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花乙女と死神王子の花想曲  作者: 島田莉音
1、受け継いだ二人
5/26

俺の、側に《味方で》いてくれ


スローペースでごめんねー。


よろしくね☆


 







「さて……取り敢えず、この部屋で話をする前に軽く掃除をしなくちゃな。埃っぽくて堪ったもんじゃない」




 何度かキスを繰り返した後ーーーリヴィエはそう告げ、風魔法を発動させた。

 柔らかな風がカーテンを開け、薄暗かった部屋を明るく照らし……埃っぽい空気を扉から外へ押し出す。

 ベアトリーチェは窓の方を見つめながら質問した。


「窓は開けないんですの?」

「窓は開かない(・・・・)んだよ。この区画は軟禁区画だから」

「…………あぁ……やっぱりそうでしたのね」


 何かしらの不祥事や問題行動を起こした高貴な身分の者を軟禁する区画。

 それがリヴィエの部屋がある場所の正体だった。

 窓が開かないようになっているのは、軟禁対象者を逃さないためだろう。


「まぁ、無気力だった俺には窓が開こうが開きまいが関係なかったがな」


 どこか寂しさを感じさせる声に、ベアトリーチェは彼に歩み寄る。

 そして、そっとその頬を撫でた。


「………扉まで鍵がかかっていたとかではありませんわよね? 食事はちゃんと取ってましたの?」


 監禁部屋は大概、外から鍵を閉められるようになっている。

 窓が開かないようになっているのと理由は同じで、中にいる人を逃さないためだ。

 ベアトリーチェはリヴィエが外からこの部屋に閉じ込められて寂しい思いをしなかったか、と言外に問うていた。

 しかし、リヴィエはそれを否定した。


「……あぁ、大丈夫だよ。他人に傷つけられたくなかったから、鍵は俺が魔法で閉めてただけ。食事も餓死しない程度には与えられてるよ」


 餓死しない程度ということは、必要最低限ということなのだろう。

 育ち盛りの年頃だ。空腹に苦しんだこともあったかもしれない。

 ベアトリーチェは悲しげな顔になった。


「…………大変でしたわね」

「ん? そうでもないぞ? あんまりお腹が空いたことなんてなかったし」

「…………本当に?」

「あぁ。どちらかと言えば、魔物扱いされる日々の方がよっぽど大変だったよ」


 にっこりとリヴィエは笑うが、その赤金色の瞳は濁っていて。

 その笑みもどこかいびつさを感じさせる。

 ………ベアトリーチェは彼が、今世でも人間の醜さを見せつけられてきたという事実に……もう何度目か分からない悲しみを覚えた。


「………リヴィエ殿下……」

「…………あぁ…ごめん。そんな顔をさせたかった訳じゃない。今はどうでも良いって思てるんだから」


 リヴィエは苦笑しながら、本気でそう思っていた。

 確かに、闇魔法が使えるからと魔物扱いされて、周りから忌避されて、嫌われて、疎まれる日々は辛かった。

 記憶を取り戻す前の彼が、闇魔法というのが魔物が使うということしか知らなくて……〝なんで人間なのに闇魔法なんて使えるんだ〟と嘆いたこともあったのは事実だ。

 しかし、記憶を思い出した今は、闇魔法が悪いモノではないと分かっている。

 夜空の王の周りにも、同じ闇魔法を使う者が少なくともいた。

 魔法の才能があるがゆえに使えるに過ぎないのだと、前世の記憶がリヴィエに教えてくれた。


 だから、自分が魔物なんかじゃないとはっきりと理解している。

 それどころか、今も(・・)自分を信じてくれる人がいる。



 まだ心はズキズキと痛むことも、悲しくなることもあるが……自分の側にいてくれる人がいるから。



 リヴィエは柔らかく微笑んで……彼女の手を取る。

 そして、その指先にキスをした。



「一度負った心の傷は簡単には癒えない。だけど、もう独りじゃないから……大丈夫だと思えるんだよ。ベアトリーチェは俺のことを、魔物扱いし(傷つけ)ないだろう?」



 指先に唇を触れさせたまま、彼はにっこりと笑う。

 ベアトリーチェは驚いたように目を見開き……少し憤慨したような顔で告げた。


「…………当たり前ですわ。わたくしが貴方を傷つけると思っておいでなの?」

「いや? 君はそんなことしないって知ってるよ」

「…………なら、そんなことを聞かないでくださいませ。わたくしは貴方を支える者。殿下はただ側に(味方で)いろと言うだけでよろしいのですわ」

「…………うん。俺の側に(味方で)いてくれ」

「勿論ですわ」


 リヴィエは泣きそうな顔で笑う。

 ベアトリーチェもそんな彼の手を強く握り返した。



「んじゃあ、ベアトリーチェに側にいてもらうためにも、作戦会議といきますか」



 さっきとは違って晴れやかな表情で言うリヴィエに、ベアトリーチェは首を傾げる。

 そして、不思議そうに質問した。


「……作戦会議?」

「そう。このままじゃ一緒にいられないだろ? 王族というのが、簡単に好きな人と結婚できないってことは知っている。だから、ベアトリーチェと結婚できるように作戦会議をしようと思ってさ」

