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花乙女と死神王子の花想曲  作者: 島田莉音
1、受け継いだ二人
6/26

閉じこもっていた王子様は、外へと踏み出す

 







 〝不幸にしない〟。




 その言葉に嘘はない。

 リヴィエは本気で彼女を幸せにするつもりだし……逃がすつもり(・・・・・・)もない(・・・)



 前世で夫婦であったというのもあるが、彼女は初めて自分に普通に接してくれた人なのだ。

 魔物としてではなく、人間として見てくれる。

 いくら言葉にしようと願おうと誰も側にいてくれなかったのに……ただ側にいてくれと言葉にしただけでいてくれる。

 孤独だったリヴィエが、ベアトリーチェに執着してしまうのも必然だったのだろう。

 ゆえに、彼は彼女を側におくために行動を起こさなければと思った。


 だが、既にベアトリーチェが自分の婚約者であるというなら……余計なこと(・・・・・)をしなくて済む。


 まともな教育も受けさせず、愛情も与えたことがない最低な親であったが、こればかりはいい仕事をしたとしか言えない。


(面倒なことをしなくて済んだのはよかった)


 リヴィエは、彼女が言っていた前世と今世は他人だという言葉にとても納得した。

 夜空の王であったならば、彼はリヴィエが考えるような(・・・・・・)こと(・・)をしようとしないだろう。


(まぁ、うん。引きこもり状態の俺からは考えられないな、この積極性。記憶が戻ったから、性格も変わった感じか?)


 彼の予想は間違いではない。

 一応、多すぎる情報量に脳がおかしくならないような工夫(基本的に記憶は圧縮されており、思い出そうとすれば思い出せる感じ)はされていたようだが……人一人分の記憶と力を唐突に思い出し、受け継いだのだ。

 元々あった人格に影響が出るのは、当然だろう。


「殿下?」

「おっと、ごめん。ちょっと考え事してた」


 急に黙り込み動きが止まった彼を心配したのか、ベアトリーチェに声をかけられる。

 リヴィエは嬉しさのあまり彼女をベッド押し倒していたことに気づき……慌てて起き上がって起き上がらせた。

 彼女の桜色の髪がシーツに広がる光景は中々に興奮するものだったが、まだ自分達は子供。節度ある関係が大事だ。

 なるべく、理性が危なくなるようなことは自重しようと考えた。


「考え事ですの?」

「あぁ、うん。記憶を受け継いだおかげで、君を押し倒すなんて随分と積極的なことができるようになったもんだと思ってな」

「ふぇっ⁉︎」


 真っ赤になったベアトリーチェの少し乱れた髪を直しながら、リヴィエは笑う。

 ついでに、気になっていたことを質問した。


「ベアトリーチェは一人でここに来たのか?」

「いいえ。父と一緒ですわ。ですが……王の指示でこの部屋には来れませんでしたの」

「父上の指示?」


 それを聞いて考え込む。

 どうして部屋に来るのを阻止するのか?

 別にベアトリーチェが父親と共にこの場所を訪れるのは何も問題ないはずだ。

 意味が分からなかった。


「何が目的だ……?」

「それ、わたくしも思いましたわ」


 だが、いくら考えても目的が分からない。

 二人は暫く思考を巡らせたが……諦めたように肩を竦めた。


「分からない、な。あんまり接したことがないから、性格とかも知らないし。予想もできない」

「……そうですの」


 ベアトリーチェはほんの少しだけ悲しげな顔をする。

 しかし、リヴィエ本人が気にしている様子がないのを見て、彼女はふるりっと首を軽く横に振り、哀れみかけた気持ちを振り払った。


「ひとまず、父が待っている部屋に戻りますわ。本日は顔合わせ程度の予定でしたので、あまり長くここにいて父を心配させるのもなんですから」

「……ふむ。ついでだから、俺も挨拶に行こう。俺にとって義父になる方だしな」

「あら……いいんですの? お父様がいる部屋は、人気の多い区画ですわよ?」


 この部屋を出て、人気の多い区画に行くということは……再び悪意に晒されるということだ。

 だが、彼はベアトリーチェの心配をよそに笑った。


「大丈夫だ。一人でも味方がいれば、俺は安心できる。例え、君の父親に嫌われようと……ベアトリーチェが側にいてくれるなら大丈夫だ」

「……お父様は魔法の属性程度で差別するような方ではありませんわ。わたくしの幸せを第一に考えてくださるので、ちょっと当たりがキツイかもしれませんけれど」

「では、認めてもらえるように頑張らないとな」


 リヴィエはくすくす笑いながら、ベッドから降り立ち上がる。

 そして、恭しく彼女に手を差し出した。


「どうかわたしに、貴女様をエスコートさせて頂けませんか?」

「うふふっ。勿論構いませんわ、わたくしの王子様」


 ベアトリーチェも同じようにくすくす笑いながら、彼の手に手を重ねる。

 そして、ベッドから降りてからの隣に立った。


「貴方の隣にいますわ、参りましょう」

「あぁ、隣にいてくれ」



 二人は、開けっぱなしになっていた扉に視線を向ける。




 閉じこもっていた王子は、彼だけの姫君に寄り添われ……外への一歩を踏み出した。









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