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第4話 三種の魔法

 息をしているのか心配になり、リセルはルディアの口元へ耳を近づける。

すると、それを見たクロノスが言った。


「安心しろ。魔法で眠らせただけだ」


 微かにルディアは胸を上下させ、浅く呼吸をしている。

リセルは安心したのも束の間、ルディアを抱いたままクロノスを睨み付けた。


「なぜこんな事をする! 何が目的だ!」


「俺の目的は……メーディアが愛を捧げたお前を殺して、メーディアに限り無い苦痛を与える。そうして生き地獄を味わわせた後には、メーディア自身をも殺して冥府へ送ることだ!」


「憎んでいるのか、メーディアを。一体なぜ……?」


──ヒュンッ!


 その刹那、リセルの頬すれすれに何かが空を切った。

間一髪でそれを避けたリセルは、ルディアを置いて立ち上がる。

見るとクロノスの前には闇の魔法陣が広がり、リセルに向けて攻撃魔法を放っているではないか。


(このままではルディアに危険が及ぶ!)


 リセルは極力ルディアから遠ざかろうとして、クロノスの魔法をかわしていく。


「逃げてばかりいないで、少しは反撃してみせたらどうだ!」


「くっ……!」


 クロノスの攻撃を避けながらも、リセルは現状の打開策を模索していた。


 光属性のリセルには、日中に魔法石へ蓄えた分の魔力しかない。

対してクロノスは、月光により無限に魔力が使える。

リセルに不利な状況を(くつがえ)(すべ)は無かった。


(だからと言って、無抵抗に逃げ続けていても無駄に体力を消耗するだけだ。応援を呼びに行くか? ……いや、駄目だ。ルディアを残したままじゃ危険だ)


 リセルは覚悟を決めて、魔法石を取り出した。

月明かりに照らされたその石──水晶──を見て、クロノスが口の端を吊り上げる。


「ようやくフォーリークリスタルを出したか。俺と勝負をする気になったようだな」


 息を吸い込み、じっとクロノスを見据えたままでリセルは言った。


「……勝負はしない」


「この期に及んで逃げる気か? とんだ腰抜けだな!」


「闇属性にとって有利な、月夜の晩に襲ってくるお前が言えたことか!」


「抜かせ! 俺は、お前を殺す為に手段を選ばない……ただそれだけだ!」


 クロノスは魔法陣に、今度は赤の光を宿らせた。


「レッドスピネル!!」


すると瞬く間にクロノスの周囲で炎が燃え上がる。


──ゴオオオッ!


 炎は塊となり、轟音と共にリセルに襲いかかってきた。

リセルは素早く魔法陣を作り出し、そこに青の光を宿らせる。

魔法陣から噴出した水の柱により、間一髪で炎の塊を打ち消した。

リセルは炎の熱と驚きにより、額に汗を浮かべていた。


「馬鹿な……レッドスピネルまで操れるだと?」


「それはお前とて同じことだろう。赤の魔法・レッドスピネル、青の魔法・ブルーカルサイト、緑の魔法グリーンフローライト……。お前もこの三種の魔法を、俺と同様に操れるはずだ」


「僕のことをそこまで知っているのか。もう驚いている暇は無さそうだな」


 普通の人間ならば、赤・青・緑の魔法の内どれか一つしか操れず、一生をかけて一つの魔法を極めるのが通例だ。

しかしリセル、並びに祖父のアズールだけは、生まれ持った才能により三種の魔法をすべて使うことが出来たのだ。


 赤の魔法と呼ばれる“レッドスピネル”は、の火を司る魔法だ。

例えば、燃え盛る炎や火柱、マグマなどを自在に出現させることができる。

赤の魔法は緑の魔法に強く、青の魔法に弱いとされる。


 次に、青の魔法と呼ばれる“ブルーカルサイト”は、水を司る魔法だ。

例えば、滝のごとく水を流れさせることや、氷の城を作ることさえできる。

青の魔法は赤の魔法に強く、緑の魔法に弱いとされる。


 そして、緑の魔法と呼ばれる“グリーンフローライト”は、自然を司る魔法だ。

主に、土、風、雷、植物を操ることができる。

緑の魔法は青の魔法に強く、赤の魔法に弱いとされる。


 それぞれの魔法に優位性と弱点があり、相性の悪い相手との戦いにおいては、魔法が用を成さないのである。

しかしながらリセルはすべての魔法使えるため、これまで敵になる者はいないと思われていたのだが……。


(この世には僕とお祖父様しか、すべてを操れる者はいないと聞かされていたのに……)


 この騒ぎに気づいて城の兵士や魔導士たちが駆けつけたとしても、クロノスの魔力には太刀打ち出来ぬであろう。


(こいつに応戦できるのは僕だけだ!)


