始まり
感想、面白くなかったなどなんでもいいのでください。
ここが特に○○だったとかだとよりありがたいです。
放課後の体育館裏はすでに薄暗いというのに、そこに一人の学生服をきた青年が立っている。容姿は髪の毛は黒色で身長はそれほど高くなく、少し幼い顔つきをしている。
そわそわと周りを気にしながら、ため息を吐き、そして携帯電話で時間を確認するそれを一時間ほど何度も青年は繰り返していた。
青年が体育館裏訪れた一時間ほど前には、運動場から聞こえる活気ある声で騒がしい印象を受けていたが、数分前には声は聞こえなくなり、辺りが静になってしまっている。季節は春が過ぎもうすぐ夏に本番だが、少し冷えてきて肌寒い。肌寒さと静けさが青年の心を冷たくしていた。
青年は何十回目と繰り返したため息より大きなため息をつくと、やっぱりもう来ないかとひとりごちて、体育館裏を去ろうとして体を反転させて動きが固まる。
青年の視線の先には、体育館の角から頭だけ出してじっとこちらを見ている彼女と視線があったからだ。
ロングの黒髪が良く似合う、青年が一時間も待っていた杵家 好乃々だった。
二人は数秒間固まり続け、耐えきれなくなったのか好乃々はゆっくりと体育館の角に頭を戻すが、数秒後好乃々はもう一度頭だけゆっくりと出す。
「……」
「……」
体育館裏には非常に微妙な空気が流れていた。
数分後観念したのか耐えきれなくなったのか、
「須藤 誄(すどう るい)! これあなたが書いたもので間違いないわね?」
とそう言って好乃々は体育館の角から動こうとせずに右手だけ突き出し、しわくちゃになった紙を誄に見せる。一ヶ月の間、誄が考えに考えぬいて書いたラブレターは無残な姿になっていた。
「……そ、そうだけど」
「あなたしかいないの?」
周りをキョロキョロと見渡しながら聞いてくる。
「そ、そうだよ。他人に着いて来てもらうほどヘタレなつもりはないよ」
「そう……、分かったわ。その度胸だけは認めてあげる。でも私に喧嘩売ったことは後悔させてあげる!」
言い終わるか終わらないうちに、誄に向かって姿勢を低くして突進してくる。体育館の角で隠れていた左手には金属バットが握られ、それを地面に引きずりながら一瞬で誄との距離を詰める。
金属バットの間合いに入った好乃々は、片手で握っていた金属バットを両手で握り直し走っていきた勢いを利用して振り上げ、誄の頭に向かって振り下ろした。
体育館裏に甲高い金属音が辺りに響き渡る。
体育館裏はえぐれた土と間一髪で避け尻餅をついてしまった誄、地面を力の限り叩いてしまい、手が痺れて少し涙目な好乃々という状況になっていた。
「と、とりあえず、落ちつこう。話合えば色々見えてくることもある」
なんとか好乃々を説得しようと誄は試みるものの、問答無用と涙目の好乃々がバットを振り回しながら近付いてくるのを、慌てて後ずさる。
「あっ!」
好乃々が驚きの声を上げた瞬間、誄の顔を金属バットがかすめ、遠くに飛んでいった。
「うわっ!」
手が滑って飛んでいってしまったバットに気を取れたのか、好乃々は自分の左足に右足を引っ掛けてしまい、そのまま体勢を崩して誄に激突してしまう。
誄の胸に激痛が走りその衝撃に耐えれず地面に倒れこみ、好乃々は誄の上に倒れ込んでしまった。
二人は固まっていた。理解できない状況に立たされると人はそれを拒もうとして現実逃避を起こすことがしばしばある、二人は正にその状況に至っていた。
お互いの体が密着し、お互いの唇と唇も密着していた。簡単に言うと「キス」をしていた。
二人はようやく自分達の状況が理解できたのか、二人とも顔が真っ赤に染まり脱兎の如く好乃々は誄から離れ、一定の距離を空ける。
誄もすぐに立ち上がり、少し離れた距離にいる好乃々を見ると背を向けてプルプルと震えて立っている。
気まずい空気を打ち壊すように好乃々は振り返り凄まじい眼光で誄を睨むと
「ばぁぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁぁ」
と叫びながら一瞬で距離を詰め誄の腹に鉄拳を叩き込んだ。
「ファーストキッスだったのに!!!!!」
泣き叫びながら好乃々は体育館裏から逃げていった。
体育館裏には、口から泡を吹いて失神している誄と好乃々が躓いた拍子に落としてしまった誄が一ヶ月かけて考えた
好乃々へ
今日体育館の裏に来い
とだけ書かれたラブレターが落ちていた。
このラブレターを呼び出しと勘違いした好乃々はもう体育館裏にはいない。