火車(妖怪)1
「よっと」
僕は金網の上まで登るとその頂きに座る。
『危ないぞ』
「分かってるよ みーちゃん」
僕は内に秘めた力で出刃包丁を作る。
【物質創造】。
都市伝説に化身した事により使えるようになった能力だ。
身につけたもの。
或いは手に持てる物。
それらを幾つか創造できる能力だ。
とはいえ其の都市伝説に相応しいと思われる物が創造出来る。
という限定された代物だが。
まあ~~。
武器などはその都市伝説が相性の良いと思われるものが出来るらしい。
因みに相性が良いと武器はどんなの?
というのはその都市伝説の潜在的に望んでいるものらしんだが……。
何で出刃包丁?
等と言いたい。
みーちゃんを殺した武器なのに。
ニャアアアン。
ニャア。
猫?
猫がこんな所に?
『まて』
「どうしたの?」
みーちゃんの言葉に僕は首を傾げる。
『今後、お前は本名を名乗らないようにしろ』
「何で?」
何で?
『名を元に呪詛を送るのは此方側の常套手段だ』
「此方……ねえ」
此方側。
僕はみーちゃんと契約したことで此方側。
『都市伝説』という存在になったらしい。
都市伝説。
現代妖怪。
等と言うべきそれら。
古くからある妖怪と区別するべく付けられた名だ。
僕は本契約を結んだために、その様な存在になったらしい。
まあ~~自覚がないけど。
とはいえこれを見れば納得だな。
僕は身だしなみを整える手鏡を取り出す。
そのまま自分の姿を見た。
「なら今後はみーちゃんの事は相棒と呼ぶか」
『それで良い』
「それはそうと……」
僕は首を捻る。
『どうした?』
「いや姿が変わってるな~~と思って」
髪は元は黒のなのに今は赤。
肌は浅黒く変化してるね。
瞳は黒から赤に変わっている。
顔はどこから見ても別人。
というか明らかに美形なんですけど。
美形のショタなんですけど。
これ年齢一桁だよね?
これ誰 ?
等と言いたい。
そして明らかに違うのが角。
二本の角が額から生えてる。
まあ~~小さいけど。
髪で隠れたら人間にしか見えん。
「角が生えてるんですけど……」
『私と契約したことで鬼になったんだろう』
僕は角を触る。
「鬼って……福は内、鬼は外の?」
『正確に言えば違う』
「違うの?」
『どちらかというと、深い怨恨みや憎悪から人を捨て変異する方だな』
ああ~~。
悪鬼の方?
祟りをなす妖怪。
怨霊。
あるいは夜叉などの悪鬼神とか。
『そんな感じだな。心当たりは?』
「ありまくりです」
おもにその原因の一つが目の前にいます。
みーちゃんとか。
みーちゃんとか。
知らず知らずの内に恨んでたんだろうな僕。
あの殺人鬼を。
僕は下を向く。
ビルの斜め下。
そこにクラスメイトの死体が有る。
時間はそれなりに経過している。
だが死体が腐敗する程では無い。
無いのだが……。
警察も救急隊員も来てないんだが……。
『夕暮れの殺人鬼の結界がまだ消えて無いんだろう』
「何の結界?」
はて?
『人を近づけない様にする物だ』
ああ……。
だから殺人鬼が僕らを襲った時誰も来なかったのか……。
『後でアソコに行くぞ』
「アソコって?」
ゑ?
『クラスメイトがいる所だ』
……。
………。
…………。
「ゴメン……ネクロフィリアの趣味は無いんだけど……」
『誰が死姦しろと言ったっ!』
間髪入れず相棒が突っ込む。
「ゑ? 違うの?」
『違うわっ!』
あ~~。
はいはい。
「僕、カニバリズムの習慣は無いんだけど……」
『誰が人を食えと言ったっ!』
「じゃあ何で?」
それ以外思いつかないんだけど。
『ぜいっ! ぜいっ! アリバイ工作の為だ』
ああ~~確かに。
僕らが集団で帰宅してる所は沢山の人に見られてる。
殺された中一人だけあっちこっちに動いてたらどうなるか?
普通に疑われるな。
うん。
「でも僕は以前の姿では無いんだけど」
『それは大丈夫だ 妖力を収める様にイメージしろ』
能力を収めるイメージ?
う~~ん。
元の体に薄っすらと覆いかぶさってるのが能力?
……と思うが……。
それをグイッと引っ込める。
おお。
何か中に入り込んだような気がする。
うん?
「あれ? 手の肌の色が元に戻っている」
『人間に戻ったな』
本当だ。あっという間に以前の僕の身体だ。
「お~~」
凄いな~~。
『この状態では都市伝説としての力は使えないからな』
「ふうん」
成る程ね。
「下に降りようか」
『そうだな』
ニャア。
ニャニャ。