表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花乙女と死神王子の花想曲  作者: 島田莉音
1、受け継いだ二人
13/26

辿り着いたルフト侯爵領、ついでに宣戦布告


いつも読んでくださってありがとうございます‼︎

今後もよろしくねっ☆


 








 途中、ベインの記憶を魔法で奪うなんてことはあったが……他愛ない話をしながら、馬車に揺られること三日ほど。





 ベアトリーチェ達はルフト侯爵領へと辿り着いた。






「…………へぇ……賑わってるんだな」


 リヴィエはポツリと呟く。

 馬車の窓から覗く外の光景は、それはもう賑やかだった。

 王都ほどではないけれど……沢山の人々が行き交い、どこからでも出店から響く客引きの声が聞こえてくる。

 整備された道路、街灯、街並み。

 溌剌とした笑顔の住民達。



 平和ーーただその一言が相応しい。



 ベアトリーチェはいつも通りのルフト侯爵領の姿を見て、ふんわりと微笑んだ。


「素敵でしょう? わたくしの故郷は」


 リヴィエはそう言われて、素直に頷く。

 人々の笑顔からは、不安や不満などの負の感情が見て取れない。

 それが意味することはただ一つ。

 ベインの手腕がそれほど素晴らしいモノだということだ。


「彼らの笑顔を見るだけで、ルフト侯爵が素晴らしい領主なのだと分かるな」

「………素直に褒められるのは、恥ずかしいね」


 リヴィエの褒め言葉に少し照れたような顔をするベイン。

 馬車は領都の奥ーー高台にある少し大きめの屋敷に向かって進む。

 更に走ること数分……領主館の前に、馬車は横付けされた。

 ベインが一番に降り、二番目に降りたリヴィエはベアトリーチェに手を差し出す。

 そして、にっこりと王子(演技)らしい笑顔を浮かべた。


「お手をどうぞ?」

「ありがとうございますわ、殿下」


 ベアトリーチェはその笑顔に似たような笑顔を返しながら、リヴィエの手を取り馬車から降りる。

 歴史を感じさせる領主館を見上げ、やっと帰ってきたという安堵感を感じた。


「……確か、兄君()いるんだったよな?」

「……えぇ。そうですわ」


 ベアトリーチェはその言葉に、ほんの少しだけ翳った笑みを浮かべる。

 この屋敷にいるのは、ベアトリーチェの兄と使用人()()

 ルフト侯爵夫人は五年前、流行り病で亡くなってしまったのだ。

 当時はとても悲しかったし、暫く立ち直れなかったが……いつまでも悲しんでいたら、天国の母を悲しませるだけだと思い、今は皆、前を向いて暮らしている。

 それに……母を亡くしたのはリヴィエも同じだ。

 彼に至っては母との優しい思い出すらない。

 しかし、それは彼女と比べるモノではないだろう。

 悲しみは人それぞれの尺度なのだから。

 だから、ベアトリーチェは話を変えるように告げた。


「でも、今日からはリヴィエ殿下も家族ですわね」

「…………俺も?」

「同じ家に住んで、同じ日々を過ごすなら……血の繋がりがなくても家族でしょう?」

「……………」


 リヴィエは驚いたように目を見開く。

 家族。そう言ってもらえるのがとても嬉しくて……なのに、とても泣きそうな気持ちになる。

 血が繋がる父でさえ、兄弟達でさえ……リヴィエは家族になれなかった。



 だから、ベアトリーチェに自分も家族だと言われて気づいてしまう。



「…………あぁ……家族って、良い言葉だな……」



 彼はずっと寂しかったのだ。



 誰も信頼できる人がいなかった。

 疎まれて、嫌われて、恐れられて。

 誰かの温もりさえすら知らなかった。

 だから、利益関係ではない……優しい関係(家族)が欲しかった。

 自分の味方になってくれる人が欲しくて……実際に、彼女が自分の味方になってくれると言ってくれたのが、とても嬉しかった。

 ベアトリーチェは泣きそうな顔で嬉しそうに笑うリヴィエを見て、彼の頬を優しく撫でる。

 そして、彼の笑みに反して穏やかな笑みを浮かべた。


「…………泣きそうな顔、ですわね」

「……ははっ。泣きそうな顔にもなるだろ……そんな優しいこと言われたら」

「まぁ、大変。それじゃあ、これからは殿下は涙目の日々ですわね?」

「そうだな……きっとそうなっちゃうだろうなぁ……」


 リヴィエは彼女の身体に抱きつき、その肩に顔を埋める。

 ベアトリーチェは何も言わずに、彼の背中を優しく叩いた。

 柔らかな時間が流れる二人。

 最初は声をかけようと思ったベインも、流石に空気を読んだのか……二台目の馬車から荷物を降ろしていた使用人達の方へと歩き、二人だけの時間を作る。


 だが……。



 そんな時間は、長くは続かなかった。



「オレ様のベアトリーチェに何抱きついてんだぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」



「「っ⁉︎」」


 屋敷の扉が勢いよく開き、仁王立ちした十一〜二歳ぐらいの、腰に子供用の剣を帯刀した青い髪の少年が、彼女を抱き締めたリヴィエを睨む。

 さっきまでの雰囲気がどこかへ吹っ飛んで……呆然とするリヴィエは、目を見開いて固まるベアトリーチェに視線を向ける。

 そして、ちょっと胡乱な目をしながら呟いた。


「だ、そうだが。婚約早々、浮気か?」


 少し低い声で聞かれ、ベアトリーチェは勢いよく首を振る。

 リヴィエの妙な圧に押され、ちょっと冷や汗ものだった。

 だが、唐突に現れた乱入者の発言にリヴィエがそう思うのも仕方ない。

 ベアトリーチェは慌てて弁明した。


「いやいや‼︎ わたくし、トライバルのモノではないですわよ‼︎ 彼が勝手に言ってるだけですし、リヴィエ殿下と婚約しているでしょうっっ⁉︎」

「…………トライバル?」

「…………トライバル・パータ。隣のパータ伯爵領の伯爵子息です。幼馴染というヤツですわ」

「ふぅん?」


 リヴィエのジト目は変わらないが、彼の圧はほんの少し柔らかくなる。

 しかし、彼女の言葉にトライバルは地団駄を踏んだ。


「おいっ‼︎ ベアトリーチェ‼︎ どういうことだよ‼︎ お前はオレ様のモノだろ‼︎」

「わたくし、モノではありませんわよ。そもそも、リヴィエ殿下と婚約するとも言いましたわよね?」

「知るかっ‼︎」


 ベアトリーチェは思わず呆れた顔になる。

 トライバルは現在、十二歳。

 しかし、その性格は荒々しく、自己中心的。

 この世界は、自分の思い通りにはなると思っているフシがあるのだ。

 リヴィエもそんな彼の性質を理解したのか……呆れた溜息を零した。


「で? 何か用?」

「何じゃない‼︎ ベアトリーチェから離れろ‼︎」

「お前に指図される筋合いはないんだが?」

「そいつはオレ様のだ‼︎」

「ベアトリーチェはモノじゃない。それに、俺は彼女の婚約者だ。触れても問題ないんだよ」

「〜〜〜〜っっっ‼︎」


 トライバルは勢いよく駆け出し、リヴィエの胸倉を掴む。

 そしてーーーー。



「ベアトリーチェをかけて、決闘しろぉぉおっ‼︎」






 宣戦布告した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