第5話 平和になって、これから
週末、浅草。
延び延びになっていた、同好会としての初めての活動。
といっても、浅草の街を巡り、レトロな街の写真を撮るだけだ。
「先輩、見てください!あれが雷門ですよね!」
大きな門を指差しながら、佐倉がはしゃぐ。
「あんな昔風の門、どう見ても『近代』とは違うって思っただろ?・・・あれ、実は昭和になってから作られたらしいぞ。」
「そうなんですか!?全然知らなかったです。」
俺もつい最近、佐倉と行くとなって調べて知ったばかりだ。
「先輩!一緒に写真撮りましょう!」
「うぉっと!」
佐倉が急に俺の身体を引き寄せ。
いつの間にか取り出した自撮り棒で、門を背景に写真を撮った。
「うーん・・・。さて、どうしたものか・・・」
浅草は浅草寺近くのカフェで、俺は考え込んでいた。
目の前にはクリームあんみつの皿。そしてその向かいには。
「お寺に来たからって瞑想するとは。先輩って結構本格的なんですね!!」
「あ、いや。これはそう言う訳では・・・。」
佐倉が抹茶パフェを食べながら、俺の方を見つめている。
佐倉を取り巻いていた数々の問題は、ようやく去った。
俺をいじめていた奴等も、あれから何もして来ない。
・・・いわゆる、平和っていう奴だ。
今までずっとのしかかっていた重しが無くなり、一気に開放された気分だが。
重石のふたが無くなり、天井にぽっかりと穴が開いた気分だ。
「なあ佐倉。この前は色々あったけど・・・もう何も無いよな?あったら言ってくれれば・・・」
「さすがにもう大丈夫ですよ。先輩のおかげで、それはもう、きれいさっぱり片付いちゃいました!」
佐倉はそう言いながら、相変わらずパフェを美味しそうにほうばる。
「俺はこれまでずっと、誰かからいじめられて、心の上に常に重石を乗っけられるような生活を送って来たからな。・・・だから、平和になった今、この先何をしていいかわからないんだ。」
例えて言うなら。
国を取り戻すための長い戦に勝利した、ゲリラ兵の様な気分なんだろう。
佐倉はそんな俺の独白をしばらく聞き、何かを考え込んでいたが。
やがて、話し始めた。
「わたし、今まで仲良い人が全然いなくて。今も、クラスでちょっと浮いちゃってるみたいなんです。わたし、なんだか周りとノリが違うみたいで。だから、こうやって誰かと出かけたこともなかったんです。」
「そうだったのか。」
「でも、今は先輩のおかげで、こうして居場所も出来て・・・本当に、感謝してもしきれません。」
「佐倉の、居場所か・・・」
「はい!」
「わたし、今先輩と一緒にいれて、すごく楽しいです!・・・だから先輩も、もっと今を楽しんでいいと思います!」
―今を、楽しむか。
―その発想は無かったな。
これまで、誰かと一緒にいることが苦手で。
グループにも、部活にも入ってこなかった。
そんな俺が。
今や、なんと同好会に入った。
それどころか。
同好会を自ら立ち上げた。
自分でもびっくりだ。
そして。
佐倉は、そんなできて間もないこの同好会を、早くも居場所だと言ってくれている。
ならば。
「・・・よし、決めたぞ。俺はこの同好会で、今からでも青春を謳歌する!」
「わあ!なんだか楽しそう!」
そして、その楽しみの基盤となる、俺達の居場所。
この同好会を、もっと強固なものにするために。
「そのために・・・この同好会、人数をもっと増やそう。」
「へ・・・?わたしは、二人だけでも全然楽しいですよ?」
俺の唐突な提案に、佐倉はきょとんとした。
「俺もこうして佐倉と話しているのが、もちろん楽しくはあるんだ。ただ、周囲のことを考えると、仲間は出来るだけ多い方が良いだろ?」
いじめが止まったとはいえ。
俺はまさにクラスから孤立状態だ。
そして、話を聞く限り、どうやら佐倉も教室ではなかなか難しい状況にあるようだ。
某アウトドア系アニメとかでは、半年以上同好会の部員が二人・・・なんてこともあったようだが。
俺達の場合は、人を増やしたほうが色々と得策だろう。
「わたし、他の人と上手くかかわれるかな・・・?」
「大丈夫大丈夫。今までの流れは学校中に知れ渡ってるから、入ってくるのは事情を知って理解してくれる奴だけだよ。」
「そうですね!・・・それなら、先輩にお任せします!」
「ここは我が同好会の部員たる佐倉に、折角できた居場所なんだ。俺には部長として、これを断固として守り抜き、発展させる義務がある!」
ぱちぱちぱち。
「先輩、かっこいいです!!」
拳を前に突き出した俺に、佐倉は拍手を送って来た。
―なんだか恥ずかしいのだが。
「そうと決まれば、早速部員募集だな。」
「はい!そのためにも、今日は一杯写真を撮りましょうね!」
こうして、目的無く始まった浅草探訪は、活動紹介の為の写真を撮る活動となり。
俺と佐倉は、浅草中を巡りながら、レトロな風景の写真をあちこちフィルムに収めた。
「先輩!ここでも一緒に撮りましょう!」
佐倉は時々、そうやって自撮りを要求して来る。
「またツーショットが増えましたね!」
ほぼ俺と佐倉しか映っていない写真が、何枚も出来上がる。
「これ、募集には使えるかな・・・?」
「いいじゃないですか。とにかくいっぱい撮れば、きっと良いのがありますよ!」
―それもそうか。
かくして、俺達の初めての『部活動』は、大量の撮りためた写真を残して終了し。
翌週、この写真の中から使えそうなのを選んでポスターを作ることになった。
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