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「相変わらず、大雑把っていうか。それ以外になにか言いたいことないの?」
「あるよ!ちゃんとお嫁ちゃんは両親にも紹介するべきだと思うし、なにかしらの形で、碧斗はもう大丈夫だって伝えるべきだと思う」
「それ、難しくない?」
「私みたいに、こっちに来ちゃえば、理解はしてくれるんじゃないかな」
さすがに、頭の硬い両親がこの訳のわからないこと説明されただけじゃわからないと思う。でも、ここに来てしまえば、なにかしら納得はするでしょう。
「ほかには?」
なんか、怒られてるみたいな弟に、ちょっと笑えてくる。
「ないよ。家の外に出られないくらいだめなのかって思ってたけど、そうじゃなかった。なんか働いてるんだよね?おまけにこんな美女の、いいところのお嬢様捕まえて結婚までしてるってことは、責任取れるくらいなんだよね?なんかよくわかってないことばっかりだと思うけどさ、碧斗が自分らしくやっていけてるなら、私に心配はないよ。君が君らしく生きていけるところが見つかって良かった」
引きこもったとき、どうしようかと思った。
姉なのに、面倒見てもらうばっかりで弟のこと気づいてない自分に、本当に呆れた。
バイトとジムに行ってるって聞いて、ホッとした。
完全に引きこもろうとしてるんじゃないって、それだけで良かったんだけど、それでも、やっぱり人と関わることをもっとしてほしいって思ってた。
碧斗は賢くて、優しくて、礼儀正しくて、人のこと大事にできる子だから、自分の人生諦めてほしくなかった。
「ここの人たちが、家族だったり友だちだったり、同僚だったりするんだよね。これからも、碧斗のことよろしくお願いいたします」
「姉さん!」
とりあえずご挨拶だけしてみると、弟は恥ずかしそうに真っ赤になってた。
それを見て笑ってしまう。
なんだか、幼いままの弟は居なくなっちゃったんだなって気づいた。
「じゃあ、すぐに帰してくれる?」
スマホで時間を確認する。帰ってから、自分で試作食べて作り直して、本当に余裕がない。
「あの、もう少しお話できませんか」
ササッと立ち上がっていると、美女からの声が聞こえた。
「私、もっとミヤ様のお話が聞きたいと思います」
「俺たちだって、聞いておきたいことがある」
ついでに怖い人にも声をかけられる。
チラッと弟を見ると、やれやれって感じ。
「そこは、直接弟と話してください。もう秘密にしておくことがなくなったなら、本人と話したほうがいいですから」
家族と言っても、人の話をするべきじゃないし、全部知ってるわけでもないから、そこは弟本人にお任せして。
「もしもまた来ることがあれば、仲良くしてくださいね」
美女の方にだけ向いて、それだけ伝えておく。
怖い人は、本当にできれば次回も会いたくないので必要ない。美女は、義妹なのだしこれくらいなら大丈夫だろう。
弟がさっと手を前に出すと、四角い紙があった。多分、これが家に戻るときのやつなんだろう。
神経質そうな人が立ち上がって興味深そうだけど、気にした様子もないのでそっとしておく。
「なんか、いろいろとご迷惑おかけしました。また来ることがあれば、よろしくお願いいたします」
それだけ伝えて、さっとお辞儀しておく。
ふっと笑った弟がなんか唱えたら、目の前が眩しく光った。
奇妙な浮遊感のあと、立っていたのは弟の部屋。
「なんか、よく分かんなかったけど」
体におかしなところはない。しいていえば、靴下が少し汚れているくらい。
うーん、とひとつ背伸びして、力を抜いた。
「さ、早く帰って試作作らないと!」
なんだか、体が軽い。気持ちも軽い。
今なら、サイコーに美味しいお菓子が作れる気がする。
誰にも見つからないようにそっと扉を開けて廊下に出て、開けたときよりも慎重に扉を閉じた。
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