第二十五話 返り討ち
既に日の頭も山の向こうに姿を隠すという頃。
俺は小鳥遊を連れて薄暗い路地裏に入っていく。
小鳥遊に何か怪しい事をしようなどという邪な心からくる行動ではなく、これも作戦の内だ。
あいつが尻尾を出すまで待っているのだ。
しっかり小鳥遊にもそう説明しているのだが、、、。
「、、、何かしたら私は貴方を討つ。いいわね?」
「何もしねぇよ!」
一応男子高校生という身分なため、疑われてはいるようである。
だが、怒っていたり、本当に殺してやると言う殺意などは見えないので、一応の脅しか何かだろうけれど。
俺は小鳥遊を前において歩いている。
その理由は言わなくても解るだろう。
もし敵に背後を取られてしまえば、小鳥遊を人質に取られる可能性がぐんと上がる。
というか、人質として使わない方がおかしいだろう。
それを考慮したうえでの配置だが、、、もし、相手側にスキルを持った者が複数人いれば、俺の気付かない内に目の前にいる小鳥遊を人質に取られる可能性もあるが、、、今は消去しておく。
あの場にいた人物でステータスが確認できたのはイーブリスだけだったからな。
「、、、それよりも、こんな路地裏よりもっと大きな道の方があいつらも動き辛いんじゃないの?」
「、、、確かに否定はしないが、、、もし、俺かお前、もしくはどっちも殺せと命令されていたとしたら、そんな所に来ると思うか?」
「100無いわね。でも、なぜ殺せと命令されているかもしれないの?」
「理由自体は解らないが、まず、追って来ているかもしれないと俺とお前が直感で同じことを思った時点であいつは相当ヤバい奴だし、、、そもそも、本当に追ってきたりすればそれ以外に何も考える余地はないだろう。」
俺はあいつが悪魔であることを知っている。
だからこう来るであろう事も大体予想がつく。
大体の童話や神話、御伽噺だと、悪魔はそういう奴だ。
「まあ、兎も角本当にそうなった時の為に、こうやって警戒しながら歩いてるんだろ?」
「け、警戒って、別に普通に辺りを見てるだけよ?ほら、見慣れてない場所だし!」
そう小鳥遊は誤魔化すが、しっかりと俺の腕に抱き着いて離れない。
「まあいいが、」
俺はそれだけ言うと、周囲の気配などを探る。
すると、複数人、人が近づいて来るような気配を感じる。
俺は小鳥遊に声をかけると、壁に背を付ける。
これは背後から襲われる可能性がとても低くなる。
そうして待つこと5秒後。
俺達が背を預けていた建物の屋上から複数人の人影が降りてくる。
その人影を数えると、17人。
そして、その全てが、ステータスを得ていない。
だが、“スキルは持っている”。
どういう意味か?
つまりは──
【状態:付与──スキル《遮響》】
【状態異常:洗脳】
──こういう事だ。
全員が同じ状態であることからして、何か理由があるのだろうが、、、いや、一人だけスキルを三つ持っている奴がいるな。
それに、此奴、【状態異常】がかかってないぞ。
「、、、壁に背中を預けている、、、私達の襲撃に気が付いていたみたいですね。」
俺が思案していると、突如、目の前の男がそう声をかけてくる。
顔は長いローブで見えないが、中でも一層体格のいい筋骨逞しい男だ。
「まあいい、私達は『天啓』の通りに、貴方を“粛清します”。」
途端、何かが弾けるような音と共に、筋骨逞しい男が突き込んでくる。
人が出せるスピードは超えている。
だが──
「粛清されるべきは、あんたらのボスじゃないか?」
──俺はその突進を片手で受け止めると、手首を捻る事で往なす。
男はそのままの勢いで壁に激突すると、その壁を壊しながら意識を手放す。
一時的な能力付与では、体まで強化されることは無いだろうと思ったが、予想通りだったな。
残りは16人──。
「さて、次は誰だ?」
俺が声をかけると、一瞬たじろいだ様に見えたが次の瞬間には、一斉に俺へと飛び掛かって来る。
俺は一人ずつ捌いていく。
レベルのお陰で試行速度まで上がっているのかもしれない。
一人一人の動きが、遅い!!
俺は一人は鼻頭に蹴りを入れる事で沈める。
一人は単純に殴って落とす。
一人はその場に落ちた一人を振り回して飛ばす。
小鳥遊は後ろを向いてしゃがみ込んでいるためこの光景を見ていない。
なので、《短縮転移》で背後に回ることで全員を落としていく。
一人を残して。
「、、、水面雫。まだ神の加護だとかは手に入れてないんじゃなかったのか?」
「ッ!?」
俺に名を呼ばれたのが相当衝撃的なのだろう、静かに後ろへ飛び退く雫。
その気持ちも分からない事はない。
一度しか会っていない人間、それも、顔を隠している状態で自身の名を呼ばれる事など本来はないからな。
「、、、私の、名前を、何故、、、」
「何故って言われてもな、、、。」
「、、、貴方は、本当に危険?」
「今の所、何も変な所はないが?」
戦う意思がなさそうな引けた腰、それに、怯えたような声で問うてくる雫に俺はしっかりと答える。
その答えに段々と強張っていた筋肉が緩まってくる。
そして、ローブのフードを脱ぐと、そのアクアマリンの様な澄んだブルーの髪を靡かせながら口を開く。
「私を、、、た、助けてください!」
「、、、助ける?」
俺は、その言葉を聞くと、《隠蔽》で声を隠す。
俺と雫以外にこの会話は聞こえていない状態だ。
「、、、あの道場に入門してから、変な力を手に入れちゃって、、、。それも、どんな物かも解らないんです。でも、、、手に入ってるのはしっかり解るんです。」
「、、、悪いが、俺にお前を助けられる力はない。」
「、、、そうですよね、、、。」
「だが、お前が言う変な力って言うのは俺も持ってるぞ。」
俺はそう言うと《短縮転移》を使って移動してみせる。
俺の姿を見失った雫に俺は声をかける。
「後ろだ。」
その声にハッとすると、雫は此方を向く。
そして、驚いたような顔をする。
「これは、、、。」
「、、、質問何だが、お前は何から助けて欲しいんだ?能力か?それともあの男か?」
「、、、オーナーです。」
要するに、イーブリスから助けて欲しいという事か。
俺は一つ、溜息をつくと、一つ提案をした。
その内容は至って簡単。
俺が、さっき手に入れた《ペテン》を使う事で気絶してる奴らの記憶を改ざんする。
そして、雫は死んだことにする。
やったのは俺であり、その後、俺に全員で力を合わせて俺を殺した。
こうする事で矛盾は発生しないはずだ。
遺体処理は森に捨て、熊などの肉食獣に食わせたことにすればいい。
思い立ったが吉日。
俺はその場で倒れている全員にスキルで記憶を改ざんする。
そして、いつ起きるかは分からないので、直ぐにその場から逃げる事にする。
雫は別方向に見つからない様に逃げる事を勧めた。
すると雫はそれに素直に従い、直ぐに此処から立ち去っていく。
俺は未だ怯える小鳥遊に声をかけて家まで送ると、自宅へ帰ることにした。
小鳥遊の家、、、めっちゃでかかった。
うらやま~。
俺はそんな事を心中で呟くと、すぐさま就寝準備を整え、布団へダイブする。
今日は火曜か、、、。
はー。
今月はもう何も買えそうにないな。
俺はため息をつくと、瞼を閉じたのだった。
謎を残しつつ、一つの問題にブレーキを掛けました。




