第2話 半年後の再会
半年後。
年が変わり、俺は2年に進級した。
相変わらず、俺へのいじめは続いている。
入学式が終わって数週間。
名目上後輩が出来たはずだが、俺には関係ないだろう。
そんなことを考え、入学式から数日が経った日の、放課後のこと。
今日は、前から楽しみにしていた漫画の発売日だ。
帰りに秋葉原によって行くか。
そんなことを考えながら、駅への道を歩いていた時だった。
ドン!
ものすごい衝撃と共に、激痛が走り、視界が暗転した。
別に車に轢かれたわけでは無い。
誰かが俺に体当たりをかましたようだ。
「いただき!」
よく見ると、俺をいじめている連中だ。
―何がいただきだ。痛えじゃねえか。
体を起こそうとするが、様子がおかしい。
どこかをひどく打ち付けたようだ。
そして気づく。
―あの野郎共、俺の財布を盗りやがったな!
今日は金もそれなりに入っている。
いつもの様に、やられっぱなしではいられない。
俺は急いで身体を起こして追いかけるが、既に姿は見えなかった。
―参ったな・・・。
あの中には定期券も入っていたので、取り返さないとそもそも家に帰れない。
こうなれば執念だ。
―絶対に見つけ出して、財布を取り返してやる!
まだ痛む体を引きずりながら、俺は奴らの行きそうなところを片っ端から探し始めた。
小一時間後。
執念の捜索が実った。
学校近くの庭園で、そいつらの姿を見つけた。
何か女子を囲んで話し込んでいる。
スカーフの色からすると、彼女は入学したての一年生だろう。
―野郎共め、リア充しやがって。
・・・と思ったが。
どうも、和気藹々(わきあいあい)・・・と言う雰囲気ではなさそうだ。
「いいじゃねーか。俺達と遊びに行こうぜ。」
「ちょうどカネも手に入ったしな。」
「カラオケでちょっとイイ事するだけだって。」
「あの・・・わたし・・・帰らないと・・・」
なんか、前にもこんなことがあったような。
俺は、忘却の彼方に会った記憶を探り当てる。
そうだ。半年前だ。
だが、あの時の相手は見知らぬ年下だった。
今回は、日ごろから俺を上から目線でいじめている連中だ。
だが、そんなことは関係ない。
「おい待て!」
俺はそいつらの前に出る・。
「は?おめえ何なんだ?」
「ああこの財布か?これは『拾った』んだ。ここにいるみんなが証人だ。」
「そうそう。いまイイ所なんだから邪魔するな、ブタのゴミ野郎。」
「どうせお前には何もできないんだから、口を開くんじゃねえ。てか口臭いぞお前。」
―何もできない、と来たか。
確かに、俺にはなんの力も、取り柄も無いかもしれない。
だが。
俺にも。
俺にだって。
―少し位の勇気なら、ある!!
大声で叫ぶ。
「その子を放せ!そして俺の財布を返せ!!」
言いながら、とっさの行動だったのだろう。
「え・・・!」
その下級生女子の手を引っ張り、連中の輪の中から出す。
そして、通行人にもあえて聞かせるように、ありったけの大声で叫んだ。
「泥棒だ!!泥棒!!!」
思いの外、大事になった。
たまたま近くにパトカーがいたらしく、泥棒と聞いて警官がわらわらと集まってきた。
何か喚き散らしている連中は、全員どこぞへしょっ引かれていった。
俺は財布を盗られた時、突き飛ばされて怪我をした。
それで、なんと強盗の容疑だそうだ。
俺をブタ野郎呼ばわりしていた連中は、まさかの豚箱送りとなった。
まあ、確実に退学処分だろう。
全てが終わり、あたりに静けさが戻ると、彼女が声をかけて来た。
「あの!!ありがとうございます!!あと・・・お久しぶりです!!」
「お久しぶり?」
唐突に言われた俺は、まじまじと彼女の顔を見る。
「わたしですよ!佐倉優佳です!ほら、前に前原の駅近くで助けてもらった・・・」
記憶よりほんの少しだけ、髪が伸びていたけど。
彼女は、半年前に俺が助けた女子中学生、まさにその子だった。
「やっと見つけました。・・・もう、ひどいじゃないですか!!」
そして、上目づかいで謎の抗議を始める。
「何が?」
「携帯の番号ですよ!わたし何度もかけたのに、あれ間違ってたんじゃないですか!?」
―それは・・・うんごめん。間違ってたな。
「でもいいんです。やっと、見つけることが出来ましたから。」
「見つけるって・・・?」
「あの時の話聞いて、でも連絡はつかなくて、わたし、結構調べたんですよ。」
「う、うん。」
「インスタとか検索しても出てこなかったし、前原北中に聞きに行ったら、プライバシーだから教えられないって言われちゃって。」
「それで終いには、前原の駅の改札に、早朝から何日も張り込んで、やっと先輩の姿を見つけたんです。」
そこまでして・・・?
