プロローグ
短編とは別物と思ってください。
世界。
世界にはまだ人の理解の及ばない存在がある。
人智を越えた存在が。
想像を超えた様々な出来事がある。
理解の及ばない物がある。
思いもよらぬ理不尽が存在する。
様々な不可思議な現象が存在する。
人の知覚の及ばない存在。
それは確かに存在する。
そう。
確かに。
存在する。
存在するのだ。
それを当時の僕は知らなかった。
そう。
当時の僕は。
――ジジッ。
大都会。
人の坩堝たる大都市。
そこには数多くの人間が住んでいる。
大都市。
赤い。
赤い夕日が沈んでいく。
ビルの谷間に。
巨大なビルの谷間に。
日暮れ。
黄昏。
逢魔時。
大禍時とも言われる時間。
逢う魔が時。
逢う魔時。
黄昏時。
様々な呼ばれ方がある。
その時間帯。
昔の言い方で言えば「暮れ六つ」、「酉の刻」だろうか。
今で言えば18時頃だ。
黄昏時は黄が太陽を表し。
昏が暗いを意味する言葉である。
そんな時間帯だ。
日の暮れ。
それと共に自動車のライトが点灯しだす。
薄暗くなり始めた都市。
徐々に明かりが都市を照らす。
蛍光灯や信号それに乗り物の明かりだ。
そんな時間だ。
薄暗くなり始めた時間に下校する生徒たちがいた。
殆どが女子高生だ。
清楚な女の子。
あるいは茶髪に染めたヤンキー。
「でさ~~大介先輩なんて言ったと思う?」
「なんて言ったの?」
「お前に明子さんは任せられないっ! 幸せに出来るのは俺だけだっ!」
「ださっ!」
「そうだよね~~」
女子高生たちの目当ては僕ではない。
「うん? どうした? 無名」
「いや」
「さては大介さんが好きだったとか?」
「なんでやねんっ!? 同性を好きになるかっ!」
僕のツッコミの手を払う親友。
僕はその反動を活かし裏拳。
「だよね~~無名が危うく薔薇の住人に成るかと思った」
裏拳を避ける親友。
一見喧嘩してるみたいだが唯のじゃれ合いだ。
親友の名は『日暮光輝』。
通称こーちゃん。
「ならんわっ!」
女子の目当ては僕の親友で幼馴染だ。
僕の幼馴染は二人。
いや正確には二人だった。
一人目はこーちゃん。
もう一人は女子だ。
暁 宮子
通称みーちゃん。
彼女がもう一人の幼馴染だ。
正確に言えば元幼馴染だった。
昔死んだ。
他殺だ。
多分。
お母さんの話では通り魔に殺されたとか。
犯人は捕まってないらしい。
――ジジッ。
『■げ■っ! ■ー』
『で■み■』
『早■』
そのはずだ。
そのはずなんだ。
何だろう?
この虫食いのようなイメージは?
唯の白昼夢だろうか?
――ジジッ。
「好きだとしてもアイツだ」
「あ~~」
苦笑いする親友。
パスンと僕の裏拳を手のひらで受け止める。
故人だ。
仕方ないだろう。
此奴、何でか知らんがやたらモテる。
物凄くモテる。
何でモテるか知らんが。
それを毎日の様に傍で見る僕の気持ちを分かれや。
うん。
わかって欲しい。
だから下校時刻に僕を一緒に帰宅に誘うのは止めて欲しい。
「薫さんにあの態度……幼なじみでもね~~」
「ありえないわね」
「しかもブサイクだし」
鬼の形相で女子たちが睨むので。
というか聞こえてるんだが?
まあ~~聞こえんふりをするか。
こーちゃん……目をそらすぐらいなら誘うな。
というか自分がモテるのを自慢したいのだろう。
あいも変わらず性格が歪んでる。
まあ~~良いか。
「ねえねえ、知ってる?」
うん?
