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第1話

 

「――ふぅ」


開始早々賢者タイムで済まないと脳内で誰かに謝罪をする。

目の前にあるPCに表示されているのは《フィルタルシア物語~愛しのあの子達を奪われて~》。

所謂寝取られRPGだ。


「まさか純愛路線が売りのサークルだったのが寝取られに手を出すとは…」


元々この作品を販売しているサークル《くるくるてんぱー》さんの所の作品は純愛路線のRPGやシミュレーションが売りだった。

可愛らしい絵柄に反してエロいイラスト、そして先が気になる物語と膨大な文章量。

それらが相まってこのサークルの販売するゲームは高く評価されており、買っておけば外れはないとまで言われて新作が出れば販売ランキング1位を容易く確保し、年間ランキングでは必ずどれかの作品が上位ランキングに名前を残している位だ。


そんなサークルが新作として売り出したのがこの寝取られRPG。

ストーリーをザっと説明すると――

舞台は魔王の出現で世界が危機を迎える良くあるファンタジー世界。

その世界で主人公はとある田舎町で暮らしており、その主人公の周りには4人の特殊な力を持っているヒロイン達が住んでいるのだが、ある日《勇者》と名乗る男が村に現れてそのヒロイン達に魔王討伐の為に力を貸せと自分のPTに加入する様に要請してきた。

だがその本当の目的はヒロイン達を己の物にする事。

その企みにただ1人気付き、阻もうとする主人公であったが勇者との力の差は歴然。

勇ましく挑むも無力な主人公は敗北し、そして勇者はヒロイン達を連れて旅に出る。

その1年後に修業した主人公が勇者一行を追いかけるのだが、そこで待っていたのは勇者の虜となってしまっていたかつてのヒロイン達の姿。

その姿に絶望した主人公は己の無力さを嘆きながら物語は終焉を迎える、と言った感じのバットエンドな物語だ。


それをクリアした今思えるのは――エロいのは最高と言う言葉だけだろう。

今まで純愛路線でやってきたサークルが初めて手を出した寝取られ。

若干の不安こそあったが、杞憂であったとしか言いようがないだろう。

まずとにかくエロい。

主人公が必死に修行をする中で勇者はヒロイン達を次々と墜としていくのだがその過程で描かれる心情や勇者に嫌々手籠めにされながらも感じて喘ぐヒロイン達。

そのイラスト、文章、どちらを取っても最高過ぎる。

我が愚息が幾度反応してしまった事か……


「けどなぁ…」


やっぱり抵抗感がないと言えば嘘になる。

青年からすればやはりこのサークルに求めていたのは純愛なのだ。

主人公が必死な想いでヒロインと結ばれていく、そう言ったこれまでの純愛ゲーに惚れ込んだ青年からすればこのゲームはエロくて最高だが、やはり何か違ったのだ。


「けどまあ仕方ないよなぁ」


文句を抱いた所で意味はない。

そうあっさりと考えを捨てると青年は残ったやり込み要素を終わらせていく。

このサークルのRPGゲームには絶対に存在している《裏ダンジョン》。

それはやはりこのゲームにも存在していたのだが、これまでの作品とは違い仲間は誰もおらずでそこそこの強さの主人公1人で攻略しなければならない上に出現する魔物が強すぎると言うのもあってか《歴代最高難易度裏ダンジョン》とまでSNSでは言われている程に此処の攻略は超難しいのだが、この裏ダンジョンがここまで難しいと言われているのにはもう1つ理由がある。


それはこの裏ダンジョンに設定されているとあるギミックが大きな理由とされている。

そのギミックとはーーこの裏ダンジョンに一度入ると、途中退席が出来なくなると言った物だ。

セーブは不可能。一定時間操作がないと強制的に入口へと転移されると言う滅茶苦茶仕様。更には攻略には最低でも10時間を必要とすると公式から発表があったのもあってか、誰も此処を攻略する事が出来ずにいた。


「ま、だからこそやりたくなるんだけどねぇ。これこそ学生の強みよ」


超ドM大歓喜な裏ダンジョン攻略に挑んではや12時間。

攻略しては喜び、解けないトリックにイラつき、倒せない敵からは逃げ続け、そしてやっと俺は《そこ》に辿り着いた。


《第100階層》


この裏ダンジョンの最終到着地点であり、このゲームの終着点。

やっとの思いで到着した其処には――1つの宝箱だけが鎮座していた。


「…一応、粗品だけはあるって感じか」


置かれている宝箱は木製のもの。

レアアイテムや貴重品の類は赤や青の宝箱で置かれており、木製から出るアイテムレベルは――至って普通レベル。

此処まで頑張らせてポーション1つとかだったら笑ってSNSに写真を上げてやろう、そう内心思いながらも宝箱を開けてみる。


《××××××を手に入れた》


「―――は?」


文字化け?とメニューからアイテム欄を見てみるがそこには確かに××××××とある。

なんだこれと何気なくそれを選んでみると――


《このアイテムを使えば貴方は新たな旅に出られます、ただし戻る事はできません。それでも使いますか?》と表記された。


「―――あー、なるほどね」


所謂あれか、2周目引継ぎアイテムか。

此処まで来てこれだけかぁと内心落胆しつつも、まあ良いかと判断する。

2周目特有イベントとかもあるかもしれないから、そう思って青年は深く思うことなく《はい》を選択して―――意識を失った。

















































「―――る――べる―――」


「――ん?」


誰かが呼んでいる声が聴こえた。

誰だろう、そう考えながら瞼を開けようとして、ふと気づく。

母は友達と旅行へ行っており、父は単身赴任。

現在自分1人しかいない家の中で誰かが呼んでいる声が聴こえている。

――あれ?それおかしくね?と瞼を開くと―――


「もう、アベルったらやっと起きた」


―――其処にいたのは黄金色の髪をした少女。

ぱっちりと開いた瞳、人のそれとは違う尖った耳、衣服の上からでも分かるたゆたう胸。

二次元から飛び出てきたかのような絶世の美少女であるその少女を前に俺はただ呆然と――


「―――――《フェル》?」


先程までやっていた寝取られRPGに出てくるヒロインの一人、主人公アベルの幼馴染であり天才的な弓の才能を持つ少女の名を呟いた。



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