 リセルがフォーリークリスタルを握り締めると、周囲を照らすように光の魔法陣が現れた。


(万が一の事態に備えて、常に魔法石を日の光に晒して魔力を充填している。とはいえ、クロノスに対抗するには心許(こころもと)ない。どこまで持ち(こた)えられるか)


 そしてリセルは光の魔法陣に、緑の光を宿らせる。


「グリーンフローライト!」


 リセルはそう叫ぶと、城壁にクロノスを叩きつけんばかりの勢いで強風を放った。


──ヒュオオーーッ!


 クロノスの身体は風に飛ばされて宙に浮いたが、空高く舞い上がったときに、闇の魔法陣を青く光らせた。


「ブルーカルサイト……」


 クロノスは静かにそう呟くと、夜空から何本もの氷の矢を撃ち続けた。

それらが身体に突き刺さりそうになったとき、リセルは既所(すんでのところ)で大きく横に飛び、それを交わす。


(ねずみ)のようにチョロチョと逃げやがる」


 グリーンフローライトの風が止み、クロノスの身体が急降下する。

するとクロノスは素早く地面に魔法陣を映し出し、緑色に光らせた。

風の浮力で静かに着地するためである。


 クロノスが地に足を着くやいなや、リセルは再びグリーンフローライトによって強風を発動した。

それに対してクロノスはレッドスピネルにより熱波を出し、リセルの風を打ち消す。


「さっきから馬鹿の一つ覚えのように風を吹かせてくるな……。俺を城壁の外まで吹き飛ばそうとしているのだろうが、そう簡単に飛ばせやしない事がこれでわかっただろう?」


「クッ……!」


 リセルは魔宝石であるフォーリークリスタルを握り締めた。

見ると、先ほどよりも光が弱くなっている。


(僕の魔力が尽きるのも時間の問題か……)


 リセルの気が逸れた一瞬を見て、クロノスは魔法を放った。


「グリーンフローライト」


 するとリセルの足元に生えている草花が異常な速度で伸び始め、リセルの足首に絡みついた。

リセルは必死に対抗するべく、魔法陣を何度も赤く光らせる。


「レッドスピネル! レッドスピネル!」


 その度に小さな炎を出しては両脚に絡みつく植物を焼き切るが、クロノスの魔力によって次々と植物は生え続ける。


「これじゃあキリが無い……!」


 レッドスピネルを連発したせいで、とうとうリセルの魔力は尽きてしまい、フォーリークリスタルは光を失った。

それに対してクロノスはというと、夜空に向かってダークネスオニキスを高く突き上げている。


「ふん、光属性は脆弱(ぜいじゃく)だな。日の当たる場所では偉そうに道の真ん中を歩いているが、夜になれば闇属性に歯が立たないじゃないか」


 完全に逃げ場を失ったリセルを前にして、クロノスは一際(ひときわ)大きな魔法陣を宙に描いた。


「これで(とど)めだ」


 魔法陣に赤い光を宿らせたかと思うと、そこから炎の剣をズルリと抜き取る。

その剣はクロノスの高等な魔力により、今にも身を焦がさんばかりの業火をまとっていた。

あの炎で焼き切られては、いくら魔法防御の高いリセルであっても一溜まりもないであろう。

リセルは一縷(いちる)の望みを託して、フォーリークリスタルを天に掲げた。


「ブルーカルサイト!」


 青の魔法が発動すれば炎の剣を打ち破れたのだが、無情にもフォーリークリスタルにその魔力は残されていなかった。

朝日が昇れば、すぐに魔力を充填できる。

しかし夜が明けるまでには、あとどれくらいの時間を要するだろうか。


「死ね、リセル!!」


 クロノスはそう叫び、渾身の力でリセルに斬りかかった。




第5話へ続く

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