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王国の王太子からの手紙を読む

「読んでみようかなぁ。サシャが戯言なんていう手紙の内容気になるし」



 僕とルズノビア王国の王太子であるザガラは僕が聖女になった時からの付き合いだった。



 サシャと出会ったあの日、ザガラが僕に恋心を抱いていたらしいことは分かった。けれどなんだか暴走して僕を断罪したのは彼である。

 僕はその結果、こうしてこの帝国でのびのびと過ごしていられるので逆に断罪してもらえたことに逆に感謝してもいいかなと思っている。別に女の子のふりをすることに対してそこまで嫌な感情とかはなかったよ。偉い人が言うからそういうものかなとかそのくらいしか考えてなかったしね。




 とはいえ、やらなくてもいいのならば一つも偽ることなくただの僕としていられる場所の方が楽なのは当然のことだよね。

 王国だと聖女らしくあってほしいって声が大きすぎたからさ。僕が僕らしく居ても何一つ小言を言われない帝国って気を抜けて楽だよ。何よりサシャがいるし。



 サシャっていう素敵な女の子の傍でのんびり楽しく過ごせられるって幸せなことだしね。

 そんなことを思いながら僕はその手紙に目を通してみる。



「お、おおう……」



 思わず変な声が漏れてしまったのは、その手紙に書かれていることがなんともまぁ……びっくりするようなことだったから。

 僕の反応を見て、目の前に座るサシャは眉を顰める。




「このような戯言、やはりウルリカは読まぬ方がよかったか? すまぬな、念のためウルリカ本人にも確認しておきたくてな」

「サシャが謝る必要はないよ。ちょっと僕も予想外の内容すぎてびっくりしたっていうか……これって、あれだよね、僕に対する恋文的なものだよね」



 僕が何とも言えない声をあげてしまったのは、なんていうか……そこに書かれていたのが僕に対する恋文のようなものだったからだ。というかさ、ザガラは僕が男だって知ったわけじゃん。僕が同性だから騙されたとか、そうやってなんか傷ついていたらしいっぽいのは断罪の時の様子から分かる。

 しかしそれでも自分で僕のことを断罪しておいてなんで恋文?

 僕のことがザガラは好きみたい。しかもなんか、親愛といった可愛いものじゃなくて、恋愛的な意味で。



 いや、うん。僕は可愛い。それは自他認めることで、可愛い僕にドキッとする気持ちは分かるよ。それでまぁ、僕は女の子が好きだけど、男で男が好きな相手がいるのも分かる。そういう人がいるのは知っているし。でもなんか、こう……キスしたいとかさ、そういうこと書かれても僕はぞわぞわしちゃう。だって僕の恋愛対象、女の子だもん。そういう性的な目で見られるのはちょっと、うん。好きな相手からならともかくさ。あと純粋に好意を伝えてくれるのならばまぁ、受け止めて断るけれど!




 ただこの手紙、なかなかアレなこと書かれているんだよ。

 先ほど言ったようにキスしたいとか、多分、僕とそういう関係になりたいっぽい。いや、しかもなんか僕のことを正妃にしたいとかよく分からないこと書かれているし。僕が男だって理解した上で正妃って何……? そもそもザガラは王太子って立場なんだからちゃんと女の子と結婚して子供を成さなきゃいけないでしょ。




 そのことに関しても僕を正妃にして、側室を形だけとるとか。僕のことを愛しているとか、謝るから帰ってきてくれとか……。うん、僕が男でも大好きなことは分かったけれどなんていうか、僕の気持ちを一切合切無視していてまるで決定事項とでもいう風に書いているのが怖い。

 僕がまるで正妃になることを喜ぶと思っているみたい。それでいて自分が謝れば僕もブリギッドも王国に帰るとそんな妄想をしているようである。

 なんだろう、王太子だからこそ今まで誰かから拒絶などされたことがなかった感じなのかな。だからこそ自分が望んでかなわないものがあると思わないというか。




「なんていうか、僕の意見、全くきかない感凄いね。それに僕は普通に女の子が好きだしなぁ。同性にキスしたいってそういうの向けられてもぞわぞわするんだけど。なんでザガラは僕がそういうの受け入れるって思っているんだろ?」

「そうよのぉ。ウルリカは幾ら可愛くても男だからの。この王太子、ウルリカとあわせたら暴走しそうだのぉ」

「するかなぁ? 僕が拒絶したら納得してくれたらいいんだけど」

「こういう自分が正しいと思っているタイプは話を聞かん輩も多い。こちらにウルリカを迎えに来たいということだが、それに関しては断りの手紙を準備しておる」

「うん。ありがとう。サシャ。僕はサシャと一緒に居るのが楽しいから、このまま帝国に居たいなって思っているから断ってもらえると嬉しい」

「我もウルリカが我が国に居た方が楽しいからのぉ」



 僕が帝国に居た方が嬉しいとサシャが言ってくれる。僕はその言葉が嬉しい。




「ただし、この文面を見る限り我が断ったところで納得するかどうかは分からぬ」

「……んー、どうだろ? 僕の言葉で断りの手紙添えていい? ザガラは僕の文字は見慣れているはずだからそれで納得するかなって」




 ザガラは僕の文字を見慣れているので、僕が書いた手紙が代筆ではないことは一目で分かるだろう。それで僕が王国に戻らないと明確に意思を示して納得してくれれば一番良い。




「ではそうするか。それでもウルリカを取り戻すなどと戯言をほざくようなら、我は実力行使するつもりである」

「うん。それでいいよ。だって僕が嫌がっているのに連れ帰ろうとするなんて誘拐と一緒だもん。流石に納得してくれる……と思いたいけれど」




 ザガラは僕のことを断罪したとはいえ、基本的にはそこまで悪い人間というわけではない。なんか断罪の時は暴走していたけれど。それでこの手紙も凄く暴走しているようには見受けられるけど……まぁ、冷静になればちゃんと受け入れるのではないかとは思っている。



 それでも僕の意思を無視するようならば、サシャに実力行使をされても仕方がないと思うしね。


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