火車(妖怪) 2
「……」
血塗れで乱雑に積まれてる死体。
それを見ても僕の顔には何の感情も浮かび上がらない。
何故か。
そう。
何故か。
血液が腐っている。
血管がドス黒く浮き上がっている。
腐敗こそしてない。
だがはっきり言えば誰でも異様とわかる変死体。
リアルなホラー映画を見たことが有るならば分かるだろう。
その外見。
死体だということが。
それを見ながら僕は少し複雑な気分だった。
この死体の中に幼馴染がいた。
最後の幼馴染が。
恐怖の表情で首を切られた幼馴染が。
だけどその姿を見ても僕は何も感じない。
感じられない。
先程相棒と話した時に感じた感情とは逆。
その感情が感じられない。
感じない。
『気にするな。お前のせいではない』
「……」
『それとも心が傷まないのが嫌か?』
「いや……なんだろうなこれ……」
僕は胸を抑える。
何かが欠落している。
欠落しているが痛む何かを感じる。
『苦しいか』
「いや……」
僕は胸に手を当てる。
『何も感じないのか?』
「うん」
そう。
感じない筈だ。
……なんだろうなこれ。
『これが契約の対価だ』
「だろうね」
胸に当てた手に力を込める。
『今更元に戻れないからな』
「分かってる」
それは理解していた事だ。
『なら何でそんなに泣きそうな顔をしているんだ?』
「そうなのか?」
気が付かなかった。
『自分の事なのに分からないのか?』
「……」
分からない。
何をしてるのか。
何に思いを向けてるのか。
今何の感情を感じてるのか。
それが分からない。
『悲しいなら私の胸を貸してやる」
「……」
『だから泣きそうな顔をするな』
僕の前に実体化した相棒が手を広げる。
悲しくても泣けない僕。
それを慰めてくれるんだろう。
慰め。癒やし。
そして気力を取り戻させてくれるのだろう。
ああ。
ああ。
ああ……。
「喜んでえええええええええええええっ!」
『へっ?』
実体化した相棒の胸に飛び込む僕。
『ひっ!』
怯える相棒。
嗜虐心を唆られる。
『いっ!』
ああ。
感慨深い。
『いやあああああああああああああああっ!」
ああ。
良いね。
良いね。
良いね。
『ひやあああああああああああっ!』
思う存分相棒を堪能した。
なお相棒はというと。
僕が堪能し終わるまで実体化を解きませんでした。
律儀です。
セクハラしてるのに。
ニァア。
ニャア。
ミイ。
ミイ。
『汚された……』
「ぷはあ~~」
シクシクと泣き真似をして地面に伏せる相棒。
僕は煙草の煙を吐く。
満足気に。
という煙草はエアです。
エア煙草です。
未成年が吸ったら問題ですので。
「犬に噛まれたと思って忘れな」
『犬自身が言うなああああああああああああああああっ!』
絶叫する相棒。
うんうん。
元気だね。
いや本当に。
昔のオドオドした感じが無くなってるよ。
相棒も昔の儘では無いと言うことか。
そうか~~。
そうか~~。
胸を張れるような結果が自信を付けたんだろう。
かなり成長してるみたいだ。
だからこう言ってやった。
やさしく微笑んで。
まるで保護者が幼子を褒めるように。
「相棒成長したね」
万感の思いを込めて言った言葉。
『え?』
最初は何を言ってるのか理解出来なかった相棒。
だが次第にその内容を理解したんだろう。
頬が緩む。
ジワジワと微笑む。
赤くなり髪をいじり始める。
『うう~~そう?」
僕の言葉に少し嬉しそうに答える。
うん。
僕はニッコリと視線を下げ答える。
「特に胸」
胸をガン見して言う。
『デリカシーがないんですけどおおおおおおおおおおおっ!』
仰け反る相棒。
もうヤダコイツ!
等と言ってるみたいですね。
いやいや。
良いじゃん。
「相棒結婚しよう」
『昔は嬉しい言葉だったが今は逆だな』
おお。
それでは。
「つまり直ぐ籍を入れたいとっ!」
『言っとらんわっ!』
ぜいは~~。
ぜいは~~。
等と息せき切る相棒。
うん。
「弄りがいのある相棒だ」
『おまあああああああああっ!』
等と相棒を弄り遊んでいるときのことだ。
それは唐突に声を掛けてきた。
「盛るのは他所でしてくれんか」