サービス終了の日まで
「では、解決したのではないですか。その物語どおり私に『ざまぁ』されることがないように、クラレンス様は行動を改められたということですよね? 愛人のお三方とは別れたことですし。使用人にも注意してくださると助かります」
「いや、別れ話に納得していない愛人がいる。それに『先がない』と言ったのは、君にざまぁされるからではないんだ。この世界は、あと三ヶ月で消えて無くなる。だから君に、自由に生きればいいと言ったんだ」
「あと三ヶ月で世界が消えて無くなる? それはいったい、どういう理由で」
「サービス終了だよ。『ざまぁ令嬢物語』はまったく人気が出ず、大赤字で早期サ終。運用期間はたった三ヶ月。売り切りのアプリだったらまだ良かったのに、課金ソシャゲーだったからね。サーバーごと無くなって、もうどの世界にも存在しない。ざまぁスキルを高めるためのアイテムガチャも渋かったし、そもそも王道の恋愛ゲームならまだしも、奇をてらって、ざまぁものってね。早期サ終の一因は、SNSで酷評しまくった俺にもあるのかな。その罰として、この世界に、クラレンス・ヒドルスに転生したんだろうな。皮肉なもんだ」
もはや説明する気もなくなったようで、クラレンス様は口早に意味不明のことをたくさん述べられた。
「クラレンス様……」
うわ言のような呪いのような言葉のすべてを理解することは叶わなかったが、クラレンス様の絶望と悲しみはしっかりと伝わってきた。
おかわいそうなクラレンス様。
「同じことを言ったら、愛人たちには気が狂ったのかと思われたよ。君もそう思うだろうね。そんな目で見ないでおくれ。いや、そう思ってくれて結構。ここを出て行って、好きに生きるといい。『君を愛することはない』と言った、あれがゲームの冒頭、始まりだ。サービス終了までは三ヶ月だ。この世界はあと三ヶ月で強制終了する」
「よく分かりませんが、クラレンス様。その物語が終わるからといって、私たちの生きるこの世界が、同じように終わるとは限らないのではありませんか?」
そう信じたい。
「もうすでに、その物語とは別の道を歩んでいるのでしょう? 私たちは。ならば同じように幕を閉じるとは思いません」
「君は、サ終が何たるかを知らないからだ。切りよく幕を閉じることも許されず、第一章と銘打ったまま、終幕どころか第二章も始まらずに打ち切られてしまうんだ。続くと信じていたものが、ある日突然終わりを告げられる」
「それが怖いのですか」
「ああ、知っているだけにね。怖くてたまらない」
「では、私が一緒にいて差し上げます。三ヶ月が過ぎるまで。できることを精一杯やっていれば、神様は必ず見ていてくださいます。私はそう信じます」
クラレンス様は薄く笑った。
「ふ、おめでたいな」
「はい」
私はにっこり笑った。
クラレンス様を怯えさせている「サ終」とやらに打ち勝ってみせると、闘争心さえ湧き上がる。
翌々日、「どうしても別れない!」と泣き散らかしながら押しかけてきた愛人3号とも戦った。
態度の悪い使用人にはクラレンス様が注意をして、大事な奥様として私を敬うよう、隅々まで言い渡した。
クラレンス様自身、私をとても大切に敬ってくれるようになった。
せめてもの償いだという。
「でも引き止める気はないよ。いつでも好きなときに出て行ってくれて構わないからね」
優しくなった分、ひどい言葉だと感じる。
「いくらそう仰っても、出て行きませんよ。サ終までお側にいると約束しましたので」
「ありがとう。じゃあその後は」
「三ヶ月が過ぎたら、お教えしますね。もうじき世界が終わるとお嘆きのクラレンス様には、お伝えできません。ショックが大きすぎますので」
先月から月のものが来なくなったということを。
心当たりは、あの一度きりだ。
この子のためにも、私は三ヶ月後の世界も生き抜いてみせる。