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花乙女と死神王子の花想曲  作者: 島田莉音
1、受け継いだ二人
3/26

出会いは破壊音と共に


遅筆でごめんねー。

よろしくねー。


 







 人間は、自分達と違うモノを恐れ、迫害するーーー。





 それをリヴィエは、十歳でありながらよく知っていた。







 リヴィエ・フォン・ルーフレールは、死神王子と呼ばれている。


 その理由は、闇魔法の使い手だからだ。


 現在では、闇魔法は魔物が使う属性であり、人間は闇魔法を使えないと言われている。

 そのため、リヴィエの母……前王妃が亡くなったのは、魔物であるリヴィエを生んだからではないか……そう思われるようになってしまったのだ。


 しかし、実際にはそんなことはない。

 前王妃が亡くなったのは、単に産後の肥立ちが悪かったからで。

 亡くなってしまったのは偶然に過ぎなくて。

 リヴィエが闇魔法を使えるのは、必然・・に過ぎなかった。



 だが、先ほども言ったように人は自分達と違うモノを恐れる。



 そのため、リヴィエは闇魔法を使うがゆえに……自分の父である国王を始めとする王侯貴族達に恐れられ、疎まれてきた。



 幼い頃から悪意に晒され。

 ずっと他人と距離を置かれてくれば、リヴィエが心を閉ざしてしまうのは当然の流れだったのだろう。



 ゆえに、リヴィエはこれ以上傷つかないようにと。

 王宮の奥の奥ーーー人気のないとある(・・・)区画にある一室に、引きこもるようになった。




 日夜問わず薄暗い部屋。

 ベッドとソファだけという生活感のない空間。

 消えそうなほどに微かな呼吸音だけが残る、寂しく冷たい場所。


 その部屋は、まさにリヴィエの心の有り様を表していた。



 だが……。







 そんな凍えそうな寒々しい部屋で………彼は自身の運命を変える、春のような乙女(暖かな光)と出会う。






 ーーーーーーーーーー破壊音と共に。







 *****







 絢爛豪華な絵画や彫刻などが置かれていた人気の多い区画と比べ、ベアトリーチェ達が案内された区画はとても質素……見窄らしいと言っても過言ではなかった。




 調度品も何もなく。

 日当たりも悪いのか、左側には大きめのガラス窓が何個もあるというのに、廊下自体が薄暗い。

 それどころか人が来ないのをいいことに、掃除も行き届いていないのだろう。

 埃っぽい匂いがした。

 いつからか床に引かれていた毛長の絨毯もなくなり、廊下を歩く音だけが酷く反響する。




 ベアトリーチェは、歩き進めるたびにビクビクと怯える案内役の侍女の後ろ姿を見つめながら、溜息を零した。



 普通、婚約者となる者同士が初めて会う場合は、親が同伴するものだ。

 しかし、王も王妃も顔を見せる様子はない。

 それどころか、父が一緒に彼の部屋を訪れることも王の指示で阻止された。


 一体、何が目的なのかーーー?


 ベアトリーチェはそれが分からなくて、怪訝な顔になる。

 案内役も、まだ新人そうな侍女一人だけ。

 人の出入りが多い華やかな区画を通ってきたから分かるが、この区画はワザとこんな風(・・・・)にしているのか……。

 それか、ここに暮らすリヴィエを恐れて近づかないようにしているかのどちらかだろう。

 そして、異常なほどに少ない部屋数。



 結論からすれば、この区画は、王子が暮らすべき場所ではないのだ。



 …………ここは……。



「あの……つき、ました。あの部屋に、殿下が……いらっしゃいます……」


 侍女は突き当りの部屋を指差しながら、言う。

 しかし、まだその部屋からかなり距離が離れている。

 どうやらここから先は自分達で進めということらしい。

 ベアトリーチェは険しい顔をするが……侍女は言葉をかける前に「失礼しますっ‼︎」と言い切って、慌ててその場から去って行った。


「…………はぁ……」


 ベアトリーチェは溜息を零して、すたすたと廊下を進む。

 人の気配もなく、生活音すらもなく。

 こんな様子だと部屋付きの侍女もいないだろう。

 となると……リヴィエはこの場所で一人だということで。

 ベアトリーチェはなんとも言えない、複雑な気持ちになる。


(……ひとまず、会ってみないと何も始まりませんわ)


 扉の前に立ったベアトリーチェは、大きく息を吐く。

 そして、三回扉をノックした。


「リヴィエ殿下はいらっしゃいますか?」


 ………シンッ…。


「…………」


 返事はなく、中の物音も何も聞こえない。

 ベアトリーチェは眉間に僅かにシワを寄せ、再度ノックする。

 しかし、結果は同じ。

 思い切って取っ手を捻ってみるが、鍵がかかっていて開きもしない。

 暫く部屋の前で待ってみたが……音沙汰もない。

 ベアトリーチェは、扉をジロジロと見つめて……険しい顔になり始めた。


「…………まさか……倒れてたりしてませんわよね……?」


 思わず溢れた言葉に、ベアトリーチェは更に顔色を悪くする。

 人気がないということは、体調が悪くても気づいてもらえないということ。

 つまり、具合が悪くて倒れていても……放置されてしまっているのかもしれない。

 最悪の展開を考えると………。


「っっっ‼︎」


 最悪を想像してしまったベアトリーチェは慌てて魔力を右足に集め、身体強化の魔法を発動させる。




 そして、思いっきり蹴り開けた(壊した)




「はぁっ‼︎」



 バゴンッッッ‼︎



「っっっ⁉︎」

「死んでませんわよねっ⁉︎」


 薄暗い部屋に一気に光が差し込む。

 ベアトリーチェは埃っぽい部屋の中を見渡し……ベッドの上で絶句している少年を見つめて、言葉を失った。


 伸びきった、青藍色の髪。


 洋燈ランプを思わせる赤金色の瞳。


 顔立ちは幼いけれど、過去の記憶にいたあの人に酷く似通った顔立ち。



 その顔はーーーー。



「あな、たは……」

「うぐっ……‼︎」

「えっ……⁉︎」


 彼はベアトリーチェの顔を見つめていたと思えば、胸元を押さえて呻き出す。

 苦しそうな彼の様子に慌ててベアトリーチェは駆け寄る。


「ちょ、ちょっとっっっ⁉︎ 大丈夫ですのっ⁉︎」


 そして、心配から彼の手を握った瞬間ーーー。


「ひゃあっ⁉︎」







 ベッドの上に引きずり込まれ、噛みつくようなキスをされた。









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