花乙女と死神王子の新生活(3)
更新が遅くてごめんなさい‼︎
体調不良のため(具合が悪くなると、長引くタイプ)、これからも更新頻度がマチマチになると思います‼︎
皆さんも体調不良にはお気をつけてお過ごしください‼︎
今後ともよろしくどうぞ‼︎
和やかなムードの中。
食事を取りながら、リヴィエはベアトリーチェからこの屋敷で暮らす者達の紹介を受けることとなった。
「食事中にお喋りがはしたない、なんて言いませんわよね?」
言わないと分かっていながら、ベアトリーチェはニヤリと笑いながら聞く。
リヴィエは肩を竦めながら、楽しげに答えた。
「言う訳ないだろ」
「あぁ、よかった。もしそんなことを言うならば、いかにお喋りしながらの食事が楽しいかを懇々と説明しなくてはなりませんでしたわ」
「あぁ、言わなくてよかった。ベアトの説明は、長そうだ」
「まぁ、長いなんて酷いですわ‼︎」
大袈裟なくらいな反応を返すベアトリーチェに、リヴィエは「ぷっ」と噴き出す。
互いにしようともしていない、思ってもいない会話をすることが予想以上に楽しくて。二人はクスクスと笑った。
ちなみに、その会話を楽しんで周りを見ていなかったベアトリーチェとリヴィエは、ベイン達がとても優しい(または生温いと言う)ことに運がいい(?)ことに気づかなかった。
「ふふふっ。ふざけた会話はここまでにして、ちゃんと紹介しますわね?」
「あぁ、そうしてくれ」
「もう家令のホルンとサミュは紹介しましたから……サミュの家族から紹介しましょうか」
ベアトリーチェはそう言って、サミュの近くに座る者達を示す。
「サミュの家族は一家全員が、ルフト侯爵家に仕えてくれていますわ。執事であるサン、侍女長のシャトレーヌ。そして、わたくしの専属侍女であるサリーヌですわ」
「よろしくお願い致します、殿下」
「有事の際は遠慮なくお声がけくださいませ」
「弟共々、よろしくお願い致します」
彼らの挨拶に、リヴィエも「よろしく」と頭を下げる。
ベアトリーチェは次の使用人達の紹介もする。
「料理人はいつの間にか住み着いていた元傭兵のアカサギ、アオサギ。庭師も同じようにいつの間にか住み着いていた元傭兵のシラサギで……三人共、遠い東の島国出身らしいですわ」
「おぅ。よろしくな」
「料理のことは任せるが良い」
「よろしくお願いしますぜ、王子殿」
アカサギは軽快に笑い、アオサギは寡黙な印象を抱く。
シラサギはほんの少しだけ軽そうな雰囲気だ。
「あぁ……よろしく……」
リヴィエはなんで傭兵が住み着くことになるんだ……? と内心動揺しながらも、挨拶を返した。
「これで、ルフト侯爵家で働いている人を全員紹介しましたわね。他の家と比べたら使用人の数が少ないですが……生活に支障が出ることはないと思いますわ」
他所の貴族はかなりの人数の使用人を雇っているが、この世界には魔法が存在するのだ。
それを使えば、使用人が少なくても作業を効率よく行うことができる。
ルフト侯爵家では、ベアトリーチェ達自身ができることは自分でやるのあり……必要最低限の人数でも問題はなかった。
リヴィエもその説明を受け、理解したように頷く。
「元々、使用人に世話をしてもらったことすらないから、人が少なかろうが問題ないさ。ところで……キリルとキリファがいないようだが?」
リヴィエはこの席にいない爺孫の二人に首を傾げる。
その質問に彼女が答える前に……ベインが乾いた笑みを浮かべながら答えた。
「あの二人は長期休暇を取ったよ」
「長期休暇?」
「…………キリファのタックル癖を矯正するための特別教育期間という名の長期休暇らしい」
「…………あぁ……」
事前に話を聞いていた者、今この場で始めて聞く者。
漏れなくその場にいる全員が納得した顔になり、そっと目を逸らす。