「何を?」
先頭を歩いていた親友の取り巻きの一人がこちらを振り向く。
「あの噂」
「あの噂って?」
噂。
噂ね。
最近巷で噂になっている都市伝説。
その事かな?
<夕暮れ時に現れる殺人鬼>
人のいない路を歩いてると何処からともなく現れるという。
殺人鬼。
ボサボサの頭にホッケーマスク。
血と泥で汚れたにボロボロのトレンチコート。
様々な道具で惨たらしく人を惨殺するという。
殺人鬼の都市伝説。
「夕暮れに現れる斧を持った殺人鬼」
「ああ~~あれね~~噂でしょう?」
訝しげに考え込む女子。
「というか出刃包丁と聞いたけど?」
「私はチェンソー」
疑わしげな表情で考え込む。
「噂じゃないみたいよ。二年の子が遭遇したって」
「えっ!? 嘘じゃないの?」
「本当みたい」
「うわ~~マジか~~」
「幸い逃げ切れたらしいみたいよ」
ふうん?
なら唯の変質者かな?
この季節には多いと言うし。
「へ~~なら~~もしもの時は~~あの子に頼れば良いのかな?」
あの子?
「都市伝説だよね?」
はて?
「同じ都市伝説だし良いんじゃない?」
はい?
「ラジオを持った子供」
ああ。
あれか。
惨劇の現場に何故か居合わせる子供。
正確に言えば子供ではないが。
現れるのが子供とか女性とか厳つい男とか姿形はあやふやだ。
必ず凄惨な現場に遅れてやって来るという都市伝説。
運が良ければ生き残りを助けてくれるという。
「そうだね」
「クスクス」
それは他愛のない噂話。
それはここ最近巷で流行っている噂だった。
そう唯の噂だ。
噂の筈だった……。
「ねえ……」
立ち止まる一人の女子高生。
なぜ立ち止まるのか首を捻る友人達。
「どうしたの? 震えてるよ」
ガタガタ。
ガタガタ。
その子は震えていた。
顔を青ざめて指を僕たちの前に示す。
「あれ」
え?
僕たちはその指先。
その方角に目を向ける。
「何?」
「あれは何?」
震える指先にいる存在。
「アレは何?」
唯の。
噂だった筈だった。
震える指先にいる者。
そこには噂した奴が居た。
ヴウウウウウウウウウウウッ!
そいつはこちらを見て嗤っていた。
チェーンソーのエンジンを動かして。
そのままこっちに走ってくる。
ヴウウウウウウウウウウウッ!
その途端、飛び散る血潮。
「え?」
誰が呟いたのかは分からない。
今となっては。
クルクルと一人の女子高生の首が飛ぶ。
クルクルと。
クルクルと。
そのまま血飛沫を上げてアスファルトに落ちる。
軽い音を立てて。
思ったよりも軽い。
頭のない胴体から大量の血飛沫が吹き上がる。
まるで噴水のように。
そのままドサリと胴体が倒れる。
それをポカンと僕らはみていた。
冗談のような光景。
現実離れした光景。
非現実。
そこからだ。
悲鳴が聞こえたのは。
「いやあああああああああああっ!」
「死にたくないいいいいいいっ!」
全員が逃げ出した。
恐怖のあまり。
当然だ。
クラスメイトの首が刎ねられたのだから必然だ。
「たっ! 助けて…ブッ!」
「ゔぁっ!」
何なんだ。
何なんだ?
何なんだこれは?
知り合いが次々に惨殺される。
チェーンソーで無惨に惨殺される。
「し……死にたくない……」
誰が言った言葉だろうか?
気がついたら殺人鬼は屍の山を築いていた。
僕の方を振り返る殺人鬼。
頬に付いた返り血を舌先で舐め取る。
ヴウウウウウウウウウウウッ!
チェーンソーを大きく振りかぶる殺人鬼。
そして最後に覚えてる光景はそれだけだった。
――ジジッ。
『今回も間に合わなかったか……』
ラジオを持った女性らしき影が呟いた気がした。
数話で一章完結です。
暫くして完成してから投稿します。