第五十一話 決着
──雲が月を避けるように、月がこの街を照らすように、いつもよりも眩しい夜だった。
空気は澄み渡り、風は優しく肌を撫でる。
星々が煌めき、街灯も輝きを見せる。
最も、この街に生きる人の眼に映る光景に、そんな物は存在していなかった。
その目に映るのは、次々と閃く白銀と漆黒の影だけだ。
その主たちが交わる度に、街には暴風が吹き荒れ、途轍もない轟音が響き渡った。
その音に大地は揺られ、街灯はチカチカと点滅を繰り返した。
誰もが目を見開き、現実で起きている事だと思っていなかった。
どんな人間も、カメラを回す事すらできない。
火の粉が飛び、一瞬一瞬を照らす。
白銀の絶望と、漆黒の希望の激しい戦いだった。
──俺は《神威の魔剣》を奔らせ、魔王の攻撃を封じる。
魔法が放たれれば、その場から飛び退き、迫る魔法を切る伏せる。
一撃に腕を振る回数は千を超え、本来、物体が耐えられるダメージ量ではない。
だが、そんな物は効いていないとでも言う様にその場から一切動くことなく俺の剣を捌き、時にはその身に受け、俺に反撃を加えてくる。
魔法は全て強力なものだが、その速度は至って普通。
だが、一番厄介なのは、《魔法攻撃絶対無効》をもってして、魔王の魔法攻撃でダメージを受ける事だ。
俺の剣はその身に傷をつける事すらできないと言うのに、魔王の攻撃は全て俺に響くのだ。
俺は魔王を睨み据える。
刹那、俺を囲むように魔法陣が展開される。
逃げる場所もない。
今まで何度も試したが、《魔法破壊》も聞かない。
《栄光の聖光》を使って回復しようとしても、一切効かない。
つまり、詰んでいるのだ。
無敵。
それが一番此奴に合う言葉だろう。
だが、Lvの御蔭で素の防御力も上がっているらしく、HPの減りはそこまで加速的な物では無い。
それでもこの一斉攻撃は俺のHPをごっそりと削ってくれるだろう。
「《暗黒死滅弾》!!」
魔王が叫べば、一斉に魔法が起動し、俺を襲う。
俺は、他の防御スキルが効かないか試すが、全てのスキルが無効化される。
「フハハハハハハハ!! 貴様もこれで終わりだな!!」
高笑いを上げながら俺に言葉を投げてくる。
俺はズタボロになったその身を動かして、魔王に切りかかる。
だが全てが往なされる。
無効化される。
だが、希望が消えたわけではなかったらしい。
俺の頭の中には、いつも通りの無機質な声が響く。
それは、いつもと同じ声で、いつもとは少し違った内容だった。
──《ピピ──スキル、《理外攻撃》《理外魔法》は現在、救世主:闇山 光里の存在する理の外にある攻撃のため、防御スキルは作動しません。》
いつになく長ったらしい一言を聞いて、俺は、防御をやめた。
理の外にある攻撃に対し、防御が聞かないならばやる事は一つ。
「《死滅残虐閃》!!」
「──《貪食之皇》!!」
魔王が放った魔法を食らう!
魔王の魔法が降り注ぐ。
理の外にある攻撃。
だが、トリセを助けだした時、空間を食いちぎった《貪食之皇》が、高々理と言うだけの小さな壁にぶつかる訳が無い。
「喰らえェ!!」
空間上に出現する小規模なブラックホールに叫ぶ。
だが、魔王の魔法はブラックホールを全て透かして迫ってくる。
俺の最後の希望は虚しくも空を薙いだ。
次々と俺に迫りくる魔王の魔法。
深紅に輝く、死の魔法。
数十単位の魔法は、全て俺に直撃する。
「フハ! フハハハハハ!! その奇怪なスキルも意をなさなかったようだな!!」
魔王が高笑いで俺にそんな事を言う。
だが、俺は今、心底驚いていた。
何故か?
