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身から出た……

「まったく、どういうことか説明してくれるかな? 聞きたいことが山ほどある」

「奇遇ね。私もあなたに同じこと言おうとしてたの」


 セントケントラド帝立魔法学園は全寮制である。貴族も平民も、同じ寮に住み、学び、成長していく。

 という建前の下、貴族は貴族らしい生活を送り、平民はその貴族と同じ屋根の下で怯えながら生きている。


 この学園は魔法の才能を持つ人間を育成するためにある。その大前提は覆らないが、その他にも役目がある。

 貴族の力が強い帝国において、帝国政府はなんとかその力を抑え込もうという思惑もあって、全寮制のこの学園を作ったというものだ。そうすることで、貴族の子女を帝国政府が合法的に集め、いざという時の人質とすることで貴族をコントロールしようとした。


 けれど、実際に起きたのは学園という小さな箱庭の中で起きる貴族的な権力闘争と権威濫用である。具体的に何が起きたのか、全て挙げればキリがないのだが、その一つがこの寮である。


「どうして私、平民用の寮室にいるのかしら?」

「あんな悪趣味な貴族用寮室がそんなに良かったのか?」


 同じ屋根の下で貴族と平民が共に暮らす。しかし、同じ屋根の下にある貴族用の寮室と平民用のそれとでは大きな格差がある。


 貴族用寮室は設備が整っており、快適さは貴族の屋敷と変わらないほどとされる。

 一方で平民用寮室はその逆。快適さは平民が暮らす集団住宅と変わらないほどとされる。


 これが、貴族たちの学園内の権力闘争のなれの果て。

 貴族が寮における設備・待遇改善を権力と権威を以て学園に要求し、それが通り、そしてその改装費用と維持費用を捻出するために平民用寮室が煽りを食らう。

 部屋に暖炉なんてものはないから冬は寒く、通気性なんてものもないから夏は暑い。そんな部屋だ。


 同じ屋根の下で明確な格差が完成したのが、この寮である。この建物はある意味、帝国社会の縮図なのだ。


「別に私も貴族寮室には拘らないわ。ただ……」


 私は視線を脇に逸らす。そこにあるのは、人生で初めて見る家具。

 2段ベッド。そしてそれが2台ある。つまりこの寮室は4人部屋なのである。それほど広くない寮室に4人だ。パーソナルスペースは、1人つきベッド1つ分である。


「まさかまた会えるとは思いませんでした……てっきり、貴族用の寮室にいるのかと思いましたので」

「…………私もハイネさんと同じこと思ってたわ」


 4人部屋ということは私以外の入居者が3人いるということ。1人はリリスなのはいいとして、あとの2人のうちの1人がハイネ・シュミッタというのだから驚きである。


 主に、この仕掛人であるはずのリリスが一番驚いている。


「なんであいつと一緒なんだ」

「あなたがやったんでしょ……」

「こういう部屋割りになるとは思ってなかったんだよ」


 平民の寮室の割り振りはランダムである。リリスと私が一緒になったのはリリスの差し金だろうが、それ以外に目を向けなかったのが運の尽きだ。目を付けたところで、書類の記載だけでハイネさんを毛嫌いすることは出来なかっただろうけれど。


 ……あれ? これ私にデメリットないのでは?

 貴族用にしても平民用にしても私は困らない。部屋割でハイネさんと一緒になったリリスが困るだけである。


「……じゃ、学園生活を楽しむとしますか」

「…………」


 今日はリリスの不満な顔を多く見る日だ。


「ええっと、お三方はお知り合いなんですか?」


 4人目の同室の少女がおずおずと言った感じで話しかけてきた。

 私とリリス、そしてハイネ・シュミッタと共に同じ寮室に割り当てられたのは、当然ながら平民階級の人間である。


「私とリリスは古い仲だけど、ハイネさんとは会ったばかりよ」

「そ、そうなんですね。私だけ仲間外れだったらどうしようかと……!」

「安心して。たとえこの3人が仲良しこよしでも、あなたをのけ者にするつもりはないわ」


 私がそう言うと、彼女はホッとため息を吐いた。


「ありがとうございます! あ、私はフルール・ベルアクティと言います。フルールで大丈夫ですよ!」

「よろしく、フルールさん。私はミドラーシュ・エンディミオン。こっちもミドラーシュで大丈夫だから」

「え、エンディミオンって確か公爵家の――」


 やはりというかなんというか、フルールさんも私の名前を畏れている。平民と公爵令嬢ではそう考えるのも無理はないけれど、没落した身では毎回驚かれても疲れるし、説明するのも億劫だ。


 今日はこれからの人間関係に、少しの憂鬱さを覚える日でもあるらしい。

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