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第5話 大剣を振るう男

──ザシュッ!!!


 クロノスが炎の剣を握って切りかかったその瞬間、空を裂くような音が響いた。

それと同時に手足が解放されたリセルは、反射的に後ろへ下がる。

クロノスの炎の剣が、それを負うかのようにリセルの鼻先すれすれに振り下ろされた。

すんでの所で攻撃をかわしたリセルは、素早くクロノスから遠ざかった。


 クロノスから距離を取ったリセルは、改めて自分の手足を見つめる。


(絡み付いていた植物が、すべて切られている?)


「リセルッ! 大丈夫だったか?!」


 リセルがその声の方に振り向くと、そこにいたのは──


「ラング!!」


──ルディアの兄であり、王宮騎士団の小隊長であるラングだったのだ。

ラングはその屈強な腕で、大剣をかつぎあげている。

その大剣は、成人男性であっても二人掛かりでなければ持てない質量であろう。

そのような重さの大剣を、片手で背負っているのだ。


「遅くなっちまったな!」


 リセルは一瞬にして察した。

体中に巻きついていた植物を、ラングの一刀が断ち切ったのだ。

クロノスはラングを睨みつける。


「くっ……! 俺ともあろうことが、コイツの剣を防げなかっただと?」


ラングはクロノスに切っ先を向けた。


「魔力を過信して油断したな! おめぇが大振りかましたせいで、隙ができちまったんだよ!」


「抜かせ! 貴様のような子供だましの剣技は、取るに足らん!」


 クロノスは炎の剣を振りかぶり、ラングに襲い掛かる。

すかさずラングは大剣をブウウゥンッ! と旋回させて、大きな風を巻き起こす。

嵐のようなその風は盾となり、クロノスの炎の剣を跳ね除けた。


「力技で魔法を弾くとは、なんて無茶苦茶な野郎だ!」


「どうだ? これでも子供だましの剣技なんて言えるか?」


 ラングは高笑いをして、大剣を持つ手を肩に載せた。

すると間髪入れずに風の刃が飛んできて、ラングの頬をかする。

刃は肉を切り分け、頬から血が伝い落ちた。


「うおおおーっっ!! いってえ!! 飛び道具たぁ卑怯だぞ!!」


 大剣を振り回して打ち返そうとするも、更なる大きな風が吹き荒び、ラングの身体を吹き飛ばした。


「ラング!! あいつを甘く見ない方がいい。あいつは相当な魔法の使い手だ」


「だったらどうすんだよ! リセルの魔力はもう尽きてんだろ?」


「ああ。剣で応戦するしかないな」


 リセルは剣を鞘から抜き、それを構える。

ラングも横に並んで立った。


「おう! タッグを組んで、あいつをやっちまうか?」


「いや、キミはルディアを早く救護してくれ。ボクは時間を稼ぐ」


「ああん? ルディア~?」


 クロノスの攻撃にリセルが応戦している間、ラングは周囲を見渡した。

すると、そこには気を失って横たわるルディアの姿があった。

ラングは目を丸くして、猛スピードでルディアのもとへ駆けつける。


「ルディア! 起きろ! 起きろおおおお!!!」


 ラングはルディアの胸倉をつかみ上げて、頬を何度も引っぱたいた。

頬を赤くしたルディアは、うっすらと瞳を開く。


「うっ……。兄様……?」


「ルディア! おめえ、何こんなとこで寝てやがんだ!!」


「こんな所……? えっ?」


 ルディアはまだ覚めきらない頭を押さえ、辺りを見る。

クロノスの猛襲をかわすリセルを見て、ルディアははっきりと目覚めた。


「そうだ! 私は、あのクロノスという男に風の魔法で吹き飛ばされて……!!」


「それで頭を打って気絶したってのか? なっさけねぇなあ~」


「くっ、返す言葉も無い……」


 ルディアは落ち込んで頭を下げたかと思うと、すぐに剣を持って立ち上がった。


「こんなことをしている場合ではない! リセル様を族からお守りせねば!」


 ふらつく足をそのままに駆け出そうとするルディアの腕を、ラングが力強くつかんで引き戻した。

