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物語の小説化の技法  作者: 種田和孝
第三章 小説の構成
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【上級】登場人物の知性

 登場人物の構成は一般的に、主人公、主人公の味方、悪役、その他の脇役などとなります。登場人物に関して最初に考えるべき事柄は容姿ではありません。身分や立場、それに相応しい性格と知的水準です。

 すでに述べましたが、読者は賢い登場人物を好み、愚かな登場人物に苛立ちます。知的水準には二つの要素があります。それは知能と発達段階です。

 まずは発達段階の件。人は生まれた瞬間から精神的な成長を始めます。つまり一般的には、幼児よりは小学生の方が賢く、小学生よりは中学生の方が賢く、以下同様に年齢の上昇と共に知的水準も上がっていきます。

 登場人物が大学生以上であれば、全員を大人として描けば良いのです。一方、それ以下の人物については、それ以下らしく描かなければなりません。

 賢い小学生の特徴としては次のようなものを挙げることが出来ます。良く考える。好奇心が旺盛。しかし物ごとを全く知らない。だから間違うことも多い。純粋で真っ直ぐ。他人を疑わない。他人の内面を理解できない。大人の嫌らしさを持たない。皮肉のような婉曲な悪意を知らない。

 賢い高校生の特徴としては次のようなものを挙げることが出来ます。良く考える。好奇心が旺盛。しかし物ごとを未だ良く知らない。だから間違うこともある。他人を疑うこともある。他人の内面をある程度は理解できる。大人の嫌らしさを知り、身に着け始めてもいる。婉曲な悪意も知ってはいるが、自身に向けられた婉曲な悪意には鈍感。

 中学生はその中間です。

 まかり間違っても、小学生にオジサン風の床屋談義やオバサン風の井戸端会議をさせてはいけません。それはシュールすぎて、コメディーであっても笑えません。シリアスものならなおさらです。

 次は知能の件。頭の良い人物は大方、次の五つに分類できます。すなわち、優れた天才、優れた秀才、愚かな天才、愚かな秀才、愚鈍な秀才。ただし、愚鈍な秀才は異質なので、その特性については解説しません。

 天才には、速く深く論理的に洞察するという特性があります。またその言動は、独自の洞察に基づくものであるがゆえに、時として奇異であったり、常識と対立するものであったりします。良く考える。それが天才の典型です。

 秀才には、速く広く学ぶという特性があります。それゆえ、問いに対する秀才の返答は、内容が豊かであると同時に非常に常識的なものとなります。良く知っている。それが秀才の典型です。

 ただし、天才にせよ秀才にせよ、知識や経験に乏しい段階では深い知見に到達することは叶いません。また、その言説には矛盾や誤謬が含まれたりもします。その後、成長することによって、愚かな天才は優れた天才に、愚かな秀才は優れた秀才になるのです。

 多くの作品には天才が登場します。そして、天才が天才らしく見えないという問題が生じます。以下で天才と秀才の描き方を解説します。ただし、あくまでも小説内での人物像を解説するだけであり、現実の在り方を述べる訳ではありません。

 天才は物事を良く考える人物として描くのが良いでしょう。すぐに考え込んでしまう。おもむろに口を開く。他の登場人物よりも論理的でちょっと深いことを言う。そんな人物像です。重要な場面でキーワードやキーセンテンスを口にする役回りも良いでしょう。

 秀才は物事を良く知っている人物として描くのが良いでしょう。打てば響くように答が返ってくる。嬉々として早口。ただし、良く知ってはいるが深い訳ではない。そんな人物像です。物知り博士の役回りに最適でしょう。

 ただし、秀才に語らせ過ぎてはいけません。特に、秀才の中の人となった作者の蘊蓄垂れ流しは読者にとっては退屈なだけです。その程度の蘊蓄などとっくに知っている。そういう読者も多いと認識すべきです。

 愚鈍な秀才には二つの描き方があります。知性は高いのに、深い議論が成立しない。良く言えば意志が固い。悪く言えば頑固。博愛的な正義の信念に凝り固まっているのなら正義の味方。利己的な歪んだ思想に凝り固まっているのなら狂信的な悪役。創作の中では愚鈍な秀才にはそんな役回りが似合います。

 ちなみに、その論理性の高さから天才の言説は明快です。理解不能に思えるのなら、それは聞き手側に問題があるのです。天才に誤りを言わせるのは構いません。しかし、決して意味不明なことを言わせてはいけません。意味不明なことを言いがちなのは、天才や秀才などの高知能者ではなく、芸術家などの高才能者です。知能と才能は別物です。最も端的な例は「裸の大将」。描写に際しては高知能者と高才能者を混同してはいけません。


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