花乙女と死神王子の新生活(2)
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「ごほんっ……すまない。動揺した」
慌てて着替えたリヴィエは、廊下に出て待ってもらっていたベアトリーチェの前で、ワザらしく咳払いをする。
しかし、その頬は一目で分かるほどに真っ赤になっていて。
ベアトリーチェはこてんっと首を傾げた。
「どうしてそんなに顔が真っ赤ですの?」
「…………どうしてって……それは……」
リヴィエは複雑そうな顔になりつつ、ベアトリーチェと共に廊下で待っていたサミュへと視線を向ける。
視線を受けたサミュは同情するような視線を返しながら、〝こちらに助けを求められても無理です〟と手をバツマークにして、そっと目を逸らした。
「リヴィエ?」
ベアトリーチェの真っ直ぐすぎる視線にリヴィエは言葉を詰まらせる。
しかし、その視線が全然逸れないことから……彼は諦めたように息を零した。
「その……恥ずかしいところを、見せたから」
「恥ずかしいところですの?」
「寝惚けてるところを見せてしまうなんて、恥ずかしいだろう?」
「…………そうですの? 可愛かったですわよ?」
「可愛っ……⁉︎」
リヴィエは更に顔を赤くして呻く。
だが……少ししたら、立ち直ったようで。
少しだけムスッとしながら、ベアトリーチェに訴えた。
「男なんだから、女性の前では格好つけたいんだよ。可愛いはあまり嬉しくない」
「…………そういうものですの?」
「そういうものなんだよ」
男心は乙女心に負けず劣らず複雑らしい。
ベアトリーチェはなんとなく納得しながら、頷く。
リヴィエは彼女が絶対分かってないと悟りながら……ずっと待たせているのも悪いと思って、サミュに声をかけた。
「サミュ。待たせてすまない」
「あ、いえいえ。好きなだけイチャついてください」
「イチャつ……いや、そこに反応するんじゃなくて。俺を起こしに来てくれたんだろ? ありがとう」
「仕事ですので」
とは言っているが、お礼を言われたことが嬉しかったのかサミュはにっこりと微笑む。
ベアトリーチェは「あぁ」と思い出したようにパチンッと手を鳴らした。
「そうでした、朝ご飯の時間でしたわ。行きましょう、リヴィエ」
「もうそんな時間なのか?」
「えぇ。お腹が減ったでしょう?」
「…………どうだろう。あまり腹が減ったという感覚が分からないんだよな」
「…………え?」
「王宮では殆ど動くこともなかったから……食欲もあまりなかったんだ」
リヴィエは手の平を見つめながら、呟く。
食欲がなかったということは、彼が心の中で僅かばかり生きるのを諦めかけていたということ。
ベアトリーチェはそれに気づいて、ほんの少しだけ眉間にシワを寄せる。
だが、その感情を表に出さずに、次の瞬間には柔らかく微笑んだ。
「なら、これからは沢山お腹が減りますわね。きっとこれからとても忙しくなります。ご飯を食べないと持ちませんし、ずっと華奢なままですわよ?」
「…………華奢なままってのは嫌かな」
「なら、早く行きましょう? サミュも」
「あぁ」
「はい、お嬢様」
三人で食堂に向かう。
食堂内には既に皆が揃っていて、長テーブルに全員が座り、食事も準備済みになっていた。
どうやらベアトリーチェ達が最後だったらしい。
ベインは三人に気づいて、軽く片手を上げた。
「おはよう。ベアト、リヴィエ、サミュ。随分と遅かったね」
「おはようございますわ、お父様」
「おはようございます。俺が寝坊してしまったんだ。すみません」
「おはようございます、旦那様」
「いや、気にしないでくれ。疲れていたんだろう。さぁ、三人も座りなさい」
ベアトリーチェとリヴィエは上座側に。
サミュは家族の隣に。
ベインは家族の顔を見合わせて、まずはリヴィエを紹介することにした。
「昨日、一応は聞いていただろうが……今後、我が家でベアトの婚約者であるリヴィエ殿下も暮らすことなった。リヴィエ殿下、挨拶を」
「あぁ」
リヴィエは椅子から立ち上がり、ゆっくりと皆を見渡す。
家令のホルン、サミュの他に執事服の男性が一人。
侍女服の女性と、少女。
屈強な体格のコック服を着たスキンヘッド男性が二人に、ひょろ長い庭師風の男性が一人。
まだ名前を知らない人が多かったが……リヴィエは頭を下げて、挨拶をした。
「俺の名前はリヴィエ・フォン・ルーフレール。一応、第二王子だが……闇魔法の使い手であるため、《死神王子》と呼ばれているし、王族から疎まれている存在だ。今回、縁があってベアトリーチェと婚約させてもらうことになった。だが、俺は王族としての教育を受けてなかったし、生まれてこの方、ほぼ隔離されて生きてきたゆえに、沢山迷惑をかけると思う。だが……よろしく頼む」
シンッ……と静まり返る食堂。
リヴィエは挨拶に失敗したのかと思い、微妙に冷や汗を掻くが……隣に座ったベアトリーチェが「お馬鹿さんですわねぇ」と呟いたことで、彼は目を見開いた。
「一緒に暮らす以上は家族なんですから、そんな堅っ苦しい挨拶は必要ありませんわ。それに、迷惑をかけるのも当たり前です。これからよろしくね、ぐらいでいいんですわよ?」
「……………いやいや、ベアトさん。流石にこれからよろしくね、ぐらいは軽すぎると思うぞ?」
「残念ながら、我々の意見もベアトリーチェお嬢様と一緒でございますよ。殿下」
ベアトリーチェの言葉に同意するようにホルンが告げ、他の者達も笑顔で頷く。
「そーそー。オレらなんか勝手に居座ってんだから、真面目に挨拶するだけ無駄ってモンよ」
「えぇ、えぇ。ここの破落戸三人衆と比べれば、殿下など可愛らしいものでございます。ですから、そんなに気を張らないでくださいませ」
侍女服の女性が、コック服の男性二人と庭師風の男性を睨みながら告げる。
リヴィエはそんな賑やかでありながら優しい笑顔を見せてくれるルフト侯爵家の皆を見て……困ったような。
でも、嬉しそうな顔で告げた。
「…………ありがとう。これから、よろしく」




