第6話 渋谷系女子と思いきや・・・
数日後、校内の食堂。
「部員・・・なかなか来ないもんだな。」
「そうですねえ・・・。」
いつの間にか、佐倉といつも昼を一緒に食べるようになり。
俺達は今日も今日とて、部員集めの策を講じていた。
「どこかにいないかな、・・・昔のラノベの某なんとか団の団長みたいな奴。」
「先輩、あんな騒がしい人がいたら、先輩の部長職取られちゃいます。
「う・・・!それもそうか・・・。」
俺達が昼飯を食いながら策を練っていると。
ふわっとした金色の髪が、視界の目の前で揺れ。
目の前を、クラスの女子の一人―大久保やちよ―が通りかかり。
俺に次の時間の変更を教えてくれる。
「村上君、5時間目の英語、教室に変更になったから。」
「あれ?そうなのか。」
「うん、視聴覚室の機械の調子が悪いみたい。」
「わかった。大久保、ありがとう。」
「どういたしまして。」
それだけ言って、大久保は立ち去って行った。
明るい金髪に、少し着崩した服。
・・・見るからに、渋谷とか原宿に居そうな雰囲気のいでたちだ。
くりっとした瞳は・・・同級生ながら少しだけ幼さを感じはするが。
今のクラスで、俺をいじめていたりはしないだけ、貴重な人材ではある。
「先輩、今の人は?」
「あれは、ウチのクラスの大久保やちよだな。」
「先輩とよく話すんですか?」
「いや。たまに事務的な話をするだけだな。」
佐倉と二人でいるようになってから。
自分から俺に話しかけてきた奴。
それだけで興味を引いたのか、佐倉が首をかしげて聞いてくる。
「普段は何やってる人なんですか?」
「それが・・・良くわからないんだよな。・・・ただ、どうやらあの見るからに陽キャですーってなりの割に、部活には入ってないらしい。」
それを聞いて、佐倉が思いついたようだ。
「先輩。あの人・・・この部活に誘えないですかね?」
罵詈雑言でなく。
普通に声をかけてくれるだけ。
―他の奴等よりは、よほど俺の中での印象は良いんだけどな。
それでも。
「あいつは・・・ちょっと無理だろう。」
「やっぱり・・・難しいですかね?」
「そりゃ大久保は、前から俺をいじめてはこなかったし、・・・そもそも見た感じ、そう言う奴等と仲が悪いっぽいけど。」
そこら辺は、きっと色々あるのだろう。
「先輩に話しかけて来るって事は、もしかすると、案外先輩と仲良くなりたいのかもしれませんね。・・・わたしみたいに!」
そう言って佐倉は俺を盛り立ててくれるが。
「それで、部活に入るって言うのは、中々ハードルが高いと思うぞ。・・・大久保は、見た目からして明らかに渋谷系女子だからなあ。」
「うーん・・・わたしたち、どちらかと言えば秋葉原の方が身近ですからねえ・・・。」
一応、ここは漫画研究部とかでは無く、歴史同好会的な物ではあるけれど。
そもそも、雰囲気がどうなのだろう。
いわば、住む世界が違うのではないか。
俺はそう思い。
多分向こうも、そう思っているのだろう。
―現に、今まで俺に絡んでくることも無かったしな。
これまでは、自分の身を守るのに精いっぱいで。
周りは、敵意を向けてくるのが当たり前で。
佐倉と出会って、初めて。
俺に好意的な人間と出会えたと思った。
そうして、ようやく。
高校で、毎日誰かと話し。
部活もやると言う世間では『当たり前』の生活を送れるようになり。
ようやく、周りに目を向ける余裕が出来てきた。
「・・・どれもこれも・・・佐倉がいてくれるおかげだな。」
「なっ!ちょっ・・・!・・・せ・・・先輩・・・!?」
「おっと!?口に出ていたか。」
少し恥ずかしい事を考えていた気もするのだが。
佐倉の顔が赤くなっている所を見ると。
どうやら、思いっきり口走ってしまったらしい。
「わたしも・・・その・・・先輩がいて下さって・・・感謝してますよ。」
―おーい佐倉。
―その返しは俺も少し照れるぞ。
何とも言えない、無言の時間が。
俺達二人の間を流れた。
「・・・と、とにかくだ。・・・来週、ダメ元で話しかけてみるよ。」
「は、はいっ!」
さっきの余韻か。
佐倉は緊張しながら、そう答えた。
週末。秋葉原。
今日は活動とかでは無い。
俺が欲しい漫画の最新刊を買いに行くのに、佐倉が流れでついてくることになったのだ。
「良かったのか?・・・俺も一応男だから・・・男子に受けそうな・・・すこしアレな漫画や小説だって見るんだぞ?」
「良いも何も、私が買いたい小説も、村上先輩と同じコーナーですよ。」
「そうなのか。」
そう言って、佐倉は平然と。
俺の横で、美少女が描かれた小説を漁っている。
「ほら、この小説。未来のバーチャルゲーム物なんですけど、すごく面白いんですよ!」
あまつさえ、紹介さえしてくる。
青年向け漫画の書店で、それぞれの買い物をすまし。
