都市伝説<夕暮れ時に現れる殺人鬼> 2
都市伝説。
人智を越えた事件。
常識という境界越えた向こう側の事件。
あるいは人を超えた存在が犯した犯罪。
人の思いを凝縮し発生した存在。
願望が命を育んだ存在。
人はそれを「都市伝説」と呼んだ。
解体を中断され放置されたままのビル。
その中はある種の異界を連想させられる。
ビルの隙間から侵入する雨水。
それに隙間風。
それらはビルの劣化を早め建材すらボロボロにしていた。
瓦礫の山。
その上に。
僕より年上の女性が座り込んでいる。
『怖い。怖い』
というか怯えてません?
気のせいだろうか?
気のせいと思う。
うん。
うん?
アレ?
何かデジャブ。
気の所為だろう。
目を前髪で隠してる巨乳のお姉さんですね。
良い。
すごく良い。
良いオッパイだ。
ゴクリ。
『ひっ!』
何で怯えてるんだろうこの人?
不思議だな~~。
『今、邪な気を感じました』
邪な気?
「気の所為では?」
『そうですか?』
怪訝そうな目で見る。
「そうそう」
『気の所為かな……』
「ところでお姉さんそのオッパイ揉ませて下さい」
キリッ! といい笑顔で僕は頼んだ。
『いやああああっ! こいつ記憶を消しても変わらないっ!』
自分の胸を抱え僕から離れるお姉さん。
はて?
記憶?
『お前が邪な気の犯人かっ!』
「気の所為だよ」
そう気の所為。
『おまあああっ!』
その体は少し透けており、背後のコンクリートが見える。
明らかに人間ではありません。
有難うございます。
まあ好みだから良いけど。
「揉むのが駄目なら挟ませて」
『ぎやああああああっ!』
何だろう?この嗜虐心を擽る怯え方は。
凄く興奮する。
『怖い怖い!人間怖い!』
凄い怯えてる。
あれ?
やりすぎた?
おふざけ。
「すみません~~つい我を忘れました」
『我を忘れたら命の恩人にそんな態度を取るのかお前は ?』
ジト目で見られた気がする。
「それはそうと」
『おい! 誤魔化すな』
ちっ。
誤魔化せんか。
「お姉さんが僕を助けてくれたんですか?」
『助けてはないが、それに近いことはした』
「……」
あ~~。
『今は後悔してるがな』
「はは~~」
『早くここから逃げろ』
「何で?」
『アレは我々を追いかけてきてる。仕留め損なった獲物をな』
「倒したんではないのですか?」
『倒したさ』
「なら……」
『アレは三度殺さないと活動停止しない都市伝説だ』
「都市伝説?」
『とはいっても三度殺しても数年後再び活動するが』
数年後?
『幸い二度殺せたが、その後にお前さん達に遭遇した』
「……」
『運が悪かったな。詳しいことは生き残って再び会えたら教えてやる』
愛想笑いしたら嫌な顔された。
「所で他のクラスメイトは……」
『お前だけだ。救えたのは』
「やっぱり」
『意外にショックを受けてないみたいだな』
「まさか」
『せめてもの救いは、痛みを感じる暇もなく首を切られたことだな』
――ジジッ。
『■げ■っ! ■ー』
『で■み■』
『早■』
そのはずだ。
そのはず何だ。
何だろう?
この蟲に喰われるようなイメージは?
唯の白昼夢だろうか?
――ジジッ。
「そうですか」
『悲しくはないのか?』
「悲しいですよ~~」
『……なら何でヘラヘラしてる』
「え?」
おかしい。
おかしい。
何で悲しくない?
『お前は何かがおかしい』
関係性の薄いいクラスメイトならともかく。
最後の幼馴染かつ友人を失ったんだ。
何で僕は悲しくない?