バランスを崩しそうになったルディアは踏みとどまり、ラングをきつくにらみつける。


「何をする兄様!」


「そんなフラフラした足取りで行っても、足手まといになるだけだろ。今は大人しくしておけ」


「でも……」


 確かにラングの言う通りである。

魔法の効果なのか、まだ身体の自由が利かない。

今の自分が、あの得体の知れぬ魔力を持つ男に太刀打ちできるとは思えなかった。

それを思ったルディアは、戸惑いながらリセルを見た。

リセルは苦戦を強いられているのか、防戦一方で攻撃をよけるばかりである。

クロノスは笑った。


「少しは反撃するそぶりを見せたかと思ったが、所詮は腰抜けか」


 リセルは何も言わず、攻撃魔法が当たらないように避けることに終始している。

剣を振るって、クロノスに切りかかることもできるはずである。

しかし、リセルはなぜかそれをしないのだ。

不気味に思ったクロノスは、魔法を放つ手を止めた。


「何を考えている?」


 その問いには答えず、リセルはただ静かにクロノスを見た。

すると、西の方から光の矢が指した。

クロノスはそのまばゆいばかりの光に、目を細める。

朝日が昇ったのだ。

いつの間にか鳴りを潜めた月は、その光をクロノスに届けることは無い。

クロノスは、魔宝石であるダークネスオニキスの光が弱くなっていることに気づいた。


「道理で逃げ回っているはずだ! 日の光を待っていたのか!」


 リセルの魔宝石であるフォーリークリスタルが、光を帯びていく。

魔力が充填され始めたのを感じ取ると、リセルは魔法陣を描き出した。


「ブルーカルサイト!」


 リセルは青の魔法を使い、クロノスの足元を凍てつかせた。

しかしクロノスは動じることはなく、赤の魔法レッドスピネルによる熱でそれを溶かす。

己の魔力が残り少ないことを悟ったのか、クロノスは魔法陣を描いて身体を宙に浮かせた。


「このままお前を追い続けていたら、俺が逃げる魔力すら無くなってしまう。また来るぞ、リセル!」


「待て!」


 リセルは氷の矢を飛ばしたが、クロノスはそれをかわすように姿を消してしまった。

これ以上、用意も無いままに深追いするのは得策ではない。

クロノスが再び奇襲をかけてくることに不安はあったが、城の守りを強化することの方が先だろう。

そして何よりも、今は体力を回復することを優先するべきである。


(やっと……終わった……)


 リセルは胸を撫で下ろすのも束の間、はたと思い出した。


「ルディア! 大丈夫か!?」


 リセルが振り向くより先に、ルディアが駆けつけてきた。


「私はこの通り、大丈夫です! それよりもリセル様、ご無事ですか?」


「ああ、僕なら大丈夫。ラングが来てくれなきゃ、どうなっていたことか」


 それを聞いたラングは大剣を担ぎ直し、誇らしげに鼻を鳴らした。


「兄様は危機を救ったというのに、私ときたら……。申し訳ございません、リセル様……」


 ルディアは面目の無さに頭を下げ、己の未熟さを恥じていた。

頭を上げてリセルを見ることすら出来ない。

何も出来なかった自分を悔いるルディアに振ってきたのは、リセルの笑い声だった。


「そんなことより、キミが無事で良かった」


「リセル様……。なんと寛大な御心をお持ちでしょうか……」


「寛大だなんて、大袈裟だな。それよりも、今日は御前試合があるじゃないか。早くベッドで休んで、少しでも体力を取り戻さないと」


「まっ、こいつはそこでグースカ寝てやがったけどな!」


「にっ、兄様!!」


「ラング、それは言ってやるなよ。魔法で眠らされたんだ。仕方の無いことじゃないか」


「はっはっはっ! そいつはそうだな!」


 笑い合う二人とは対照的に、ルディアは己を戒めていた。


(リセル様の優しさに甘えてはいられない。今日の御前試合で雪辱を晴らせてみせる!)




第6話へ続く

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