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「碧斗」
「ごめん、混乱してるんだけどなんで姉さんがここにいんの」
「ミヤ、どういうことだ、お前孤児だって言ってただろ」
「ミヤ様…」
一気にそれぞれが現実に戻ってらそれぞれが口を開く。
うん、カオス。
私は、ひとまず見知った弟に出会えたことで安心したから、口を閉じる。
向こうチームは、昨日の怖い人が弟と一緒に部屋に入ってきて怒鳴ってるし、美女は悲壮な顔してるし、本当によくわからん。
「ごめん、ちょっと話がしたいから、この人と二人にしてもらえる?」
「それは聞けねーな、説明しろ」
なんか、偉い人っぽい弟を、怖い人が睨む。
首元掴まれてる。ヒョエ、やっぱあの人怖い人。
「俺たちに嘘ついてたのか」
ぐっと力を入れるその指に、爪が伸びだす。
ん?
なんか髪の毛から耳みたいなやつ生えて、きたかも。
「ミヤ様…」
美女は、はらはらと涙してた。
さっきまでちょっと偉そうだったのに、なんかヨシヨシしたくなる可愛さが出てる。
受け取らないだろうなと思いながら、そっとタオルハンカチを差し出すと、なんか驚いてる。
同時にキツそうなメイドさんが差し出してた、刺繍たっぷりの白いハンカチ受け取ったから、そっと戻す。
「あなたは、ミヤ様のお姉様なのですか」
「その呼び方の人が、あの掴まれている黒髪の男のことだったとしたら、そうです」
「なんだと」
また、怖い人がこっち向く。
昨日の恐怖を思い出してビクッとなったけど、顔をしっかり見たら驚いた。なんか、猫みたいなヒゲが出てる。目も、猫みたいだ。
どうなってるんだ?
「あ、お前!」
私の方を向いていた怖い人が、一瞬で緑のツルに巻きつけられて転がる。朝顔が咲いてる、シュールだ。小学校で育てた朝顔は、そんな凶悪な太さも強さもなかったはずなんどけど。
「ミヤ!これはずせよ!」
「無理だよ、力じゃ勝てないもん」
「勝てないもん、じゃねーよ!」
「誰か、リックを呼んできて」
一瞬で、口元にまでツルが出現して、くぐもったなんか怒鳴ってるんだろうなぁって声だけになる。そして、怖い人の顔があっという間に猫みたいになった。手も見えている部分は毛だらけだ。すごーい。
困り顔の弟の声で、一番扉近くにいたメイドさんが、多分外にいた誰かに声をかけてた。
「それで、なんでここに?」
ちょっと疲れた感じの弟が、私を振り返った。
「なんかわかんないけど、今日まで連休だから実家に帰るって言ってたの覚えてる?」
「あー、うんなんかメモしてあったね」
「で、試作スイーツ持って帰ってきたら、碧斗いなくて。どうしようかなーと思ってたら、部屋のドアが締まる音がしたんだよ」
「うんうん、それで?」
「そしたら、めっちゃ光ったの。扉の、隙間が」
「あらら」
「なんかあったのかもって、部屋に入っちゃった、ごめん。そんで、光ってるなんか紙?みたいなの見つけて、触ったら山小屋にいた」
「山小屋?」
「昨日、私が捕まったとこ」
「あー…山小屋かぁ」
山小屋発言に苦笑している弟に、今度はこちらから聞いてみる。
「ねぇ碧斗、はじめはここ米軍基地だと思ったんだよ」
「米軍基地」
「だって、ガタイのいい軍人さんたちに囲まれて捕まったんだもん。不法侵入かと思って」
「まぁ、たしかに兵士だしね」
「それで、日本政府とか領事館とかに連絡してほしいって伝えたんだけど」
「なるほど、そこで日本ってでてきたのか」
「根本的に違うんだって、わかった」
「分かったんだ」
弟は、私のおバカ加減を知っているから、わかったというと柔らかく笑った。
「ここ、日本じゃないんだね」
「そうだよ」
「りゅうおうこくって聞いた」
「そうだね」
「さっき、あの人猫みたいだった。それに、朝顔あんなに太くない」
「あは、そこ?」
「現実でこんなこと起きないって、教えてくれたのは碧斗だから。じゃあなんだって言われたら、もしかしたらここって」
「うん、どうぞ」
「ここは、地球ではないってこと?」
弟は、私がどんなに突拍子もない事言っても、バカになんてしない。
彼は、受験対策で勉強教えてくれていたときみたいに、朗らかに笑った。
「そう、正解だよ」