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物語の小説化の技法  作者: 種田和孝
第二章 基本中の基本
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【初級】1H5W

 いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように。それらは必須の情報です。もちろん、小説は新聞の記事などとは異なりますから、情報の提示には小説なりの工夫を凝らさなければなりません。

 その一。作者は物語世界の全体に関する説明を行なわなければなりません。現実世界の現代、現実世界の過去や未来、異世界、はたまた大宇宙。これらは、いつ、どこで、に該当します。初心者の作品の多くでは、それらに関する説明が不足しています。

 例えば、ここは魔法の存在する中世に似た異世界である。そう述べただけでは全く足りません。自然や街などのあり方、社会の体制や情勢、その他もろもろ。必要に応じてそれらをきちんと提示しなければ、読者は状況が分からないままに事態の推移を眺めるだけとなってしまいます。

 ただし、世界に関する説明は小説中に分散させなければなりません。決して、小説の冒頭に集中させてはいけません。読者は事態の推移と登場人物の思考や言動に興味を持っているのです。この小説を楽しむためには、まずは以下の舞台設定と登場人物の一覧を理解して記憶せよ。そんな作業を強いられたら、読者はすぐに退屈して離れてしまいます。説明は物語の進行に伴って徐々に。それが肝要です。

 その二。物語の各段階でもその段階に特有の状況を説明しなければなりません。初心者の作品には、特にこの点で不十分なものが多い。それは紛れもない事実です。

 次の二つの例を考えてみましょう。

 

 いつも通りの朝の登校。その途中、僕はパンをくわえた女子に出くわした。僕は驚き、その場から走り去った。

 

 陽射しが眩しくなってきた朝。僕は歩道に併設された花壇に目を凝らしながら、学校への道を歩き続けていた。赤い小花、黄色い花。見たことはあっても、名前は知らない花また花。その隙間にふと十円玉を見付けた時だった。怒涛の足音が近付いてきた。見ると、パンをくわえた女子。変質者の出現に僕は驚き、十円玉を放置してその場から逃げ出した。

 

 一番目の例は未刊作品で頻繁に目にする水準の描写です。二番目の例はそれを改善したものであり、そこには以下のような情報が含まれています。

 夏が近づきつつある季節であること。通学路は車道と歩道と花壇からなる、かなり整備された道であること。僕という人間はどうやら金銭に執着しているようであること。女子を変質者と認識して恐怖したこと。

 文章の良し悪しはともかく、1H5Wの提示が大幅に改善されているのは間違いありません。ついでに、もう一つ例を挙げます。

 

 朝日が眩しい。夏が近付いてきたのだ。この道では車道と歩道が分離され、歩道には花壇が併設され、花壇では花が咲き誇っている。この街の道は良く整備されているのである。そんな道で僕は女子に出くわした。女子はパンをくわえていた。変質者以外の何者でもない。僕は関わり合うのを避け、走ってその場から離れた。

 

 三番目の例も未刊作品で頻繁に目にする種類の描写です。この例では、物語世界の外に存在している読者に向かって直接的に語っています。特に「この街の道は……である」の部分が。これは一種のメタ構造であり、この種の表現方法は読者の没入感を損ないます。明確な意図がない限り、出来るだけ避けなければなりません。

 さらに言えば、三番目の例のような断定的な説明口調の表現は本来ノンフィクションや解説文などで用いるものです。小学校や中学校で教わる作文の書き方はノンフィクション用であり小説用ではないのです。


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