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断罪されたけれど、僕に女であることを強いたのはこの国の上層部です。

「偽聖女ウルリカ!! 貴様を今日この時を持って解任する!!」



 今日は他国の重役も招いたパーティーの当日。僕、ウルリカはこの国の聖女の地位についているためそのパーティーに参加していた。



 それでだ、何故か突然偽聖女呼ばわりされている。それもこの国の王太子に。



 僕の暮らしているルズノビア王国は、聖人を有する神聖な国である。守護精霊がその聖なる子を選ぶ習わしで、僕が今の時代の聖人である。

 僕はこの国の聖女というだけあって、パーティーでは沢山の人に話しかけられる。加えて自分でいうのもなんだけれど、僕はとてつもなく可愛いので余計に寄ってくる人は多い。

 目の前の王太子も僕の可愛さにやられて、僕の元をよく訪れていたのだが突然どうしたのだろうか?




「偽聖女ってどういうこと? それに解任って?」




 僕は聖女になる前は、親もいない孤児だった。そして僕の暮らしていた孤児院は劣悪な環境で、酷い暮らしだった。まぁ、僕が聖女になってからはその孤児院の環境も改善されていたけれど。

 聖女を解任されたらまた苦労した暮らしになるのではないか、と僕が心配しているのはそれだけである。



 他の国ではどうか知らないが、この国では聖女には金銭的な報酬はない。衣食住は十分に与えられているし、欲しいものは言えばなんでも手に入ったので僕は今の暮らしには大変満足していたのだが……、この暮らしがなくなるならどうしようか? 解任されるならこれまで働いた報酬として何かもらえたりしないかな?

 ちなみに王太子には前にため口でいいって言われたから、ため口で話している。聖女の地位はこの国で高いから、大抵の人にはため口でいいから楽。




「貴様はその可愛らしい顔で俺たちを騙していただろう!!」

「騙したって何? 僕は騙した気ないけど」

「なっ!! 貴様、俺は知っているのだぞ!! 貴様が男だと言うことを!!」




 王太子が大声でそんなことを言うから、パーティー会場はとてもざわめき出した。



 しかし僕はそれを言われた所で動じない。ただ、こういう大っぴらな場所でなんで言うかなぁというその疑問だけである。



 そう、僕は聖女という地位にはついているが男である。基本的に聖女とは女性のことをさす言葉だ。なので、僕は正しく言えば聖女ではなく聖人である。





「なんでこんな場でいうかなぁ。というか、陛下に聞いてないの? 僕は確かに男だけど、聖女を名乗っていたのには理由があるんだけどなぁ」




 正直、王太子ならばそのくらい聞いておけよって思う。もしかしたらこの王太子、陛下に跡継ぎとして認められていないのかもしれない。

 あとなんで運悪く僕の事情を知る人が居ない場で騒ぎを起こすかなぁ。王太子にこのパーティー一任されてるんだよね、確か。というかさ、僕が男だったからなんなの? こんなパーティーの場じゃなくて、個別に聞けばいいのに。馬鹿なの?





「認めるのだな! 此処にいる者たちが承認だ!! この者は我が国の聖女の名を騙った大罪人である!! キーラよ!」



 王太子がなんか僕のこと、大罪人とか言ってる。

 僕が聖女として立つことになったのは、この国の上層部が決定したからなんだけど。陛下の決定にそんなこと言うなんて、王太子の方が罪に問われそう。




 あと王太子の横に立つ黒髪の女の子はどなた? 僕ほどじゃないけれど、可愛い見た目しているね。




「この者こそが本当の聖女であるキーラである!!」

「はじめまして、皆さん。聖女であるキーラです。ウルリカさんは、男でありながら私の聖女の地位を奪っていたのです。何と罪深いことでしょうか!」




 そしてなんか寸劇みたいなのが始まった。なにこれ?