「……………え?」


 その言葉にベアトリーチェは怪訝な顔になる。

 曲がりなりにも王命で婚約関係になったのだから、よっぽどのことがない限り婚約解消になることはないはずだ。

 なのに、彼はベアトリーチェと結婚できるとは思っていないようで……。

 ベアトリーチェはある可能性に至って、目を見開いた。




「…………わたくしが貴方の婚約者になったこと、知りませんの?」




「…………え?」


 リヴィエの顔がピシッと固まる。

 その顔が、彼がベアトリーチェと婚約したことを知らなかったと物語っていた。

 互いに見つめ合うこと、数十秒間。

 沈黙していたリヴィエは、ガシッと彼女の肩を掴み……叫んだ。


「えっ⁉︎ 本当にっ⁉︎ 嘘じゃなくてっ⁉︎」

「嘘じゃありませんわよっ‼︎ わたくしが訪れた理由が分かってなかったんですのっ⁉︎ というか、ご存知なかったのっ⁉︎」

「分かるかっ‼︎ 知るかっ‼︎ こちとら引きこもりだぞっ⁉︎ それどころか他人と距離置かれてたし、何も知らないわっ‼︎ いや、そうじゃなくて……とにかくっ‼︎ 俺とベアトリーチェは何もしなくても結婚できるってことなのかっ⁉︎」

「王命での婚約ですから、よほどのことがない限りは結婚確定ですわよ」


 リヴィエはそれを聞いて息を飲む。

 そして、ぎゅっと目を瞑ると……思いっきり破顔した。


「やった‼︎ 君との結婚のために闇魔法で国王を脅そうと思ってたが……害にしかならなかったのにいい仕事してくれたなぁ〜、父上(あの人)‼︎」

「………きゃあっ⁉︎」


 喜ぶリヴィエは再度、彼女を抱き締めて、ベッドに押し倒す。

 彼は本気で喜んでいるようだったが、ベアトリーチェは〝脅そうと思ってた〟という言葉に頬を引きつらせた。


「…………闇魔法で苦しんだのに、そんなことしたら余計に恐れられますわよ?」

「君を手に入れるためならそれぐらい、どうってことないさ。俺は優しい王じゃないからな。大切なモノ以外はどうなろうといい。どう思われようと構わない」


 至近距離で絡まる視線。

 彼の赤金色の瞳には、どろりと仄暗い光が宿っていて……ベアトリーチェはその光を見て納得してしまう。

 リヴィエはベアトリーチェには想像がつかないほど、傷ついてきたのだろう。

 大切なモノ以外はどうなろうと構わないと思ってしまえるほど、人というものに嫌悪を抱いたのだろう。

 そして、彼にそう思わせるほど……周りの者達が傷つけてきたのだろう。



「………優しくなくなった俺に、幻滅するか?」



 リヴィエは、無機質な声で聞いてくる。

 夜空の王だったならば、どれだけ傷つけられても……優しすぎるがゆえに敵であろうと心を痛めていた。

 だが、ベアトリーチェは呆れたように苦笑する。

 そして、彼の頬をほんの少し引っ張りながら答えた。


「だから、貴方と夜空の王は他人ですわよ。優しくなくなったも何もありません。貴方がそれだけ深く傷つけられてきたというなら、傷つけてきた者達がどうなろうと構わないと思ったって普通ですわ。それが人間というモノですもの。だから、幻滅なんて致しません」

「………………そっか。うん。君に嫌われたらどうしようと思った」

「あら。酷く人間らしい反応をしているだけで嫌うことなどありませんわよ?」

「ふふふっ…………よかった。幻滅したなんて言われたら、ーーーーーしかないなぁとも思ったから」

「………………え?」



 にっこり。


 柔らかく微笑むリヴィエだが、その瞳には相変わらず仄暗い光が宿っていて。

 ベアトリーチェは、上手く聞き取れなかった言葉に危険な気配を感じて……つぅーと冷や汗を流した。


「………今なんて、おっしゃいました?」

「ふふふっ。秘密だよ? 心配しなくても、不幸にはしないからさ」


 リヴィエは柔らかく微笑みながら、彼女を強く強く抱き締める。

 しかし、ベアトリーチェは不穏な気配を感じていた。




 というか……直感で理解してしまった。






 これは、完全に捕まえられたーーーーと。








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