第十二話 化けの皮
――カラン、カララン
扉に下がるベルが店内に高音とも低音ともとれるような中音域を響かせる。
店内は落ち着いた雰囲気で包まれている。
それと、コーヒーの匂いが充満しているため、更にお洒落さを増させる。
少し小さな店だが、なかなか趣深い所である。
そして――俺の前の席で俺に相対するのは、
「さっきは助かったわ、、、」
あの美女だった。
どうしてこうなったか?
、、、それは、遡ること五分程前。
――「、、、あなた、、、同じクラスの、、、闇光君?」
彼女のこの言葉に俺は少しダメージを食らっていたが、認識されているだけで有り難い事に変わりはない。
俺が気持ち悪いのは重々承知だが、まあ、とにかく、最高です!
「いや、俺は闇山です。闇山光里」
「、、、名前間違ってましたか、すみません。」
微塵も思っていなさそうな顔で頭を下げる美女。
俺は「気にしなくていいですよ」とだけ伝えて、その場を立ち去ろうとする。
なんか、この場にいると、俺が他の人に通報されそうだしな。
――だが、俺の制服の袖が引っ張られ、俺の進行が止まる。
俺はその方を見る。
すると、美少女が俺の袖を摘まんでいるではないか。
「、、、えっと、何か?」
「お礼をしたくて、この後用事はありますか?」
すみません、妹が――
「はい! ありませんっ!」
俺にこの誘いを断ることはできなかった。
――という事があったのだが、こんな場所に来る羽目になるとは、、、。
「、、、こういう場所は嫌いでしたか?」
「あ、いえ。ただ、こういう所に来たことが余りなくて、」
「そうでしたか、」
俺の答えにそれだけ言うと、手元のコーヒーカップに入ったなんかお洒落な名前のコーヒーをズズ、と啜る美少女。
俺はこの子の名前すら知らない。
どうしようか?
呼び方すらもわからない。
――《ピピ――スキル《叡智の神眼》発動》
名:小鳥遊 遊離
種族:人間
ふむ、、、。
これだけか。
この世界で使うとこうなるっていうのが分かった。
って、違う!
小鳥遊さんね、小鳥遊さん。
よし、覚えた。
と、そこで、小鳥遊さんが俺に訊いてくる。
「、、、趣味は、ゲームでしたっけ?」
「、、、あ~、、、いや、まあ、そうです。」
さすがに、騙している様な気がするが、まあ、こう答えるしかないだろう。
俺の答えを聞いた小鳥遊さんは「そうですか、」と呟くと、底冷えしそうな目線を俺に向けてくる。
え? 俺なんかした?
何もしていない相手にこんな目を向けるって、この人やばくね?
「私にそんなウソが通じるとでも思っているの?」
「、、、はい?」
嘘、、、?
ゲームをやっているという点に関しては、あながち違ってはいないが、、、。
もしかして、俺が異世界に行っていることでもバレたか?
いや、でも、未だ二・三回しか話していないし、それはないはず。
「私の眼は誤魔化せないわよ?」
「どういう意――」
「私はこれでも体術では世界一をとったのよ? あの動きは初心者の物ではなかったわ、それどころが、私にすら見えなかった、、、あなた、本当は何処かの流派の人間なんじゃないの?」
ふむ、色々話が見えないぞ。
どういう返答が適切なんだこれは。
「えっと、、、違いますけど、、、もしそうだとして何か問題が?」
「あるわ、大ありよ」
キリッと言うようにこちらを見ているが、俺には関係がない事なので、聞き流そうか?
そんな風に思っていると、そうはさせまいと話し始める小鳥遊さん。
「、、、私の家は『然武術』の流儀を先祖代々受け継いできた家系で――」
「ちょっとまってくれ、」
「――何?」
「、、、それと俺のどっかの流儀の人物説は何がつながってるんです?」
俺の質問を聞いた小鳥遊さんは一瞬考える素振りを見せる。
そして、ゆっくりと口を開く。
「、、、なら、前置きは省くわ。二十分ほどかけて説明をするつもりだったけれど、、」
「なっげーよ!」
二十分って、体感時間大体40分位だろ?
俺にそんな精神力は備わってはいないぞ。
店内なのに叫んじゃったぞ。
あ、こっち見てる、やべぇ、えっと、、、ごめんなさい!