「声かけてくれりゃよかったのに。」
「わたし、ちゃんと声かけたのに、気づいてくれなかったじゃないですか。」
「それで、休みの日に先輩の後をつけて行って、やっと先輩の学校を突き止めたんです!」
佐倉は胸を張る。
―なんかうれしいけど、執念を感じるぞ。
女子っていう生き物は、一度だけ会った人間の為に、そこまでするのか?
その後俺達は、学校の最寄、両国駅とは別の駅の喫茶店で話していた。
佐倉は注文が終わるなり、俺からスマホをもぎ取った。
そして、ものすごい勢いで手を動かし。
「はい。今度こそ連絡先入れましたからね!」
「お、おう。ありがとう。」
「わたし、中学の時もそうだったんですけど、男子に目を付けられやすいみたいなんです。」
「俺が目撃しただけでも、半年で2回目だよな。」
「心当たりはあるといえば、あるんです。わたし、ちょっと他の人より発育がいいみたいで・・・。」
そう言いながら、彼女は俺に向かって身を乗り出し。
「村上先輩はどう思います?私の身体。」
「なっ!突然何を!?」
「だーかーら、わたしの身体。やっぱりヘンですか?」
年頃の男に向かって、上目づかいで身を乗り出して聞く物じゃない・・・と、思う。
「い、いや、どうかなあ?」
俺は思わず目をそらすが。
「もっとちゃんと見てくださいよ。ほらほら。」
ふくよかな部分を見せつけてくる。
「へ、変では無いんじゃないのか?人はそれぞれだし。」
目のやり場に困りすぎて、そう返すのが精いっぱいだ。
佐倉優佳の顔が明るくなる。
「そう言ってくれたの、実は村上先輩が初めてなんですよ。ありがとうございます!」
―突然、大胆なことするもんだな。
「これからよろしくお願いしますね、村上先輩!」
佐倉は俺に微笑みかける。
こうして、俺の遅咲きの青春は始まった。
休み明け。
早朝補修があるので、いつもより早めに駅に着くと。
「おはようございます、先輩!」
改札口で、笑顔を向ける佐倉がいた。
「お、おう。・・・一年って、今日は遅いはずじゃぁ・・・。」
「・・・ちょっと、用事があって。」
「そうか。」
―うん?なぜだろう。
少しだけ、妙な間があったぞ。
それに、心なしか、顔が下を向いたような気がした。
「あ、それより先輩、わたしまだ入る部活決めてないんです。何が良いと思いますか?」
「佐倉がやりたいことでいいんじゃないか?」
「やりたいこと・・・うーん。思いつかないです。先輩は何やってるんですか?部活。」
「俺か?どこか入ってた様な気がしたが、思い出せない。・・・ま、要するに幽霊部員だ。」
「幽霊・・・わたしお化けとかはちょっと。」
「いや違うし。本物の幽霊と違うし。」
佐倉は時々ずれたことを言う様だ。
話していて中々ツッコみがいはある。
「とにかく、じっくり考えればいいよ。」
昔の小説だと、入りたい部活が無い時は自分で作ったりするらしいが。
「そうですね。また相談します。」
その後も、雑談を重ねているうちに、いつの間にか学校に着いた。
「どうした?」
「あ、いえ。何でも無いです。」
心なしか、佐倉の足取りが重くなったような気がしたが・・・?
「そうか。それじゃ、また。」
「・・・はい。また。」
下駄箱近くで佐倉と別れた。
特に約束はしていないが、今日は下校が同じ時間だ。
後で連絡が来るだろう。
俺はひとまず、自分の教室に向かうことにした。
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白かった!」
「ここが気になる!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の評価お願いいたしします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直な感想でもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何とぞよろしくお願いいたします!