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花乙女と死神王子の花想曲  作者: 島田莉音
1、受け継いだ二人
21/26

婚約者は小悪魔サマ


ちょっとずつ糖度を上げていくぞー。

頑張れー‼︎


 







 優しい指先が、頬を撫でる。



 ベアトリーチェはその指先に頬を緩めながら、彼の肩に頭を預けた。





「やっと落ち着いた時間がきましたわね」


 王命で第二王子の婚約者に任命され。

 王宮で顔合わせをし、彼が夜空の王の継承者となって。

 リヴィエを引き取ることになり、三日間の馬車旅でルフト侯爵領に戻った。

 だが、屋敷に入る前にベアトリーチェの馬鹿な幼馴染がリヴィエに喧嘩を売り……決闘騒ぎ。

 それが終わったと思えば、今度は弾丸少女。

 まだ今日は終わってないが、凄まじく濃い一日だった。

 疲れた様子のベアトリーチェを見て、リヴィエも苦笑を零す。

 そして、彼女の手の甲を優しく撫でながら呟いた。


「ははっ、確かに。王宮から出た途端、色々と起こるなんて……」

「騒ぎの神様に愛されていらっしゃるのね」

「かもしれないなぁ。ずっと引きこもっていたから、気づかなかっただけで。でも、ベアトとの時間を潰されるのは堪ったもんじゃないが」


 クスクスと笑いながら、リヴィエは肩を竦める。

 それを聞いたベアトリーチェは少し考え込み……何かを思いついたように、少し小悪魔めいた笑み浮かべながら告げた。



「なら、わたくしと濃密な時間を過ごしましょう?」



 トンッ……と軽く身体を押され、リヴィエは簡単にソファに倒れ込み……ベアトリーチェはゆっくりと彼の上に身を乗り出し、甘えるようにその胸元に頬を擦り寄せる。

 リヴィエはそんな彼女の行動に……ごきゅっと喉を鳴らした。


「ベ、ベアト?」


 今の彼の心境を言い表すならば、困惑の一言だろう。

 こちら(リヴィエ)から触れる(キスする)と照れるのに、こうして自分ベアトリーチェから()()()触れるのは堂々としていて。

 いや、それどころか……押し倒して、身を乗り出して、抱きつくなど……普通の少女ならできるはずがない。

 なんで頬にキスする程度で照れるのに、こういうことができるのだ。

 理性を試しているのかっっっ‼︎ と、叫びたくなってしまう。

 だが、リヴィエはなんとか理性を保ちながら……彼女に声をかけた。


「ベアトさん? い、一体何をして……?」

「何って……ただのスキンシップ、ですわよ?」

押し倒し(これ)がただのスキンシップっ……⁉︎」

「??? 婚約者ですもの。スキンシップぐらい普通でしょう?」


 リヴィエはその言葉に絶句しかける。

 ソファに押し倒しておいて、ただのスキンシップなはずがない。

 しかし、ベアトリーチェは本当にただのスキンシップだと思っているらしく……なんてことがないように言う。


「なんとなくですけれど……きっと、これからもリヴィエは色々と巻き込まれる予感がしますわ」

「…………えっと……少し話の意味が分からないんだが? それと濃密な時間云々がどういう繋がりが……?」


 リヴィエは状況処理が追いつかないのか、首を傾げる。

 彼女はそんな彼の疑問に答えるように、告げた。


「平和に暮らしたいと思っても、()()()忙しくて。時にはわたくしとの時間がなくなることもあるかもしれません」

「まさかぁ……」

「現時点でお兄様との魔法歓談が待ってますわよね? お兄様、魔法のことになるとしつこいですわよ? それに、お勉強もありますし……男性ですから、剣の稽古もあるかと思いますわ」

「…………あぁ……そう言えば……」


 ベアトリーチェの言葉に、彼は納得する。

 生まれて十年ーー必要最低限の教育しかされておらず、王侯貴族としての教養がないリヴィエは、今まで無駄にした時間を取り戻すためにも、()()勉強しなくてはいけなくなるだろう。


「ルフト侯爵家に婿入りして、爵位を継ぐのですし……領主の勉強もあります。そうなると、リヴィエは必然的に忙しくなりますわよね?」

「…………あぁ……」

「ね? やはり、わたくしとの時間が少なくってしまいそうでしょう? だけど、その代わりに……会えた時の時間を。二人の時間を濃くすれば、釣り合いが取れると思いますの。だからね?」


 彼の身体に乗せたまま、ベアトリーチェは顔を上げて至近距離でその赤金色の瞳を見つめる。

 彼の瞳に映る自分の顔は……とても楽しそうで、とても嬉しそうだった。



「甘えてくださいませ。甘やかしてくださいませ。わたくしを可愛がってくださいな」



「〜〜〜〜〜〜っっっ⁉︎」


 満面の笑みを浮かべてそう懇願する婚約者の姿に、リヴィエは顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。

 初心な反応を見せたと思えば、大胆な行動をして。



 …………容赦なく、リヴィエの理性を削って、煽ってくる。



 これが無意識にしている行動なのだから、尚更タチが悪い。

 こんなに可愛いことを言われたら、愛情表現キスをしたくなる。

 なのに、ベアトリーチェはその愛情表現キスで叩いてくるぐらい照れる訳で(ここまでの触れ合いで、彼女が照れるのがキスだと察し始めた)。



 その上で、二人っきりの時間にキスなんてしたら……リヴィエは理性が蕩ける(を失う)自信があった。


 何が言いたいかと言うと……リヴィエのキスに照れたベアトリーチェが逃げ出し、二人の時間が必然的に失くなる。



 我慢できずにキスをしてしまえば……ベアトリーチェが恥ずかしさのあまり、自分リヴィエに近づこうとすらしなくなりそうで、我慢するしかない。

 彼女との時間が少なくなることは、リヴィエにとっても悪いことなのだ。



 つまり……こんなに可愛い婚約者が逃げないように(にキスをしないで)、愛でるしかないのだ。



(…………こういうのを小悪魔と言うんだっけ……? ははははっ……生殺しだ……)


 少ない時間でも満足できるよう触れ合いたいと思うのならば、ベアトリーチェが逃げないように触れ合うしかない。

 リヴィエは若干、泣きそうになりながら……ゆっくりとベアトリーチェに視線を向ける。

 そして……乾いた声で、告げた。


「…………ベアトさん」

「なんですの?」

「俺は一生、お前に勝てない気がするよ」

「…………?」

「分からないならいいよ……うん。頑張れ、俺の理性」


 キョトンとするベアトリーチェの頭を撫でながら、リヴィエは誤魔化すように笑顔を浮かべる。

 彼女は暫くは怪訝な顔をしていたが……次第に、撫でられる気持ち良さにうっとりとし始め……。





 唇を噛み締めて我慢するリヴィエに、とことん甘えるのだった……。







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