側からドアが開いた。

 現れたのはまさきだ。

 跳ね上がった心臓を落ち着けようと胸に手を当てるかよ子に、まさきは戸惑ったような顔を向けた。


「ねえ、おかあさん。部屋がすごいことになってるんだけど」


 その言葉に、まさか、とかよ子は部屋へと駆け出した。

 そこで見たのは――。


「――りくっ!!」


 口元にチョコをべったりとつけた、りくの姿だった。


「なにー?」


 けろりと返事を返したりくは、お気に入りの変身ロボットを合体させているところだった。

 かよ子は慌てて駆け寄り、その手をおもちゃから離す。


「なんだよー、何するんだよー!」


 勿論りくは抵抗するがそれどころではない。


「りく! 手! よく見て、ぜんっぜん洗えてない、めちゃくちゃチョコレートついてる! あと顔にも」


 見れば、テーブルや椅子にもべたべたとチョコレートがついていた。

 先程おやつで食べたチョコレートだ。

 きっと夏場の暑さでチョコレートが溶けかけていたのだろう。

 手を洗いに洗面所に行ったのは見届けたが、見れば日焼けして赤黒い手にはまだまだチョコレートがついていた。


「えー? あ、ほんとだー」


 霊障などではないとわかりほっとしたのも束の間、かよ子は部屋中の掃除に追われることになった。

 だが謎はまだ残っている。


「ねえ、りく。なんでその手で洗面所の壁を触ったの?」


 ドアはまだわかる。開けようとして触ったのだろう。

 だがその隣の壁まで何故触ったのか。それも上から下に撫でるように。


「えー? 壁? わかんない。覚えてない」


 謎だ。

 謎過ぎる。

 りくは一体洗面所で何をしていたのか。


 絞った布巾でごしごしと汚れを拭きながらかよ子は思った。

 霊障などより子どもの行動の方がよっぽど謎が深いかもしれない、と。

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