キリファは敵、味方関係なしにタックルをかます。
そのため、この屋敷の住人達は全員(リヴィエ除く)がタックルの犠牲者だった。
厳格な性格であるキリルに矯正されるとなれば、それはとてもとても厳しく辛い矯正を行われるだろうと推測できる。
しかし、あのタックルが直るのならば……仕方のないことだと、納得せざる負えなかった。
「…………まぁ、あの二人のことはそれほど気にしなくて大丈夫だと思いますわ」
「…………それもそうか」
リヴィエはそれに納得する。
夜空の王の知識や感覚が、キリル達が只者ではないことを訴えていた。
だが、下手に突いて藪蛇になったら困るので……敢えて、何も言わないことにした。
「……ベアト、リヴィエ殿下。話が変わるんだが」
声をかけられて、二人はそちらに顔を向ける。
声をかけたベインは、先ほどよりも真剣な表情をしていた。
「この後、直ぐにリヴィエ殿下がこの領都で暮らすことを正式発表するつもりだ」
「あら。もう少し経ってからかと思いましたわ」
父の行動の早さに、ベアトリーチェは純粋に驚く。
正式発表自体はそれほど難しい仕事ではないが、領都を離れていた間に溜まっていた執務をある程度片付け、なおかつリヴィエのことを公表しても大丈夫かどうかの安全性の確認が終わってから……つまりは、数日後の話だと思っていた。
だが、ベインはゆっくりと首を振ってそれを否定する。
「ベアトが殿下の婚約者になったことは広まっているからね。だから、きちんとリヴィエ殿下が王宮を出ていることをこちらでも発表しないと、変な勘ぐりをする者も現れるだろう?」
「…………あぁ……そういうことですの」
呆れたように肩を竦めながら、父が言いたいことを察する。
リヴィエはずっと表舞台に出ていなかったのだ。
つまり、リヴィエの姿を知る者は少ないということ。
ルーフレール王家が、王都以外にいる貴族にリヴィエが王宮から去ったことを伝えたとは考えにくい。
ゆえに、リヴィエがルフト侯爵領に来ていることを知らない者から見たら、ベアトリーチェがリヴィエ以外の男性と共に過ごしているように思われてしまうかもしれないのだ。
リヴィエと共にいるのに、本人だと認識されず。
婚約者以外の男性と親しくしているなんてありもしない噂が流れてしまえば、面倒なことになる。
変な勘違いをされる前に、ルフト侯爵家からリヴィエが領都にいることを正式発表した方が、ベアトリーチェとリヴィエのためになると判断したのだろう。
「…………だが、安全確保が不十分なため、リヴィエ殿下がいることを正式発表すると、身代金目的の誘拐とか、身を狙われる可能性があるのだけど……」
「あぁ、それは問題ない。今の俺なら対応できるからな」
にっこりと微笑むリヴィエの声には、驕りなどは感じられない。
ならば、ただ彼は事実を述べているだけなのだろう。
ベインはその返事を聞き、少しだけ苦笑しながら頷いた。
「ははっ……わたしの心配は無用のようだね。では、詳しいことはこちらでやっておこう」
「あぁ、お願いする」
「では、ベアト。リヴィエ殿下にこの屋敷や街を案内してあげなさい」
「はい、分かりましたわ」
事前にサリーヌから聞いていたため、ベアトリーチェは素直にそれを了承する。
リヴィエが王宮の外を実際に歩くのは、これが初めてになる。
彼に楽しんでもらいたいと思ったベアトリーチェは、胸を張って宣言した。
「リヴィエを楽しませてみせますわ」
その言葉だけで、彼女の気持ちを察したリヴィエも嬉しそうに笑う。
そして、「ベアトの案内、楽しみにさせてもらうぞ?」と返事を返すのだった……。
だが、この時のベアトリーチェ達は知るよしもなかった。
この案内で、とんでもない面倒事に直面することになることを……。




