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いらつき

「どういうことなの?」

 阿奏は苛立ちを隠そうとせず、誄を問い詰める。

「どういうことと言われましても…… 映画見ただけだし……」

 土曜日と日曜日の休日が終わり、学校が始まる月曜日。授業が終わり、今は放課後の時間。

「それが問題なんでしょ。」

「どこに問題があるんだよ」

 阿奏は深くため息をついた後、額に手をつけて落胆する。

「じゃあ、もう一度土曜日にしたことを言ってみなさい」

「だから―――」

 誄は起きていた。

 何時もなら絶対に起きないような時間、目覚まし時計がなる前の時間だ。

「奇跡だ」

 誄は自分に驚きながら、ベッドから上半身だけ起こして手に取った目覚まし時計を見つめ、六時四十五分になった瞬間にけたたましい機械音を上げた目覚まし時計を気絶させた。

 そのまま這い上がると、いつもより入念に服を選び、着替える。

 二階にある自室から出て一階のキッチンに向かう。

「おはよ……う」

 朝食の準備をしていた母親の手が止まる。そしてみるみる顔が青ざめて誄に深刻そうに訪ねる。

「盲腸ね」

「……質問していいかしら」 

 誄の話を途中で遮り、阿奏が口を挟む。

「なんだよ。人が話している途中に」

「黙って聞いているつもりだったのだけど、我慢出来なかったわ。どうしてそこで盲腸が出てくるのよ。話が可笑しいでしょ」

「俺が七時前に起きてくる時は絶対に、何かしらの病気だったらしい。一度目は水疱瘡、二度目はおたふく風邪、そんな感じで粗方の病気にかかったらしいんだが、その中でまだかかっていなくて、有名な病気が盲腸ということらしい」

「……ツッコミ所しかなくて私には対処不可能ね。話を続けてください」

「それで―――」

 朝食を食べながら朝のニュース番組を聞く。

「続きまして、人気コーナー「日本の人口」。はい、というわけで本日九月五日の日本の人口をみてみましょう。一億二千七百五万五千二十五人《1億2705万5025》と昨日より若干少なくなっていて――」

 テレビから流れる情報を聞き流しながら、誄は用意された朝御飯を食べながら今日の予定を考える。

「……あのまたで申し訳ないけど、確か映画を見たのは昼間だったわよね?」

 また阿奏は誄の言葉を遮って、口を挟む。

「そうだけど…何か問題でもあるのか?」

 阿奏は項垂れながら言う。

「私はデートの話が聞きたいの、あなたが家で何していたかなんてどうでもいいの、とりあえず家を出る所まで話を進めなさい」

「分かったよ。なんだよ詳しく説明しろって言ったの阿奏なのに」

「何か言った?」

「何でも無いです……」

 余裕だったはずの時間だったはずが、いつの間にか直ぐに家を出ないと間に合わない時間になっていて、誄は慌ていた。

 家を飛び出し、自転車に飛び乗り体力の限界など考えず一心不乱にこぎつづける。

 駅を視認した誄は遠くから駅に近付く電車を見つけ更にペースを早くした。

 自転車から飛び降り乱暴に駐輪場に停める。

 駅の改札まで全力で走り抜けると、非情にも誄の目の前で電車のドアは閉まり、発車してしまった。

「遅刻だ……」

「誄君。おはよ」

 白いワンピースを来た好乃々が朗らかに手振りながら後ろから挨拶した。

「……何が言いたいか分かるわよね?」

 阿奏がいらつきを隠そうとせずに言った。

「……すみません」

「馬鹿よね。初デートで遅刻って」

「実際は両方遅刻したからマイナスとマイナスでプラス的な……」

「言い訳が意味不明ね。文系の私にも分かりやすく言って欲しいものね。それに好乃々が遅刻する訳ないでしょ。明らかに電車に乗り遅れたあなたを見つけて、電車から降りてくれたんでしょ」

「……すみません」

「それで?」

「その後――」

 汗だくで息も切れ切れになりながら誄の言った言葉は「待った?」だった。

「全然」

 と待ち合わせ場所でも無い場所で待ち合わせぽっい会話を繰り広げた。

 誄はとにかく話続けていた。電車が来るまでの時間、電車に乗っている時、電車を降り映画館に行くまでの時間も。

 その間、ずっと好乃々はコロコロと笑い続けていた。誄は必死だったためその間何を話したか全く覚えていなかったが、趣味があったのか好乃々は楽しんでいた。

「何見る?」

 映画館に着き、とりあえず好乃々に尋ねる、誄の頭の中には様々な応対がぐるぐると渦巻いていた。

 好乃々はキョロキョロと周りを見渡すと、顔を真っ赤にして興奮して言った。

「私、映画館で映画見るの初めてなの。すごいわね」

 非常に嬉しそうな好乃々を見て、誄もとても嬉しくなった。

「あそこにポスターがたくさん飾ってあるでしょ、あれが今上映している映画だから面白そうなの探そうか」

 誄はポスター群を指差すと、好乃々はぶんぶんと首を縦に振り、小走りで近寄って行く、それを慌て追いかけた。

 推理、ホラー、アクション、アニメ、多種多様のポスターとにらめっこしながら好乃々は考え込む、二、三分経過した後、好乃々はひとつのポスターを指差し、

「これ」

 好乃々の目は輝いていた。

「これ?」

 誄はどうしたものかと困惑した。

 他の映画にしようと説得したが、頑として好乃々は譲らなかった。

「じゃあ、チケット買ってくる、あそこに座って待ってて」

 椅子を指差すと好乃々はコクコクと頷き、椅子に小走りで近寄り座っり、誄に向かってにこりと微笑んだ。

 チケットを買うついでに売店でオレンジジュースとポップコーンを買って戻ると好乃々はすごく喜んだ。

「で、結局何見たの?」

 阿奏は言いずらそうにしている誄に聞いた。

 誄の視線が泳ぐ。

「で、結局何見たの?」

 もう一度阿奏は誄に聞いた。

「二階で見た」

 死にたいような顔して誄は言った。

「まじ?」

「まじ」

 大笑いしながら阿奏は言った。

「それはダメでしょ、なんで二階で見てるのよ、それはアウトでしょ」

「途中でポンと言う音がした気がしたよ、その後はさっきも言った通り、映画が終わって、何事も無くお開きになりましたよ、だから、あんまり言いたく無かったのに」

 まだ笑い続けている阿奏に気を悪くした誄は帰ると言い放つと席を立ち上がると教室の出口に向かった。

 阿奏は笑うのを堪えながら意地悪く言う。

「その勢いでキスとかすれば良かったのに、意気地無しね、もしかしたらさそ」

「うるせぇー」

 逃げるように誄は教室を出ていった。

「天然と馬鹿は相性がいいのかしら、勝手に漫才が始まるのね」

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