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「とりあえず、場所を移動しようか」
にこっと笑った弟に連れ出されて、部屋にいた全員が座れる大きな部屋に移動した。
靴をはいていなかった私には、スリッパが与えられて歩くのに不便はなかった。
「えっと、姉さんは、お休み今日までだっけ」
「そう。帰れるならすぐにでも帰って試作作りたい」
なんか、違うところにいるのは分かったし、弟の落ち着き方からすればすぐに帰れる感じだ。それだったら、帰りたい。まだ、誰の口にも試作ケーキ食べてもらえてない。感想聞いて作り直さないといけないのに。
部屋には、先程までいた人たちに加えて、なんか神経質そうな男の人とか、数人増えてる。
ちなみに、朝顔でぐるぐるになってた猫は、また怖い人に戻ってブスッとした感じで座ってる。
外国の人って、顔も名前も難しくてわかんないから、ちょっと増えすぎて対応できないし。
「ここまで来ちゃってるし、全部説明しておきたいんだけど、いいかな」
甘えた弟モードで言われると、こちらも聞くしかない。
「わかった」
「ありがとう」
そこからは、なんか小説みたいな話を聞いた。
引きこもっていろんな勉強してたけど、飽きてしまった弟が、たまたまインターネットで厨二病というものを知ったそうだ。そこでひけらかされている魔法陣とやらを、いろんな国の辞書やら歴史を紐解いてオリジナルを考案してみたら。
なんと、この国に来ていたらしい。
そして、全く自分のことを知らない、自分も何もできない状態から、あの怖い人と友だちになって、戦って強くなって、魔法のことを知って。神経質そうな男の人とかそのあたりから魔法を教えてもらってたら最強になった、と。
流れで色んな人たちが、所属やら名前やら教えてくれるけど、いや、何回も言うけどカタカナそんなに覚えられないって…
私がへーっていう感じで聞いているのを、弟は苦笑してる。
なんか、旅のことになったらみんな熱くなって、あーだこーだ、何と戦ったとか、そのときどんな魔法ですごかったとか、そんなこと言われても、全くわからん。
そのまま旅をしながら魔物を倒して4年くらいで、国一番くらいにつよい団体になっていったらしい。
そんでもって、竜王国と敵対していたなんかの王様を仲間たちと倒して、今や勇者ミヤとしてご褒美に辺境伯となって、お嫁さんももらった、と。
「え、待って、嫁!?」
「あ、やっぱりそこ?」
「え、この美女が、嫁!?」
「あー、うんなんか、そうです」
「なんかそうですって、言い方…」
弟、チョー照れてるけども。
弟、まだ20歳なったとこなんだけども。
今まで彼女とか、そういうのなかったんだけど。
っていうか、この弟の隣にそっと寄り添っている美女が、嫁ってことは、義妹ってことか。
「え、私だけ知らない?お父さんとお母さんには紹介したの?」
早くない?とは思ったけど、そこはしっかりものの弟が決めたことなんだったら私に何も言いようがないのでいいとして、父母にも内緒にされていたなら地味に凹む。
「いや、あのね、あの魔法陣今書き換えをしてて、自分以外に通れるか試そうとしてたところなんだ。ひとまず、今後を考えて僕の血縁関係は通れるように書き換えてたんだけど。考えてみると、姉さんも血縁関係だよね。これなら、父さんも母さんも通れるか…」
「けつえんかんけい」
むむ、なんか難しく言われてるけど、要するに家族ってことだよね。
弟の家族は、今はこの美女の嫁しか見当たらないけど、そこは血がつながってるはずがないから、もしかして、甥か姪かが存在するとかそういう?
「いや、待って、まだこどもいないから!」
なるほど、もっと先のことを見据えたってやつね、弟らしいなぁ。
「口を挟んでしまいますけど、つまり、ニホンというのは異世界に本当にある土地なんですね?そして、本当は家族も存在している、と?」
神経質そうな男の人が口を挟む。
「そこは、ごめんなさい。孤児っていうのは嘘です。もう今はなき日本っていうのも、嘘です」
しゅんとした弟は、そこから現地組のみなさんに説明をする。
本当は、ここと違う世界の日本という国で生まれ育ったこと。いろんなことがあって投げ出したくなったこと、この世界に来たこと。この世界でいろんなことができるようになって、でも他の人が行き来できるとは思っていなかったので、そのまま家族はいないとしていたこと。
ついでに、なんか魔法の知識は化学反応とかそういうの勉強したら格段に上がるらしいこと。それが勇者の秘密なこと。
なんか、生まれてからのことも孤児院にいたとか詐称していたらしい。
ふぅ、と怖い人と神経質そうな人がため息をついてお互いを見合う。
「それで?ミヤ、あなたの本当の名前はなんです?」
え、そこ?知らないとかある?
「…宮園、碧斗、です」
真っ赤になってうつむく弟。
なんかね、インターネットの魔法陣書いてあったサイトに、本名知られたら魔法で操られちゃうから言っちゃだめとか、書いてあったんだって。真名とか言って、だから誰にも本名言えなかったけど、魔法習いだしてそんなことないって分かったけど、言うに言えなくて今になったんだって。
恥ずかしいよね…