結果
所持金も無くなり、時間も無くなったため、幹菜達に合流することを余儀なくされた誄だったが、走り去って行った幹菜達の行方など分からず途方に暮れていた。
全て無かったことにして、帰ってしまいたい気持ちがあったが好乃々という大事な存在がいるため選択肢など無く、さまようしかなかった。キョロキョロと周りを見渡しながら歩いていた誄は「よっ」と後ろから声をかけられ、振り返るとお馴染みの三人が笑顔でいた。
「それでは、コンテストの開催です、誄さん。まずはそちらからどうぞ」
突然開始されたコンテストに泣きたくなる思いをこらえながら、付き合うしかないことは百も承知なので先程買ったばかりの指輪を差し出す。
それを見た好乃々は目を見開き、幹菜を見るが意に介さず進行を続ける。
「というわけで閉会式に移りましょう。今日はお疲れ様でした、解散」
短い挨拶とともにお開きになるという流れに、誄は慌て口をはさむ。
「まだ、そっちの物を見てないだろ。勝手に終わらすなよ」
その問に対して幹菜はさも当然とこう答えた。
「あら? 私は何も買ってないわよ」
あまりの突拍子もない回答に誄は―――
「驚いた?」
誄は負けを認めるしか無かった。幹菜が出した条件は驚ろかせたら勝ち、ただそれだけである。ショッピングスタートと言う最後の掛け声にミスリードされてしまい、何か買わないといけないと勘違いをしてしまっていた。そこをまんまと、突かれてしまったのだ。
「まぁ、そういうわけだから、解散よ。罰ゲーム楽しみにしておいてね」
言い終わると同時に幹菜の後ろにリムジンが止まり、運転席から降りてきたメイドがドアを開け、幹菜は乗り込む。メイドがドアを閉めた後、こちらに向き直るとぺこりとお辞儀をし、リムジンに乗り込み走り去って行った。
残された誄たちは短い沈黙の後、誄が呟く。
「帰るか」
その呟きに各々は賛成の言葉を続けるのであった。
電車に乗り、住宅地に着く頃にはもう日が暮れて、街灯が点っていた。
歩きながら、今後のテストを対策のための算段を誄は阿奏に頼みこんでいた。 渋々だが阿奏は教えることを了承し、私も頑張ると好乃々が妙な所で張り切っていた。
しばらく談笑しながら歩いて、三叉路まで来た、阿奏の家と誄の家のルートはここで別々となる。
それじゃあと手を振って阿奏はさようならを告げ、去って行った。しばらく、笑顔で手を振り返していた誄だったがある重要なことに気付いた。誄の笑顔の後ろにいる笑顔に。
別にホラーという訳ではない、他人から見れば、好乃々が阿奏に笑顔で手を振っていただけである。
しかし、誄にとって久しぶりの。
ふ た り っ き り
である。
単純で明快な誄は三秒ほどでテンパる。あーだこーだ考えても時間がすぎていくばかりである。
「あ、あの」 不甲斐ない誄に対して好乃々は頬を赤く染めて言う。
「これ良かったら……プレゼント」
ぶっきらぼうに突きだされた手にはラッピングされた小さな箱が握られていた。誄は受け取り、開けていいか尋ねてからゆっくりと箱を開ける。
そこには、どこかで見覚えのあるシンプルな指輪があった。
「私、あんまりセンスとかそういうの分からなくて、あの……、幹菜さん達と一緒に選んで貰ったものなのだけど良かったら……」
そこでようやく、幹菜の意図が分かった気がした。
ポケットをまさぐり、幹菜に無理矢理押し付けられた指輪を好乃々に渡す。
誄にはサイズは合わなかった、他の誰かには合うはずの指輪を。
指輪を受け取った好乃々は何の躊躇も無く左手の薬指にはめた。
サイズは、やはり合っていたようで、満面の笑みで好乃々が着けた指輪を誄に見せる。
「似合ってるね」
指輪に対して言うセリフなのか疑わしい言葉に、好乃々は照れて顔を赤くして、ありがとうと下を向く。
照れ隠しのために、また明日と好乃々は走り去って行ったのだった。
一人残された誄は今日は大変だったと思い返し、ある重要なことに気付くのだった。
好乃々に貰ったこの指輪をどうするかという最大級の難問に。
忘れてたわけではない
書けなかったのだ
技量的な意味で
技量があがったとかそういうことはない