「それで、単刀直入に問うわ、、、あなたは、その力で私の家を潰すつもりね?」
そう言い切った彼女の眼は、まさに獣だった。
それも、既に獲物の目と鼻の先に迫っているライオンを思わせる。そこに慈悲など存在しなかった。
「なぜ、そう思うんだ?」
「その目よ」
「、、、目?」
俺の眼は「お前の家を潰してやる」と言いたそうな眼をしているのだろうか?
そんな物騒なことはしないぞ。
「何かを壊すことを躊躇わない、そんな目をしているわ」
「、、、」
この子は中二病か何かか?
俺の眼を見てそんなこと言うやつ、初めて見たよ。
はは、ハハハ。
俺は小鳥遊に向かって、もう一つ質問を投げかけた。
「、、、もし、そうだったとして、俺をどうしたいんだ?」
「もしそうだったら、貴方を此処で潰すわ。」
こっわ。
凍えるほど冷たい視線。
この目のほうが、俺の眼よりも危険なのでは?
、、、ん?
ていうか、こいつ、体術世界一って事は、俺が助ける前にしっかり抵抗してれば普通にあいつ等から逃げれたんじゃねえの?
「、、、それは別に構わないが、もう二つ位質問をさせてくれ。」
「何?」
俺の手足に注意を置きながらも俺の質問には答えてくれるらしい。
いい子ではあるのだろう。
「なぜさっき反撃に出なかった?」
「それは、、、」
俺の質問に対し、言葉が詰まる小鳥遊。
そして、明白に目を泳がせて右腕を隠す。
、、、こいつ分かりやすいな。
「まあ、大体の事情はわかった。それじゃあ、もう一つの質問だ。なんで俺に道場破りをして欲しくないんだ?」
そりゃあ、道場破りをされてうれしい人はいないだろう。
面子が丸潰れだしな。
「、、、最近、体術を習いたいという者が減少しつつあるのは知っている?」
「知らんな。」
「最近は、結構治安もよくなったわ。それにそこら辺を警察などが見回っている、そんなものを高い金を出してまで習いたいと思う人は最近少なくなってきているのよ。」
「、、、それで?」
「ズバリ言わせてもらうわ。」
そういうと少しためて、俺の眼を見つめてくる。
そして、ゆっくりと口を開く。
「私の家は、現在赤字が続いているのよ!」
「は?」
俺は理解が追い付かず、間抜けな声を漏らしてしまう。
そんな俺を置き去りにして、小鳥遊の話はフルスロットルで続いていく。
「私の家だけではなく、他の道場などもダメージを受けているのはわかっているの、それでも、せめて私の家だけは豊かでありたいの!」
「自己中心的すぎんだろ!」
「まあ、後半は半分嘘だけど、、、。」
半分本当なのかよ!
と、突っ込みたい気持ちはあったが、それよりも大きな疑問が浮かぶ。
「それって、俺がもしかしたら道場破りをするんじゃないか、っていうのと関係あるのか?」
「、、、それが。私たちの家系は、、、というか、私達道場は大体の道場がダメージを受けている。だけど、一つだけ、何のダメージも受けていない所があるの。」
「一つだけ?」
「ええ。これを見てくれる?」
俺への警戒はすでに溶けているのか、俺の座っていた横に長いタイプの椅子に乗っかり、スマホの画面を見せてくる。
そこに写っているのは柔道着を身に纏った聖職者のような老いた男が立っているところだった。
髪は柔道着とほぼ同じ位白く、髪と同じ色の長いひげを生やしている。
見方によっては仙人のようにも見える。
「この人がどうかしたのか?」
「この後を見てほしいの。」
そういうと、画面をタップする。
すると、写真だと思っていたものが動き出す。
動画だったようだ。
その動画は技を撮っている物らしいのだが――
「これは、、、!」
――その男が披露したのは、触れた相手の意識を一瞬のうちに奪い去るという物だった。
優しく、、、いや、もはや柔道着に触れるだけで相手はバタバタと受け身をとることすら出来ず地面に平伏していく。
確かに、やろうと思えば出来る事なのかもしれないが、俺が驚いたのは別の事だ。
「、、、スキル、、、」
スキル、《叡智の神眼》が発動したのだ。
そして、そこに書いてあったのは、先ほど使った事から分かる通り、名前と種族しか出ないはずのステータス表示に異世界と同じく、レベルや、スキルなどが書いてあったのだ。
「スキル?」
俺は、深く説明することができないため、はぐらかしたが、この男は調べる必要があるようだ。
俺は小鳥遊に言って、この男の調査を手伝う事になったのだった。
現実世界にも問題が、、、。




