第1話 半年前の出会い
俺は村上翔太。
千葉県から東京の私立高校に通っている。
高校に入って間もなく、友達がいなかった俺は、男女問わないいじめの対象になった。
きっかけが何だったかはもう覚えていない。
「おいデブ!お前の贅肉不味そうだな!」
「脂ぎってキショいんだけど。半径10メートル以内に近寄らないでくれる?」
主に、俺の体系を揶揄することから始まり。
「つーか、動きが挙動不審なんだけど。」
「いつも何考えてるかわかんねえんだよ。」
「このゴミ野郎。」
「息しないでよ。あんたと同じ空気吸いたくない。」
「悔しかったらなんか言い返してみろよ。あ、無理か(笑)」
何か反論しようとするたびに。
「お前声だけ無駄にデカいんだよ。ブーブー鳴いてんじゃねえ豚野郎。」
「図体だけはデカいくせに、弱っちくて何も言えないからな!」
「はやく死んでくれないかな。あたしの目が穢れる。」
数えきれないばかりの罵詈雑言。
毎度隠される上履きと外靴。
・・・もう慣れっこだ。
その日も、靴を見つけて少し遅めの帰路についていた。
今日は校舎裏か。
―だんだん隠し場所に芸が無くなって来てるぞ、あの野郎ども。
電車を最寄りの駅で降り、自宅へ歩いている途中のことだった。
ふと、言い争っている声が聞こえた。
―何だ?
俺は声の方に近寄っていく。
関わり合いになりたかったわけでは無い。
そこを通らないと家に帰れないからだ。
数人の若い男が、同じく小柄で長い黒髪の女の子に、強引に声をかけているようだ。
「なあいいじゃねえか。俺達と遊ぼうぜ。」
「絶対楽しいからさ。な?な?」
「スタイル良いんだからさ、持て余してちゃもったいないだろ。」
「・・・やめてください!」
男たちをよく見ると中学生だ。
しかも俺の出身校の制服を着ている。
女の子の方も、よく見ると制服姿だ。
こっちは別の学校だな。
「おいおいやめとけよ。その子嫌がってるじゃないか。その制服、お前ら前原北中だろ?」
「ああん?何だテメエ・・・は!?」
一人が俺の方を見て、なぜか途中で顔色が変えた。
「なんだって、俺も前原北中だよ。もう卒業したけどな。」
中学生たちは、なぜか、俺をかわるがわる見る。
「な、なにビビってんだ!」
「でもよう、この人俺達の先輩らしいし、しかもこの体格差じゃあ・・・」
情けない事かもしれないが、明らかに後輩とわかる相手だけに、俺はなんとか上手に出ようとする。
・・・とはいえ、流石に格闘経験とかはないから闘うのは無理だ。
―大人しく、国家権力に任せよう。
俺は通報しようと携帯をさがすが。
「いけね、携帯、部屋に置き忘れた。」
しかも、うっかりして定期券を下に落としてしまった。
学校の最寄駅、総武線の両国駅の文字が見える。
「りょ、両国!?両国ってあの国技館のある!?」
「『部屋』!?」
「こいつ・・・ガチの相撲取りかよ!!」
「んなわけねえだろ。第一マゲだって結ってねえぞ。」
「いや、俺知ってるぞ。確か入りたての人はしばらくマゲ結えねえんだ。」
「だめだ!流石にかなわねえ!」
勝手に退散して行った。
・・・なんか、あらぬ誤解をされているようだが。
―やれやれ、ここでもデブ扱いか。
結果オーライなんだろうけれど・・・
正直、複雑な気分だ。
「ありがとうございます!!あの、お相撲さんですか・・・」
「違うからね!?」
俺はただのデブだ。
さっきの奴らも間違えていたようだが、断じて相撲取りなどでは無い。
「そうなんですか。でも、・・・かっこよかったです!」
そう言いながら、上目づかいで見上げて来た。
「わたし、佐倉優佳って言います!」
俺は、彼女に名前と携帯番号を教えて別れた。
「絶対連絡しますね!」
佐倉優佳はそう言うと、笑顔を見せて去って行った。
俺が何かした気はしないが。
まあ、喜んでくれたんだから、良い事をしたんだろう。
だが、その後結局連絡は来なかった。
それもそのはず。
どうやら、機種を変える前の番号を、間違って教えてしまったようだ。
部屋・・・もとい、家に帰ってからすぐに気付いたが、既に後の祭りだった。
―あんなんでも、久々の女子とのまともな会話だったんだけどな。
俺は少し後ろ髪をひかれる思いになった。
一時期、朝に駅で見かける似た年頃の女の子を、全て彼女だと思っていた時期すらあった。
声をかけることは、流石に出来なかったけど。
しょうがない。二度と会うことは無いだろうし、もう忘れよう。
年が変わる頃には、俺はその事をすっかり忘れ去っていた。
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