「僕は厳密には聖女じゃなくて聖人だよ? 守護精霊が認めている唯一の聖人は僕だし、ブリギッドからはそんな話きいていないよ。ザガラは騙されているんじゃないかな?」



 王太子であるザガラとは昔からの知り合いなので、騙されているのは可哀想だなと思い一応忠告しておく。ちなみにブリギッドとはこの国の守護精霊で、僕のお友達である。

 しかし僕の善意の言葉は、彼にとって気に食わなかったらしい。




「ふん! 素直に謝ればよかったものを!! 嘘に嘘を重ねおって!! 俺の恋心をもてあそんだ罪は重いぞ」



 ん? 恋心? この王太子、僕に恋していたからこそ僕が男でショックを受けてるってこと? 王太子は僕より二つ上の十八歳。まだ十代だから暴走しがちなのかもしれない。しかしこうやって他国の重鎮もいる中で騒ぐのって問題だと思うけどなぁ。頭が足りなさそう。




「なんぞ、面白いことをしておるのぉ」



 僕が王太子に声をかけようとしたとき、そんな偉そうな言葉が聞こえてきた。



 そちらに視線を向けると、金色の髪の背の高い女性が居る。僕は彼女と喋ったことはないけれど、名前は知っている。ヴァリマリラ帝国の女帝、サシャ・ヴァリマリラ様である。年は確か僕より三つ上だっけ? ついこの前、先代皇帝から帝位を継いだんだよね。

 綺麗でかっこいい女性なので、見ていて気分が良くなる。僕は綺麗なもの大好きなので、良い目の保養である。今来たみたい。僕のことをじっと見ているけれどどうしたんだろう?




「のう、聖女よ」

「初めまして。ヴァリマリラ帝国女帝、サシャ様。僕に何か御用ですか?」

「我が国にくるか?」



 急に誘われて、一瞬びっくりする。



 王太子から聖女を解任すると言われている僕は先のことは未定である。正直言って陛下や神官長などが聞きつけたら解決しそうだけど。でもなんていうか、王太子みたいに男なのに聖女のふりをしていたとか色々言われて面倒そうだなとは思っている。




「条件はどんな感じですか? 僕は三食付き悠々自適な生活を希望します! 代わりに聖人としての仕事は出来ますよ」

「ふははっ、我に望むのがそれだけか?」



 僕は大まじめに口にしたのだけど、もっと言ってよさそうだ。女帝様、オーラが凄いし有無を言わさぬ雰囲気だけど結構融通が利くタイプなのかもしれない。




「ならおやつタイムとか、お出かけとかしたいです」

「この国だとないのか?」

「ないですね。聖女は贅沢しないものって感じでしたから。食事もかなり健康的でシンプルなものでしたね。お出かけも聖女は危険だからとほとんどしていなくて、女帝様の国だとそういうこと出来るのかなと」

「そうか。もちろんだ。幾らでも叶えてやろう」

「なら、行きたいです。でもおそらく陛下や神官長が聞きつけたら僕をこの国に戻そうとはすると思うんですよね。その場合も守ってくれますか?」

「もちろん」




 女帝様の言葉に僕はワクワクしている。



 僕はこの国に産まれ、九歳の時に聖人に選ばれたためこの国以外をしらない。



 というか、この国の聖女としての暮らしは外に行くことはなかった。女帝様の国だとお出かけも出来そうなので、楽しそうと思って仕方ない。後何よりおやつ。そういう贅沢品は駄目だって言われてたもん。

 僕は国から生活費を全部出してもらっている身だから食べたいって強行は出来なかったんだよね。だから侍女たちから聞いた美味しいおやつとか沢山食べられるのかなって凄く楽しみ。




「なら、行くか。この国の王が戻ってくる前の方がいいだろう」

「そうですね。僕もそう思います」




 僕が頷くと女帝様が近寄ってくる。どうしたんだろう? と思っていると抱えられた。僕、脇に抱えられてびっくりだよ。



「女帝様?」

「この方が速い。行こう」




 僕を抱えたままの方が速く動けるなんてすごいなぁ。

 そんなことを思いながら僕はされるがままである。



 ちなみにその段階で王太子が「勝手に連れて行くな。話の途中だ」と騒ぎ出したけれど、女帝様に睨まれて押し黙っていた。王太子弱っ。

 




 そうして僕はそのまま女帝様に抱えられたまま、ヴァリマリラ帝国に行くことになった。


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