映画
「それでまた、今まで気絶してたの?」
夕日が差し込む教室にまた、教卓の上に乗った阿奏と自分の机に座って外を眺める誄がいた。
「もしかして、気絶が好きな変態さんになった? 気持ちが良いとか聞くし……」
教卓からひょいと降りて誄に近づきながら阿奏は聞いた。
「そんな訳あるか、もうあれは悪意じゃなくて殺意だろ。このままでは殺されかねない。木曜日と金曜日にする映画で俺の生死がかかっているのか……」
阿奏は口元に人指し指を持ってきて、少し考える。
「確か、木曜日はハートフル溢れる人情物でその次も同じだったかな。確か来週の金曜日くらいがスプラッターで血肉が踊る猟奇物だった気がする」
誄の顔から血が引いていった。
「その日は休むことにする」
「御愁傷様。そんなあなたにこの映画のチケットをプレゼント。好乃々ちゃんと一緒に見てきなさい」
阿奏は映画のチケットを誄に押し付ける。
「何故その流れから、宿敵である映画を見に行くことになるんだよ」
阿奏は眉間にしわを寄せて、誄の顔に近付く。
「嫌なの?」
「……喜んで」
阿奏はにっこりと微笑み、急に顔を赤くすると直ぐに誄から離れると誄からそっぽを向いた。
「ちなみにチケット明日までだから、校門で待ってる好乃々に会ったら、直ぐに誘うのよ」
そう言って窓から見える校門を指差す。
指先の先には、じっと待っている好乃々の姿があった。
「彼女を待たせて置くのは彼氏として不味いのでは?」
誄は言われるままに、校門に視線を向け好乃々を確認すると、慌てて席を立つ。
「ちょっと行ってくる」
阿奏は誄が教室を出て行くのを見送ると、また校門にいる好乃々に視線を戻す。
「誄を待ってるなんて決まって無いのに、早とちりだったらどうするのかしらね」
一分もしないうちに校門まで一目散に走る誄の姿を阿奏は確認する。
誄は全力疾走した後のせいで息が上がっており、肩を激しく上下させていた。
好乃々はそれを心配して不安そうな顔して近寄る。
「さすが、誄ね。馬鹿だわ」
教室に阿奏の声が響く。
息を整え終えた誄は大きくジェスチャーをして必死に何かを伝えようと奮闘している。それを無表情で見詰める好乃々のシュールな様を見て、阿奏はケラケラと笑う。
無表情な好乃々に更に動揺して、どんどんジェスチャーが大きくなる。それでも、無表情な好乃々。
阿奏はゲラゲラと笑う。
限界を迎えた誄は肩を落とし、つい先程に阿奏から貰ったばかりの映画のチケットを差し出す。
それを好乃々は凝視して、自分を指差すと無表情の顔のまま少し顔を赤めると、チケットを受け取り凝視する。
「一様成功したみたいね」
まだ、笑いながら阿奏は言う。
誄と好乃々はそのまま一緒に校門から去り、阿奏からは見えなくなってしまった。
「あぁ、久しぶりに笑った。笑い過ぎて涙出てきた」
ごしごしと涙を拭くと、阿奏も教室を後にした。
話が短いのはごめんなさい