告白
放置してました。すみません
誄は阿奏に後髪引かれながらも、教室を出て階段に向かう。
誄の教室は階段の隣にあるためドアを出て右に行けばすぐ階段があり、十秒もかけずに屋上にたどり着けるが誄には遠い距離に感じた。
階段を一歩上がる度に不安と恐怖が身体中を満たしていく、それほどまでに阿奏の様子は異常だった。
階段を上りきった誄の目の前には関係者以外立入禁止と書かれた紙が貼られた冷たい鉄のドアが立ち塞がる。恐る恐る手を伸ばしドアノブを回すと普段は回らないはずが回る。
誄は覚悟を決め一呼吸置いてドアを思い切って開くと、町が一望できその光景を眺めている少女の後姿があった。
振り返りながら少女は言う。
「阿奏、遅かったわね。用って何……え!」
振り返った少女は好乃々だった。
「なんで、あんたがここに来るわけ!」
好乃々は慌てて逃げようとするが、誄が階段の入り口にいるため身動きも出来ず睨みつけ威嚇する。
「もしかして、あなたが阿奏を使って私を呼び出したの?」
瞬きもせずにこちらをじっと見つめて言う。
「俺も阿奏に呼ばれて来たんだよ」
少し考えるそぶりした後に、そう……とだけ言って誄の横を通りすぎて屋上から出て行こうとする。
「ちょっと待ってよ」
帰ってしまいそうになる誄の手を慌てて手を掴んでて足を止めさせる。
「何? 私お金なんて持ってないわよ。他の人を当たってくれる? それとも気に食わない人をぼこぼこにして悦を感じる変態さんだったのかしら?」
誄は動揺して口を滑らせる。
「違う! 嫌いじゃないむしろ好きだよ」
口をぽかんと開けて唖然と誄を見つめる。
「今なんて……」
誄は勢いで言ってしまったことを後悔しながら言葉を続ける。
「好乃々のことが好きだ」
好乃々は何も言えず、口をパクパクさせながら、顔を唖然とさせ、誄のことを凝視する。そして、徐々に言葉の意味を理解していき、顔を赤くして、叫ぶ。
「嘘つかないでよ、これで呼び出して襲うつもりだった癖に」
右手を突き出し、くしゃくしゃになった紙を誄に突きつける。
「それは呼び出しじゃなくて、ラブレターのつもりだったんだけど……」
好乃々は突き出した、手を引っ込め、しわくちゃになった紙を懸命に伸ばし、穴が空くほど見続けた後、その鋭い目線を誄に向ける。
「これのどこが恋文なのよ! なんで一文なのよ。誄は私に対する想いはこんなものなの? 百歩譲って一文は勘弁してあげるとしても、語尾がどうして命令形なのよ。せめて、来てくださいでしょ」
好乃々は捲し立てて、誄を問い詰める。
「……そのほうがワイルドでカッコいいかなと……」
誄の言葉を聞いた好乃々は肩透かしを食らい、怒る気もなくしたのか、半ば飽きられた口調で言う。
「あなたは馬鹿なの? まぁ馬鹿なんでしょうね」
言い終えるとくるりと回り誄に背を向けて、深呼吸をして、今度はトーンを落として言う。
「それで、本気なの?」
「えっ」
誄の拍子抜けした返事に一拍置かず、言い直す。
「えっじゃないわよ、さっきの告白は本気か聞いてるの」
「本気だよ。好乃々のことが好きだ」
誄からは好乃々の表情は見えない。
「私はわがままだよ、だからきっと誄のこと振り回すよ。それに、私を大事にしてくれないと怒るわよ。そこらへんの一般人と同じ大事にされかたじゃ問題あるのよ。腫れ物を触るように丁寧に、そうね。神様仏様を崇めるぐらいの勢いじゃないと私は無理よ。それでもいいの?」
「当たり前だよ」
誄は即答した。
好乃々の顔は誄からは見えない、しかし、体を震わせているのは分かった。
「じゃあ、最初の命令よ。キスして」
「えっ……」
突然の命令に誄は固まる。
「やっぱり嘘だったのね、好きとか――」
誄は好乃々が言い終える前に、両肩を両手で掴み好乃々を此方に向かせる。
好乃々は泣いていた。
誄は構わず好乃々にキスをした。
放課後に紅く染まった屋上での出来事。これが誄と好乃々の始まりの話。