佐倉が、お昼に行きたいと言い出したのは。
まさかのインドカレー屋だった。
「佐倉。オシャレなパスタ屋とかじゃなくて・・・良かったのか?」
「わたし、こういう辛い系大好きですよ!・・・この後、近くの刀削麺も食べましょう!」
「いやこのカレー量かなり多いぞ!?」
佐倉はカレーを美味しそうに頬張りながら。
この後の行きたい予定の場所を、嬉々として語った。
その後。
俺達は追加の買い物を済ませ。
そろそろ、時刻は夕方になり始めていた。
「先輩!さっき言った通り、あそこの刀削麺行きますよ!」
「おいおい、ちょっと待ってくれって。」
佐倉は俺の手を強引に引っ張って行く。
その刀削麺屋の目の前にたどり着いた時だった。
「うん・・・あの刀削麺屋の行列に並んでるのって・・・?」
「え・・・あっ!」
目の前に。
こんな所には、いるはずのない人物。
「・・・大久保?」
「ちょ・・・!嘘・・・!む・・・村上君!?」
大久保やちよ。
渋谷系のいでたちで、秋葉なんかとんと縁が無いと思っていた。
その大久保が、なぜかアキバの刀削麺屋に並んでいる。
「大久保って、こういう辛い系のエスニック料理も行ける系だったんだ。」
―てっきり、スイーツとか好きなのかと勝手に思っていた。
そして、俺達に驚いた大久保は。
ばさり。
持っていたトートバッグを取り落した。
「きゃっ!」
大久保が聞いたことも無いような悲鳴を出す。
―あ。アニメグッズと同人誌だ。
―そりゃ、アキバのこんな所に来てるんだから、目的はそっち系の品だろうな。
ものすごく、ベタな展開ではあるが。
―これは、多分。
―知り合いに見られてはいけない物を、ばっちりと見てしまったようだ。
散らばった本を、佐倉も一緒に拾ってやる。
―しかもどうやらこの本、女同士が恋愛になる展開・・・いわゆる百合物じゃないか。
「大久保って、案外アニメとか漫画とかわかる人だったんだな。」
「っ・・・!」
大久保が一気に赤面して行くのがわかる。
そして。
大久保は吹っ切れた。
「ええそうよ!あたしはこんななりだけどアニメが好きよ!今まで誰にも見られたこと無かったのに!・・・だから、クラスでも他の人とは全然話が合わないから・・・ずっと孤独を装って一人でいたのに!」
「お・・・おう。」
「しかも、あたしはどちらかと言えば可愛い女子が書いてある作品が好きだから、他のクラスにはいる女子のオタクとも話が合わないし!」
「・・・そうだな。」
「元の展開だとメインじゃないヒロイン同士が、最新作だと女同士想いあっちゃって。・・・片方がもう片方を巻き込んで心中を決めようとする作品にはまったなんて、クラスの誰とわかりあえばいいのよ!」
大久保の語りは続く。
「そのシリーズ・・・前俺も見たことはあるけど・・・今そんな展開になってたんだ。」
―いや、その話は今はいい。
「・・・誰にも、言えなかったのに。クラスの人に・・・村上君に・・・知られちゃった・・・。」
我に返ったのか。
大久保は少し沈みかえる。
「大久保。人には誰しも、秘密にしたい事の十や二十あるものだろ。・・・いいじゃないか、アニメが好きでも。俺も好きだし。・・・俺は、たとえ大久保がどんな趣味をしていたって、それを尊重するよ。」
「本当・・・?」
上目遣いになった大久保に。
俺は肯定の意を示す。
「もちろん。なあ佐倉。」
「はい!村上先輩は、皆が知らないだけで、実はとても頼りがいがあるんですよ!」
「ありがとう、村上君。・・・ねえ、この事。他の人には秘密にしておいて。・・・お願い。」
「もちろん、構わないよ。これは、俺達だけの秘密な。」
「そうですよ、大久保先輩!」
大久保は少し考え込むと。
面を上げ、すがすがしい表情で告げた。
「そうだ!村上君の部活・・・あたしも入る!!」
「「えっ!」」
まさかの発言に、俺も佐倉も驚く。
「・・・一応言っておくけど・・・俺達は近代史の同好会だぞ?」
「わかってるわ。・・・近代史の良い所を、村上君が・・・これからじっくりとあたしに教えてくれるんでしょ?」
「大久保先輩・・・!?」
それに何か意味ありげな物を感じたのか。
佐倉が動揺している。
「ま・・・まあ、うん。」
「村上先輩・・・?」
―おい佐倉。なぜそこで少しじと目になる!?
「と・・・とにかく、わが同好会へようこそ。」
今度はこっちがしどろもどろになって、新入部員に歓迎の意を示すと。
大久保は、さっきまでのしょぼんとした態度はどこへやら。
「あたし、前から村上君とはゆっくり話がしてみたいと思ってたんだ。これからよろしくね!」
俺にウインクして笑いかけた。
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