第3話 二人きりの部活
2年の教室。
俺をいじめていた奴らの一部は豚箱に行ったが、まだ他にもたくさんいる。
しかし、今日に限っては、誰もちょっかいをかけては来なかった。
どうも俺は、腫れ物を触るような扱いになっているらしい。
・・・とはいえ。
―正直、出来るだけ長居をしたくはないな。
そう思っていたら、SNSが鳴った。
『先輩、お昼一緒に食べませんか?一年の教室の所で待ってます。』
佐倉からの誘いだ。
俺は二つ返事でOKし、昼休みになると真っ先に教室を離れた。
1年の廊下。
遠くに佐倉を見つけた。
声を掛けようとすると、一年の会話が聞こえた。
「おい、あれが噂の・・・」
「可愛いよな・・・何組なんだろ。」
「俺ああいう巨乳タイプなんだよな・・・
佐倉について噂しているようだ。
それも、わりと下世話な話を。
「おーす。待ったか?」
「先輩!こっちこっち。」
俺は佐倉と合流すると、一年が見つめる中、一年の教室を後にした。
今は、二人で食堂のテーブルで話し込んでいる。
「佐倉。朝、少し様子が変だったのって・・・」
「はい・・・。どうもわたし、かなり目立ってしまったみたいで。」
「ただ普通にしているだけなのにな。」
とはいえ。
入学してひと月もたたない内から大きな事件の当事者になったのだ。無理もないだろう。
どうやらここでも、食堂にいる一年から話題にされているようだ。
「あれ、噂の子じゃないか?」
「隣にいるのって、例の二年の先輩だよな?」
「そういえば、二年とトラぶったって・・・」
「ナンパされたの断ったって話か?」
「知ってる。二年の先輩全員から告られて、全員振ったんだろ?」
「ファンクラブとかあるんだろ?」
―あれ?
「わたし、なんか話に尾ヒレがついてませんか!?」
「ああ。ついてるな。いつの間にか学校中のアイドルに祭り上げられてるぞ。」
「もう!わたしそんなんじゃないですよー。」
「わかってるよ。」
佐倉は、上目づかいで少しだけ抗議してきた。
「それで、佐倉は結局やりたい事決まったか?」
「それが、全然決まらないんですよ。もう先輩と同じ部でいいです。」
「おいおい、それじゃ帰宅部じゃないか。」
「あははは!それは・・・まずいですね。先輩も一緒に、何かやりましょうよ。」
―そう来たか、そりゃそうか。
「俺?俺か・・・考えたことも無かったな。」
この機会に、なにかはじめてもいいのかもしれないな。
「それじゃ、俺は5限があるから。佐倉はどうする?」
「わたし、体験入部行ってきます。」
「それじゃ、また後で。」
6限目、2年の教室。
6限は近代史の授業だ。
「・・・であるからして、大正時代、浅草の街は大変に発展し、東京の中心だったわけです。今でも古い街並みが残り、当時の繁栄の面影を・・・」
選択する程度には歴史は好きなので、寝ずに聞いていられる。
・・・といっても、金曜日の6限なので、流石に心は浮ついている。
ぼんやりと聞いているだけで、時間が過ぎて行き。
いつの間にか、チャイムが鳴っていた。
「明日は休みか。佐倉はこの休み何かするのか?」
「今の所、予定はなかったです。先輩は、休みの日とかは何してるんですか?」
「うーん。家でゲームしてたり、たまに漫画とか買いに出かけたりかな。」
―思えば、今までリア充とは無縁な休日を送って来たものだな。
俺は改めてそう思った。
「あ!それなら。」
「わたし、今まで東京来たことが無くて。先輩、もしよかったら、案内してもらえませんか?浅草とか行ってみたいです。」
佐倉がふと思いついたかのように言った。
「俺と?いいけど。」
「わあ!楽しみです!」
しかも浅草と来たか。
そう言えばさっきの授業でちょうど出てたな。
―そうか、佐倉は歴史が好きなのか。しかも近代史とは珍しい。
この学校に歴史部はあるが、あそこは通称『槍サー』と言われる位、武将好きが集まっている。
―近代史が好きなら、別に作るしかないな。
「よし、作ろう。」
「作るって?」
なぜか佐倉はきょとんとしている。
「もちろん部活だよ。2人しかいないから同好会になるけど。」
「・・・へ?えーと、何部ですか?」
「名前か・・・。近代史同好会・・・とかだな。佐倉は浅草とかそういう古い街並みとか好きなんだろ?俺もまあ、ちょっと興味はあるから丁度いいや。」
「へ?わたしはただ、先輩と・・・ううん、それで行きましょう!」
―あれ?
妙な間があった様な気がしたが、まあよし。
思い立ったが吉日。
俺は直ぐに必要書類をそろえ、その日の内に職員室に提出した。
今まで何もしてこなかった俺が、突然部活を作った。
提出先の教師にはかなり驚かれたが、すんなりと許可は出た。
今日から晴れて俺は部長様だ。
だが、週末はあいにく、土日共に大雨。
とても出かけられる状況ではなかった。
―初の『部活動』は、来週末に延期だな。
『来週末こそは絶対行きましょうね!』
そんなSNSのメッセージを見ながら、俺は来週末に思いをはせていた。
そして、更にもう一つ。
俺の「先輩」としての勘がさわぐ。
―まだ、ひと波乱あるだろうな。
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