日常
昼間だというの真っ暗な部屋。窓はカーテンで締め切り、さらに、その上からガムテープを貼り、外からの光は一切もれてこない。壁や天井には板を張り付け、隙間という隙間を埋め、少しの隙間さえ出来ればガムテープで塞いであった。
異様な部屋の中央に布団をかぶって、ガタガタと震えている男がいる。
「見るな、見るな、見るな」
男はそう呟き続けた。
「へぇ、最近物騒になったわね」
不良に絡まれた次の日の昼休み。誄の席の近くで阿奏はカレーパンを食べながら呟いた。
「てっきり、怒ると思ったのに素っ気ないな反応だな」
教室から出ていった後のことをしつこく聞いてきた阿奏に怒られることを覚悟して話した誄にとって拍子抜けの返答だった。
「だってあの子は強いことは知ってたし――あっ、好乃々」
話を中断して、教室に入ってきた好乃々に手を振り手招きをして呼び寄せる。
「なんで、好乃々が」
誄は驚きの声をあげ、阿奏を見る。顔はにんまりと笑みを浮かべ、いたずらっぽくウィンクを飛ばし、
「呼んどいた」
そう言い放った。
「阿奏、用って何?」
「一緒にご飯を食べましょう、さぁ食堂に向かいましょう。ねぇ誄」
誄と言う言葉を聞いた好乃々は視線を誄に視線が移る。
「なっなんで、るっ誄がいるの」
好乃々は動揺して後退った時に、机に足を引っ掛かけ倒してしまい、教室に騒音を響き渡す。
騒がしかった教室は一瞬で静まり返り、教室中の視線が好乃々に集中する。
好乃々の顔は瞬く間に沸騰したように真っ赤になり、
そして、倒れた。
倒れた好乃々に教室がざわめく、誄は慌て好乃々を抱き抱えて、保健室に向かった。目を丸くして呆然としていた阿奏も慌て後を追った。
保健室の中に入ると誰もいなかった。
誄はベッドに好乃々を寝かせ、隣にある椅子に座ると阿奏も保健室に入ってきた。
「あれ? 先生いないの?」
「みたいだな。しかしいきなり倒れるとは頭とか打ってなかったよな」
誄は好乃々を心配そうにじっと見つめるてから、ちらりと阿奏を見た。妙な静けさが保健室に満たされる。
それを破るように、保健室のドアが勢い良く開く。 息を切らせた非迎が保健室に入ってくると、好乃々が寝ているベッドに近寄り、好乃々の姿を確認すると安堵のため息をついた。
「良かったなんともないみたいね」
誄と阿奏は二人顔を見合せ、おずおずと阿奏が非迎に声をかける。
「あの……。どうして非迎先生が飛んできたのでしょうか。保健の先生は一体……」
そこで初めて二人の存在に気付いたのか、驚きながら早口で話す。
「えっ。あぁ……そのえっと……実は知らなかったと思うけど、実はあれなの。そうそうあれ。実はうん。うん。納得だね…。実は保健室の先生は旅に出たの。だから数学と保健が出来る私が変わりに来たわけ。校長がそう言ってたでしょ。忘れたのかしら?」
阿奏は顔をしかめながら必死に思いだそうとする。
「そういえば、そんなこと言ってたような……」
「言ってたわ」
非迎が煮えきらない阿奏に対して、断言した。
「そういえば言ってた。例にも漏れず誄はその時、居なかったけど」
思いだそうとしている誄に対して阿奏は言った。
話をしているのが五月蝿かったのか、渦中の外が嫌だったのか、突然うめき声を上げて上半身だけ起こし飛び起きる。
「だっ大丈夫? 落ち着いて」
荒い息をしながら視線を落とし、息を整えている好乃々に対して、誄は声をかけ落ち着かせる。
「ごめんなさい。ちょっとびっくりする夢を」
好乃々はそこで下げていた視線を上げ、周りの状況を確認するため視線を動かすと、非迎で視線が止まる、それに答えてなのか非迎はひらひらと手を振る。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
好乃々の絶叫が校内に響き渡った。