一人
「それで今まで死んだように寝てたわけ?」
静まり返った教室に教卓に腰掛けた阿奏の声が響く。
自分の机に座って外を見ながら、少しふてくされて言う。
「寝てたと言うより気絶だろ。危なく記憶喪失で異世界に飛ばされるかと思ったよ」
教室には阿奏と誄の二人だけ、時間は夕方、外は紅に染まりその光が教室も紅に染めていた。
教卓から降りた阿奏は誄の側まで歩き近寄り微笑しながら言った。
「幹菜が謝ってわよ。ちょっと昨日見た映画の真似して、てぇいとしたら動かなくなって驚いたけど、でもきっと生きてるだろうと言う憶測で見てないことにしたらしいよ。悪気は無かったら許してね、だそうよ」
「悪気はないのは分かったが悪意があるのは分かったよ」
「それが伝わったのなら十分よ」
阿奏それだけ言い終わると微笑を崩し真剣な表情を作り、教室の空気を変える。
「本題に入るわよ。屋上に行きなさい。それだけよ。これが最後かもしれないから悔いは残さないでね」
全く意図が把握できなかった誄は露骨に表情を曇らせる。
「屋上に行く意味が分からないし、鍵がかけてあるから入れないから無……」
「いいからっ!」
大声で誄の言葉を遮りより表情を真剣にさせた阿奏に対して誄はこれ以上何も言えなかった。
阿奏は誄との目線を外し俯いて喉から声を振り絞ってか細い声で言った。
「いいから……いってよ。おねがいだら……」
「……分かった」
それだけ言って誄は教室から出て行った。
「本当に私って馬鹿だよね。お節介で意味なくて……。本当にいい人すぎるよ。本当に……」
薄暗くなり始めた教室で阿奏は震えながら自分に言い聞かせるように一人呟いた。