彼女
杵家好乃々、彼女は天才だ。
頭は良く常に定期テストでは上位にいたし、運動神経も良いし、何事も上手くこなした。
誰に聞いても好乃々のことを凄い人物だと答えた。
容姿は、長い黒髪が良く似合う顔立ちで、誰に聞いても美人だと答えた。
そんな才色兼備の持ち主に告白した誄は浮かれていた。
キスをした後、我に返った好乃々の顔は、恥ずかしさの余り赤く染まっていた。
好乃々は顔を伏せると小さな声で
「私もよ」
と答え、更に顔を赤くさせ脱兎のごとく屋上から逃げていった。
また一人取り残された誄は、そのまま学校を後にし、家に帰った。
自室で一息ついてようやく、実感が沸いてきたのか、テンション高らかにペットの上でごろごろとしていた。
その後、また眠れず朝も早くから学校に登校している現在に至る。
「やぁ、元気か少年。気持ちが悪いほどテンション高らかだね」
昨日と同様に思い切り背中を叩いて阿奏が声をかけてくる。
「その様子だと良かったみたいね、じゃあ先行くね」
それだけ言って、阿奏は走り去っていくのを誄は見ながら高校に向かった。
また、朝早く登校したせいで昨日のように疲れて寝ていた所を非迎に叩き起こされ授業を受けさせられた。
非迎の授業は数学が嫌いな誄にとって、眠気を誘う授業なはずだが何故か非迎の授業は、頭に残る不思議な授業だった。
昼休みになり、誄は今日は何を食べようか考えながら席を立ち上がろとする。
「誄。ちょっとおまえもこれに参加しろよ、俗に言う人気投票だ、一回やってみたかったからやってみた」
そう言って悪友、武澤澪が沢山の名前とその隣に沢山の正の字が羅列された紙を渡してくる。
「武澤はすぐ影響されすぎだろ、これこの前読んでた漫画のやつのパクリだろ?」
そう言いながら誄は名前を見渡す。誄が見知っている所では、伊野阿奏や華々出幹菜の名前があったが、知らない名前の子も大勢いた。
「これだけか?」
誄は少し不思議そうに尋ねた。
「まだ四分の一に聞いてないから大体は出揃ったとおもうぞ、何なら新しい名前を足しても良いぞ」
「いいよ、面倒だし」
誄は机から鉛筆を取り出すと阿奏の名前の隣の欠けた正の字に一本足して完成させた。これで阿奏の正の字は四十個完成したことになる。
「ありがとな、じゃあ、俺はまだ票を入れていない健全な男子共をハンティングしてくる」
武澤はスキップしながら教室を出ていった。
「私は悲しいです、誄さん」
誄はぽんと肩を叩かれ振り向くと幹菜が大変悲しそうに誄を見つめていた。
「誄さん、私は大変悲しいです、私という者が在りながら他の人に票を入れるなんて……」
「そんな設定は初耳なんだが」
誄は嫌な予感を感じ慌て否定する。
「問答無用。成敗」
有無を言わさず、幹菜は誄の前にすばやく移動すると手を顎に当てて、元気よく万歳をし誄の頭を大きく揺らすと、誄は机に体を預け動かなくなった。
幹菜は両手を挙げながら、脳内で沸いている声援に答えてそのまま教室を出ていった。