第十四話 マッチは間にあってます
まだ、12時を過ぎたばかりの日が照った時間。
ただ、まだ冬が明けて間もないため、肌を撫でる風は少し生温い。
人肌ほどの温もりを感じる。
そして、前には厭らしい笑みを浮かべる俺の妹――朱梨がボールとラケットを握り締めて立っている。
その目は何か不安を抱かせるものだった。
「それじゃー、行く、よっ!!」
そういいながら、朱梨がボールを天高く放り投げ、落ちてきた所で勢い良く打ち抜く。
それが打ち放たれた瞬間の最高速度は弾丸を優に超えている。
だが、空気摩擦により、それを維持することはできない。
とはいえ、高々数mしか無い相手コートへ届けるには十分すぎる、いや、やり過ぎと言っても過言ではないだろう。
1秒数える間もなく迫ったテニスボール。
俺はそれを“しっかり”と見据えて、ラケットを振り抜く。
途端、破裂音に近い騒音が鳴り響く。
俺の手に走る衝撃が、それを発したのがこのラケットだと告げている。
そして、次に鳴り響いたのはフェンスの崩れ去る音。
「、、、へ?」
数秒の間をおいて朱梨が間抜けな声を出す。
そこは静寂に包まれていた。
騒音の所為なのだろうが、そこが、感じたこともないほどの凪で包まれているように感じた。
そして、俺はふとラケットを見た。
――見てしまった。
「やっちまった、、、お、お――」
――折れてるうううううううううううう!!!!!!?
やばい!
弁償しなきゃいけないじゃん!
そんな金家にないぞ!
てか、このラケット誰のだよ!?
俺が内心でそんなことを叫んでいると、一人、俺の方に近づいてくる気配があった。
俺はビクリッと肩を震わせてその方向を見る。
すると、そこに立っていたのは空木だった。
その目はこのラケットに焦点を当てていた。
もしかすると、このラケットの持ち主は空木なのかもしれない。
俺は体を空木の方に向けると、それを質問として聞いてみる。
「もしかして、これって、空木のだったりするか?」
「えっ、あっ、はい、、、。えっと、、、」
「そうだったのか、、、すまん、折っちまった。」
「、、、あ、い、いえ、、、もともと結構ガタが来てたので、変え時だと思ってたんですけど、」
「、、、そう、だったのか、、、」
良かった、これで俺に請求が来ることは無いだろう。
いや、あのフェンスで請求が来るかもしれん、、、。
俺は空木の耳元へ顔を近づけ、一つ提案する。
「、、、なあ、一ついい案があるんだ。」
「な、何ですか?」
できるだけ小声で囁くように提案する。
空木はいきなり近づかれた所為か、頬を薄っすらと桃色に染めている。
だが、この提案は何方も損はしないだろう提案なので、続けることにした。
「今度空いてたら何かスイーツを五つ奢ってやるから、このフェンス等々の事を誤魔化してほしい。」
「えっと、、、」
「もし先生に聞かれた時の話だ。」
「、、、わ、わかりました、、、。」
俺が話す度に頬に色がついていく。
そして、内気そうな事から考えると、空木は俺に接近されて、、、というか、人が近くにいる事で羞恥を感じているのだろう。
俺はその様子を見ながらスキル欄に目を通す。
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スキル:《破壊の鉄槌》《栄光の聖光》《ステータス》《空間収納》《魔法攻撃無効》《隠蔽》《隠密》《物理攻撃無効》《叡智の神眼》《並列思考》《思考加速》《極限神越》《異世界の扉》《敵意感知》《存在感》《言語理解》《夜行視野》《起死回生》《高速再生》《短縮転移》《蜃気楼》《高速移動》《覇王の威厳》《化煙》《吸収》《威圧》《夢吸》《盗聴》《望見》
固有スキル:《攻撃無効》《無限攻撃》《暴食之皇》《盾王の覇気》《魔法遮断》《完全変化》《擬態》
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何故か?
そんなの決まっている。
この周りにいる人々から記憶を奪い去ることができるスキルがないか確認しているのだ。
そして――あった。
俺はその中から見つけたスキルの一つに《叡智の神眼》を使う。
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スキル:《吸収》――相手から『記憶』・『HP』・『MP』の何れかを奪うスキル。なお、吸収した何れかはスキル使用者の経験値として取得する。
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おお!
丁度良いスキルだ。
それでは。
――《吸収》!
途端、脳内にアレが流れる。
――《ピピ――スキル、《吸収》の効果により経験値を入手します。》
――《ピピ――称号、《異世界人》の効果、成長速度の上昇により、経験値量が2倍になります。》
――《ピピ――Lvが上がります。救世主:闇山 光里のLvが、849→994に上がりました。》
これでも行けるのか。
まあ、いいか。
よし、それじゃあ――《隠密》。
周りの生徒は記憶を抜かれたため混乱しており、俺の事は視界に入っていない。
そして、唯一記憶を抜かなかった空木は俺のことを認識しており、《隠密》のスキルの影響を受けない。
そのため、空木に一言言い残して消えることができる。
「今週の日曜、そこの駅に来てくれ。」
「え、ちょっ――」
俺はそれだけ言うと其処から消える。
そう、空木が俺を見ていない間に《瞬間転移》で逃げたのだ。
本当に野次馬は怖い。
こういう所からだんだんと拡散されていくのだから。
さて、早く帰ろう。
この格好でここら辺をうろうろしていても何の疑いもかけられないだろうし、なんだったら今は《隠密》まで使っているのだ、見つかることもないだろうが。
ただ、ここからまたあっちに行けるのかをしっかり試しておきたいのだ。
「それじゃあ――《高速移動》!」
そして俺は、神速の速さで駆け出したのだった。
次回は異世界へ再臨します。




