閑話 バレンタイン
これは特に本編に影響のあるものではないので、普通の日常回としてお楽しみください。
──「えっ、今日ってバレンタインなのか?」
ある日突然、朱梨が家に帰ってきて俺に対し一言。
「今日ってバレンタインなんだよ?」と。
俺は朱梨の言葉に思わず問いを返してしまう。
「そうそう。お兄ちゃんは知らないと思うけど。」
「ああ。俺には無縁な世界だったからな。」
俺は女子にチョコレートを貰う事などなかった。
それは当然、学校から家庭内まで、女子という女子にチョコを貰った事が無い。
この体になって初めてのバレンタインだが、今日は学校が休みなのでこの体によるモテ効果も見られない。
だが、朱梨がこんな風に俺に言うという事は朱梨から何かあるのだろうか?
「で、俺にそんな事を聞くが、、、つまり今日はお前に期待しても良いという事か?」
「──いいや? 私はあげないよ?」
「、、、ふぇ?」
朱梨の一言に俺は首を傾げる。
だが、、、それに答える訳でも無く。
そうして怪しげな笑みを浮かべると何か温かい目で見てくる。
「あげるのは私じゃなくて──」
「じゃあ誰が──小鳥遊?」
「、、、えっと、今日はバレンタインだって言うからチョコレートを作り過ぎちゃって、良かったら貰ってくれるかしら、、、?(チラッ)」
「、、、あ、ああ」
俺は突如として現れた小鳥遊にしどろもどろな対応になってしまう。
その手には、色とりどりのキューブチョコが可愛らしい包装に包まれた状態で乗っかっていた。
俺はそのチョコレートを受け取る。
「えっと、食っていいのか?」
「た、食べなきゃ作った意味ないでしょ!」
顔を赤くしてそう叫ぶ小鳥遊に気圧される。
俺はゆっくりと包装を開くと中のチョコレートを一粒摘まむ。
抹茶色の光沢あるチョコレート。
俺はそれを口に運ぶと、そっと放り込む。
「──うまいな。」
俺は一噛みすると、声を漏らす。
俺の声に更に顔を赤くする小鳥遊は、頭から湯気を出している。
「、、、そ、そんな、、、よかったわ、、、。」
顔を背けるとそんな事を言ってくる小鳥遊に、俺は一つ質問をする。
「、、、もしかして、これを渡すために俺の家まで来たのか?」
「、、、そ、そうよ」
俺はもう一粒チョコを摘まむと小鳥遊に向かってチョコを突き出す。
その事に一瞬目を点にする小鳥遊。
そのまま数秒制止すると、チョコを摘まむ俺の手に口を付ける小鳥遊だが、、、俺は小鳥遊が口を放した瞬間に口を開く。
「、、、その、手を出してもらいたかったんだが、、、。」
「っ!!!ば、馬鹿ぁ!!」
俺の言葉に顔を凧のように赤くしてボカボカと攻撃を加えてくる小鳥遊。
その攻撃を受けつつ苦笑いでその時が過ぎるのを待つ。
と──
「おにーちゃ、、、ん、、、何、してるの?」
小鳥遊に殴られる俺を見て朱梨がそう聞いてくる。
今の状況、、、非常にまずいのでは?
俺が小鳥遊に殴られている姿は故意のように見えるだろうか?
「、、、これは違うんだ、朱梨。説明を──」
「──お兄ちゃんの、へんたーい!!!」
「フゴォ!!」
この日、初めてもらったチョコレートの味は、少しほろ苦く、ほんのりと甘い、抹茶の味だった。
そして、その後は鉄の風味が口いっぱいに広がったのだとさ。
めでたし、めでた、、、し?
小鳥遊、、、カワヨ、、、(自我の消失)。




