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09 そのあとのダンジョン

説明回です。

 ここは何処だろう。

 目が覚めて早速目に飛び込んできたのは天蓋であった。

 背中に当たる感触は久しぶりのものであった。


 イツキは天蓋付きの大きなベッドで目を覚ました。

 沈むようなフカフカのベッドであった。気持ちいい。


 そして、ここがどこなのか起き上がり確認をする。

 薄暗い洞窟に灯が置かれてある。

 いくつか家具があり、洞窟の中に出来た寝室といった感じだ。


「ここは……」

「お、目が覚めたか?」


 起き上がったイツキに気付いた褐色の男が近づいてきた。

 赤い髪に人懐っこい笑顔。顔立ちは整っており、かっこいい。

 上半身の鍛え抜かれた筋肉は隠そうとせず、下半身はアラジンパンツを履いている。


「だれ?」


 イツキの知らない人であった。

 ただ、その特徴的な低い声には聴き覚えがあった。


「ひでーなぁ。この声で思い出してくれよ」


 少しがっかりしたようで、悲しそうな表情を見せる。

 ご主人に忘れられた飼い犬のようでかわいい。


「もしかして……ベス?」


 低い声というだけの当てずっぽうで言ってみた。

 だって、ベスは【ジンの精霊】でとても小さいし、人型で無いのだ。


「せーかいだぜ」

「は?」


 嬉しそうに彼は言う。尻尾があれば鞭のように振っているだろう。

 イツキは思いもよらぬ返しに抜けた声が出た。


「さすがイツキだぜ。お前のお陰で人型の精霊になれた。ありがとよ」


 ありがとよ、など言われてもイツキには心当たりが何も無い。

 イツキの理解が追い付かない。


「待って、ベスはもっと小さい【ジンの精霊】だ」

「そうだな。でも、イツキが真名をくれたから、【イフリート】に変異したみたいだ」


 【イフリート】。ジンの精霊の上位種で炎を司る精霊だ。

 攻撃力特化でその突破力はとてつもなく、エンジンがかかってしまうと止めるのは困難だ。


 イツキはベスの言葉に引っ掛かりを感じる。

 真名をくれた、という台詞。

 愛称は与えたが、真名を与える力などイツキは持っていないと思った。


「俺もあの時はうっすらしか覚えてないが、お前とリーゼがやられた後、ダンジョンターミナルが突然騒ぎ出して、【名付者《ネームメ-カー》】を継承したとか【命名者ネーミングプレゼンター】に進化したとか言い出して、気づいたらこの姿だったんだ」


 あの時。そう、冒険者にダンジョンが襲われた時だ。


「冒険者はどうなったんだ?ゴブリンは?」

「俺と嬢ちゃんで片づけたぜ。まぁ、俺はあの戦士に仕返ししたくらいで、ほとんどあの嬢ちゃんがやっつけちまったんだけどな」


「リーゼっ!?リーゼが生きてるのか!?」

「ん?ああ、イツキよりピンピンしてるぜ」


 ベスの話しでは、ベスは戦士にリベンジし強力な火炎魔術で両手剣を溶かし、戦意喪失に追い込んだとか。

 リーゼに至っては、魔術師の動きを【幻惑】で惑わし腕を折り、【暗黒】で僧侶の意識を飛ばして廃人に変えてしまったらしい。

 そのすべてが【呪い無効アンチカースオーラ】の効果を貫いていたそうだ。


「ありゃ、変異で何か新しいスキルを手にいれてやがるぜ。嬢ちゃん、頑なにステータスを見せたがらねぇからな」


 ベスは腕を組んでうんうんと頷いている。

 どうやら、リーゼも真名を持ち変異しているらしい。


 リーゼが生きている。その事実が知れただけで、心の奥がぱっと暖かくなるのを感じた。

 なにせ、目の前でクロスボウに撃たれたのである。

 イツキの心に大きな傷が残っていた。

 彼女から流れていた赤い血は未だに記憶に残っていた。


「ここらの家具も全部嬢ちゃんが発注したんだぜ。まったく、作るのは俺だったけどな。人使いが荒い子だ」

「ここはどこなんだ?」

「『魔王の間』だぜ」


 余りの様変わりに言葉を失った。

 先ほどから、部屋も仲間も変わりすぎて驚いてばかりだ。


 ベスとそんな話しをしていると、一人の女性が入ってきた。


「ベス、今後のゴブリンたちの配置についてなんだけど……」


 その女性はベスに用事があったのだろうが、ベッドで起き上がったイツキの姿を見て固まっていた。

 イツキはその女性の宝玉のような瞳と銀鈴のような声に心当たりがあるのだが、その少女はもう少し幼かった覚えがある。

 彼女は大人びた美人であって、豊満な胸部や目を見張るボディラインは面妖の一言。


「イツキ……」


 美女の頬に一筋の涙が走った。


「だれ?」

 

 美女の頬が膨らんだ。それは、見た目には合わない幼子のような膨らまし方でイツキは笑いそうになった。

 まぁ、横のベスは大笑いしているのだが。


「バカ!」

「もしかして……リーゼさん?」

「バカ!バカ!」


 拗ねたように同じ単語しか言わなくなった。

 でも、その単語は表情豊かであって、悲しみや怒り、そして喜びを感じ取ることができた。


「もう、あなたは魔王なんだから、無理したらダメなの!なんで、あんなことしたの」

「あーあー、とうとう決壊しちまって」


 一筋だった涙は数を増やし、折角の美女が台無しになるほど泣き始めた。

 イツキは慌てた様子であたふたしている。


「嬢ちゃんな、お前が眠ってる間、ずーっと寝ずに傍にいたんだぜ。目が覚めたら最初に話しするって」

「言うな、ばかぁ……うっ……うっ……」


 バカから感じ取れた悲しみの感情は、イツキが起きて最初の会話をベスに取られたからであった。


「ごめんね、リーゼ。心配かけて」

「そうよ。あなたは守られていたらいいの……」


「そうだね。リーゼって泣き虫なんだね」

「誰の所為よ……」


 リーゼとの再会に喜びを感じているイツキと泣きながらも照れて、鼻も頬も耳までも赤くしてリーゼは返す。

 その空間は少し甘ったるくて、ベスは胸焼けしそうであった。


「こほん、お二人さん。イチャイチャは後だ。それで、ゴブリンの件か?」

「っ!?イチャイチャしてない!……そう、ゴブリン。イツキが起きててよかったわ」


 リーゼは涙で濡れた顔を拭うと、本題とばかりに話し始める。

 ただ、イツキは、いつの間にかリーゼが自分の名前を自然に呼んでくれていたことに心底、喜びを感じていた。


閲覧ありがとうございます。

少しずつリーゼがデレ始めたのと、イツキの心に芽生え始めている何かがありますね。

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