その理由は──
「ハハハハハ、、、ハ、、、は?」
濛々と煙が視界を遮り、魔王も俺も、何も見える状況ではない。
だが、魔王も俺も、一つ分かっている事があった。
「何故、、、生きて、、、」
──そう、一切のダメージを受けていなかったからだ。
俺は自身に起きたこの状況を理解できず、只々呆けていた。
だが、無機質なその声が、俺の今の状況を理解させてくれた。
──《ピピ──スキル、《貪食之皇》により、《理外魔法》を捕食しました。》
──《ピピ──スキル、《貪食之皇》の効果により、スキル、《理外魔法》を手に入れました。》
──《ピピ──スキル、《貪食之皇》の効果により、経験値を獲得しました。》
──《ピピ──称号『異世界人』の効果、成長速度所の上昇により、経験値量が2倍になります。》
──《ピピ──Lvが上がります。救世主:闇山 光里のLvが78200→82456に上がりました。》
そう、希望は一切消えてはいなかったのだ。
ただ、喰らうのに時間がかかっただけだ。
つまり、俺に当たった攻撃は全て虚像だったのだ。
俺は思わず笑ってしまう。
「クハッ、ハハハハ! ハーア、さて、こっちの準備も整ったとこで、、、」
俺はその手に持つ《神威の魔剣》を《空間収納》に仕舞うと、剣を持ち替える。
「今度は完全にぶっ倒すぞ。」
その剣を、ゆっくりと外界の空気に触れさせる。
刹那、なにに反応したのか、その剣がキーンと甲高い不可思議な音を上げる。
それと同時、紫色の魔力の粒子を放出する。
そのオーラはどこか幻想的で、どこか毒々しい。
銘を──
「──《虚構の断剣》。」
そっと銘を呟く。
その声に呼応するように、その剣身が怪しく煌めく。
仄暗い白色をした、スッと長い長剣。
だが、その身は逞しく、決して折れはしない。
そして、その真価は今の状況にこそ顕現する。
「さて、蹂躙と行こうか。」
俺は駆けだす。
足場のない空中を、力任せに蹴りつけて進む。
だが魔王は動かない。
それは、攻撃の機会を図っているのか、はたまた侮っているのか。
ただ俺は、今何が起ころうと、防御などはしない。
行うのは、ただの剣撃のみ!!
俺は力を入れると、一気に横に振りきる。
刹那──背景が切り裂かれる。
パックリと二つに割れ、ズズズとズレていく。
それは背景のみではなく、魔王も同じだった。
「ガフッ!! なん、だ、と、、、!!?」
呻きを上げ、俺を睨む魔王。
俺はそんな魔王を睨み返し、再度、今度は大上段に構えて一閃。
また、背景に切れ込みが入り、ズズズとズレていく。
だが俺はその剣身を収める事は無かった。
俺はさっきまで一切効かなかった一撃を、さっき以上に練り上げて全力で振り抜く。
俺の腕がブレる。
次の瞬間、背景に無数の白線が奔り、ルービックキューブの様にズレていく。
それでもなお俺の腕は止まらなかった。
1回。
2回、3回。
4回、5回、6回。
、、、99回、、、。
「、、、100回!!」
既に背景はモザイクの様に、なにがあったのかもわからない状態になっていた。
だが、そんな事は知らず、呻きを上げる魔王。
「ぐあああああ!!」
そして俺は、最後の一撃を決める。
《極限神越》《極滅の趨勢》、、、諸々、強化、限界突破系スキルを全て発動させ、大上段に構える。
そして叫ぶ。
一撃に魂を載せて。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
一閃。
剣閃が轟いた。
それは、全てを切り裂き、時間、時空、理、世界、そのどれもがズレていようと対象を逃すことなく断ち切る。
そう、それは“終焉の神”の様に。
「ぐがああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
断末魔が響き渡る。
そして、切れ目の入った魔王の体は散り散りに分かれて行き、背景はパズルのピースが合わさるように元に戻る。
月光が俺達を照らし、魔王の体を形作っていた炎を魅せる。
そして、俺は終わりを確信した。
その証拠に俺のレベルは上がった。
スキルも手に入った。
だが、俺の目の前には、あの鉄仮面が残っていた。
「、、、未だ、生きてるのかよ。」
俺は呟いた。
だが、魔王は無い首を横に振る。
そしてない腕でその仮面を外し、月光に自身の体を映す。
「もう生きてはいない。魔王であるときから、僕はもう死んでいるのだから。」
美しかった。
それは、精巧に作られた人形の様に。
可憐な少年だった。
純白の髪に、細いからだ。
整った顔。
その瞳には、大粒の雫を溜め、俺を見つめていた。
そして呟いた。
「僕にも、こんな、、、君みたいな救世主がいれば、変われたんだろうな。」
震える声で、涙を頬に伝わせ乍ら少年はそう言った。
これが最後とでも言う様に、顔をクシャクシャにして笑顔を作りながら。
そして、上り始める。
だが俺がそれを許す筈もない。
腕を掴み、引き留める。
そして──
──過去が廻った。
どんな者にも過去がある。




