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 一瞬の間をおいて、気がついたら知らない場所だった。

 なんていうか、夢から覚めたみたいな、そんな感覚。


 声も出ない。

 

 そっと立ち上がって、ぼんやりしがちな頭を振って、目の前の景色を確認する。

 なんか、山小屋みたいな、木でできた部屋だ。

 シングルよりもっと細身のベッドと、小さな机だけある。全部木でできていて、年代を感じる具合が映えそうな感じ。味があるっていうか、いいな。


 振り返ると、無骨な扉。鍵なんて見当たらないし、なんだったら押したら開くってすぐわかるやつ。


 ちょっとだけ悩んで、扉を開く。

 どこかの廊下につながっていると思っていたそこは、すぐに外だった。鬱蒼とした森だ。


 つまり、よくファンタジーとかである、転移とかそういうやつ?


「どうしたら…」


 途方に暮れる。


 一歩踏み出すとジャリッとした土の感触が、靴下だからダイレクトにわかる。蟻が歩いていて、細かい草が生えている、ここを靴下で歩くのも心もとない。梅雨に入りかけた日本より、もっと穏やかな日差しと湿度の薄い空気が爽やかだけど、靴がほしい。

 部屋の中に戻って靴を探すか、と振り返った背中に、ドンッと衝撃が走る。


「動くな」


 低い声だ。

 持っていたケーキの箱は2つとも手から離れて下に落ち、気づけば後ろに出現した人物に羽交い締めにされて両手も首も動かなかった。


「お前は誰だ?ここにどうやって入った」


 背中に当たる部分が、金属の感触だ。

 首にかけられた手は、思っているより力強くて、恐怖で声なんて出るわけがない。

 私は自慢じゃないけど、小さい。

 身長はサバ読んでも155センチだ。その体が、拘束されているのに持ち上げられているのだ。怖くて、足も何も動かせたものではない。


「隊長、他に侵入者は見つかりません」

「単独か」

「ひとまず拘束して指示を待ちますか」

「すぐに連絡を取ってくれ」


 もう一人が出てきて、背中越しの会話の後、手慣れた様子で縄をつけられた。手も足も素早く縛られ、荷物のように持ち上げられた。

 視界に入ってきた男たちは、アメリカとかそっち系の軍隊の人っぽく見える。

 昔、米軍基地の開放日にイベントで行ったことを思い出した。そして、そのときに勝手に侵入すると捕まるということも聞いた。

 と、いうことは?

 あれ、私はいつ米軍基地に移動したんだろう?

 この気候だと、沖縄?


「あ、あのっ、間違えて入ってしまったことは謝ります!すみませんでした!それで、日本の政府に連絡していただけたらっ」

「黙れ」


 そんなに大きな声ではなかったけれど、威圧感というものがあれば、それだったんだと思う。


「黙れ、口を開くな」


 怒りを顕にした声、その後、頭と肩に痛みを感じた。

 どうやら、肩から乱暴に落とされたようだ。


「あとは頼む、リック」


 なんか無性に泣けてくる。怖い。

 こどもみたいに大声で泣きたいけど、怖くてできなくて、流れるままに涙を流していたら、もうひとりが困ったような顔して、しゃがんで目を合わせてきた。


「あー…大丈夫?です?」


 ズボンのポケットからくしゃくしゃになったハンカチを出して、乱暴に顔を拭われた。

 多分、マスカラやらなにやら取れてしまっただろうけど、気にしてられない。

 その手付きの乱暴さでも、先程の人と違って怖さを感じなかったからか、涙が止まらなくなって、鼻水もでる。


「あーあー…息できてる?ひとまず、このまま移動するね」


 なんだか呆れた声をかけられて、先程と同じように肩に担がれた。

 ヒックヒックと息が整わない。

 流れ続けてるのは、涙も鼻水もだ。

 担がれた背中側は金属の胸あてが続いていなかったから、徐々に彼の背中に涙と鼻水が吸われていく。

 そして、振動で頭が揺れるし、頭が下に向いているから血が上るし、なんだかわからない間に、意識を手放した。

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