成すべきこと
出かけてくると言い置いて、クラレンス様が戻らなくなって一週間。
部屋の外で聞き耳を立てていたメイドがいたらしく、「奥さまがさっそく離縁を言い渡された」という噂で持ちきりだ。
「やっぱり可愛げがないのが、いけないわね」
「大体、旦那さまの好みじゃないもの」
「そもそもお金目当てってのが、ありありだものねえ」
どれも当たっているだけに腹立たしい。
そもそも、全部分かっていて結婚したんでしょうが。
私が可愛げのない、いけ好かない女であることも、公爵家の提示した援助金に釣られたことも。
大金を餌にして釣ったのはそちらだ。
そうでもしないと釣れなかった魚だ。
釣っておいて馬鹿にするなんて、腹立たしい。
自他ともに認める「お金目当て」のくせに、腹立たしさのあまり出て行けなかった。
「金がほしいならくれてやる」と、あんな風に言い放たれたままで、おめおめと出て行けるものかと。やはり私には可愛げがない。
それに引っかかるのは、クラレンス様が最後に言い捨てた言葉だ。
「どうせ先はないんだ」
どういう意味だろう?
ずいぶん自棄っぱちだった。
言葉どおりに受け取るなら……余命が少ないという意味に思える。
クラレンス様の余命が少ない?
まさか。
複数人の女性と同時進行で遊べるほど、元気いっぱいだと思っていたのに。
急に病んでしまったのだろうか。
そして余命が残り少ないと知って?
家の体裁のためだけに結婚をしたことも、急に馬鹿らしくなったのだろうか。
「でももしそれが真相なら……」
クラレンス様がすべきことは、コレではない。
公爵家の一人息子の余命がわずかだとすれば、すべきことは一つだ。
「子作りいたしましょう!」
一週間ぶりに帰宅したクラレンス様をつかまえて、真剣に提案した。
外でお酒を引っかけてきたらしく、焦点がぼんやりしていたクラレンス様の目が見開いた。
「なっ!?」
「もう先がないと自暴自棄になられる前に、成すべきことです。この際、好きだの嫌いだのは脇へ置いてください」
呼びつけた寝室で、ほろ酔いのクラレンス様に勢いよく抱きついて、後ろのベッドへ押し倒した。
酔っているせいか、いとも簡単に倒されて、私に馬乗りされるクラレンス様。
ひどくびっくりしている。怯えさえ感じさせる表情を見下ろして、おかしなことに可愛いと思えた。
いつもキッチリと整えている艶やかな黒髪は乱れ、ボタンを少し開けているシャツもよれている。
無防備で怯えているクラレンス様は、なぜか可愛かった。
ふ、と思わず笑みが漏れた。
「お可哀想なクラレンス様」
メイドたちにもそう同情されていた。
「好きでもない、田舎の貧乏な子爵令嬢にしか、お嫁に来てもらえなくて。お可哀想」
言いながら、シャツのボタンを一つずつ外していく。
その手をぱっと掴まれた。
そのままぐるりと体を反転させて、今度は私が見下された。
「君の煽りスキルがこれほど高かったとは、知らなかったな。後悔しても知らないぞ」