わからない。
何かが欠落している感じがする。
「それで他の子も僕と同じ様に助けることは出来なかったのですか?」
『無理だね』
「何でまた?」
『私が実体を持って活動できる時間は限られてる』
だろうな。
こんな所に隠れるということはそんな所だろう。
警察は無理だろう。
眼の前の人?
人で良いのか?
これに警察に説明しろとは言えない。
だから保護は求められない。
だから此処に居るんだろう。
「それで?」
『私の許される活動時間では、御前を救うだけで精一杯だったんだ』
「そうですか」
そんなときだった。
産毛が逆立つ感じがしたのは。
ドゴオオオオオオオオンッ!
それと同時にコンクリートの壁が破壊される。
『残念だったな』
「はい?」
『時間切れだ』
時間切れ?
ということは。
「お姉さんっ!」
オオオオオオオオオオオオッ!
コンクリートの壁を破壊して現れた殺人鬼。
その目は僕を見ていた。
コイツとは二度目。
会うのは。
嫌な感じだ。
――ジジッ。
『■げ■っ! ■ー』
『で■み■』
『早■』
二度。
そのはずだ。
そのはず何だ。
何だろう?
この蟲に喰われたようなイメージは?
唯の白昼夢だろうか?
――ジジッ。
『ちっ!』
殺しそこねた獲物を始末する気みたいだ。
血と錆の浮いた出刃包丁。
それを持ちながら僕の方にゆったりと歩いてくる。
フラフラと歩きながら。
僕の恐怖を煽っているのだろう。
だがおかしい。
奇妙な事に僕は恐怖を感じない。
何でだ?
何でだ?
それよりも怒りを感じる。
――ジジッ。
『逃げ■っ! ■ー』
『でもみ■』
『早■』
怒りを感じる。
そのはずだ。
そのはず何だ。
でも何で?
何でだろう?
この蟲に喰われていくようなイメージは?
唯の白昼夢だろうか?
そうなのか?
――ジジッ。
『私の本体で有るラジオを持てっ!』
「本体」
『逃げたかったらなっ!』
その言葉と共に僕は思わず僕はラジオを取る。
その瞬間のことだ。
殺人鬼が僕に襲いかかる。
尋常ならざる速度で。
速い。
筈だ。
――ジジッ。
『逃げてっ! ■ー』
『で■み■』
『早く』
何処が?
ああ。
あああ。
怒りを感じる。
コイツに感じる怒り。
無力だったあの時。
無力だったあの時。
そのはずだ。
そのはず何だ。
何だろう?
この蟲に喰われたかのようなイメージは?
何故、何度も何度も白昼夢を見る?
――ジジッ。
この光景は知ってる。
今日では無い。
昔。
そうかなり昔に見た光景だ。
気がする。
殺人鬼の武器が僕の横に有った。
狙いが外れてる?
「え……あ?」
違う。
当たる直前。
其の瞬間其れを上回る速度で僕は躱してた。
思わず僕は惚ける。
何で?
どうして?
『何を呆然としてる』
「今何が……起きた?」
『今私がお前の体を操り躱しただけだ』
「そんな事が出来るの?」
『ああ』
「なら……」
僕は希望を見出す。
『だがこのまま逃げる……のは無理か』
「え?」
殺人鬼はこちらに迫ってくる。
となると頼りになるのはお姉さんだけなんだが……。
「逃げられないの?」
『無理だな』
「何故ですか?」
『逃げてもこの速度を出せるのは後一分が限度だ』
「短っ!」
『実体化可能限界だ。仮契約ならそれだけ出来れば上等だ』
「仮契約?」
『私はアレと同じ都市伝説だ』
「ゑ? 今更」
いや本当に今更だよ。
『ゑ? 気がついてたの?』
「寧ろ何で気が付かないと思った?」
『……』
視線を逸してる。
『ともかく私が時間を稼ぐから……』
殺人鬼が迫る。
そのまま歩きながら近づいてくる。
ホッケーマスクを外して。
ニヤリと嗤う殺人鬼。
あれ?
此の顔……。
――ジジッ。