知ってしまった闇魔法の真実は、心の中にしまわれる
…………何故か、シリアスが続きますね……?
多分、次の話からギャグとまではいかないだろうけど、もっと話が軽くなるはず……。
ではでは、今後もよろしくどうぞっ‼︎
「………………え……?」
ベアトリーチェはリヴィエの言葉に硬直する。
それと同時に頭の中に流れ出す前世の記憶。
〝朝日の王〟ーーその名は……。
「…………夜空の王を処刑した、人間の……王」
声が震えていた。
自分は花乙女ではないと分かっているけれど、花乙女の記憶が、感情が……ベアトリーチェを襲う。
怒りとも、悲しみとも、苦しみとも、憎悪とも取れるぐちゃぐちゃした感情。
だが、ふわりと手を包んだ温度が……彼女を我に返らせた。
「他人の記憶ってのも厄介だよな、ベアトリーチェ」
「……リヴィエ、殿下……」
「お前はベアトリーチェだよ。過去の記憶に飲まれるな」
「…………っ……‼︎」
ふと冷静さを取り戻し、息を吐く。
ベアトリーチェはなんとも言えなさそうな顔で、彼に誤った。
「ごめんなさい、殿下。少し、我を忘れましたわ」
「大丈夫。気にするな」
「えっと……詳しく聞いても?」
ベアトリーチェの様子がおかしいと思いながらも、ベインは聞かずにいられない。
リヴィエは「ニルギス」と声をかけて、空気から現れる闇の精霊に視線を向けた。
ニルギスはこほんっと咳払いして、リヴィエの膝の上に座り……語り出した。
ニルギスはリヴィエの前に現れる以前から情報を集めていた。
闇の精霊は高位の存在。
現在の者達には精霊の侵入を防げるほどの強者はおらず、ニルギスは動きたい放題だったらしい。
そして、禁書庫すらも簡単に侵入し……知ったのは、ルーフレール王家が人亜戦争で人間側達の代表となった朝日の王と呼ばれる男の子孫だということだった。
ルーフレール王家には朝日の王からの手記が遺産として残されてきた。
闇魔法をあそこまで恐れていたのは、そこに書かれている内容が問題だったらしい。
〝闇魔法は亜人、魔物が使うもの〟ーーーー。
人類を救った男の手記が残されていたからこそ、リヴィエはあそこまで恐れられていたのだ。
『儂の見解を述べさせて頂きますと……朝日の王は亜人達がフォーゲル大陸に閉じこもったことで気づいてしまったのでしょうな。これから先、未来に置いて人間の闇魔法の使い手が激減することを』
「……どういう意味ですの?」
『人間は、一部の者を除き……魔法を使う才能はありませぬ。そして、亜人は人間よりも魔法を使う才能があり……闇魔法を使う者すら多かった』
的を得ないとニルギスの言葉に、ベアトリーチェとベインは首を傾げる。
そんな二人を見て、事前にニルギスから話を聞いていたリヴィエは苦笑しながら、代わりに告げた。
「言ってしまえば、亜人達との共生があの戦争の所為でできなくなったから……闇魔法の使い手も少なくなったんだよ」
「「っ‼︎」」
ベアトリーチェとベインはそれを聞いて絶句する。
その言葉が意味することは……。
『人の姿のままの者もおりますが……亜人とは、魔法を扱うために肉体を最適化させた元人間と言えば分かりやすいでしょうかのう? それゆえに、人間よりも強い魔法の力を使えた。つまり、亜人達は魔法の才能の塊とも言えるのですぞ。亜人達との共生があれば……闇魔法の使い手も少なくなることはなかったでしょうな』
「魔法の才能がない者同士が子を成しても、子もまた同じ。才能がある者同士が結婚して、才能ある子が生まれたとしても……結局、人間は闇魔法を使えぬ者の方が多かったから、時間が経てば闇魔法を使える才能が薄まるのは必然ってこと」
「…………あぁ……もしかして」
ベアトリーチェは花乙女の記憶から朝日の王の行動を悟り、渋い顔になる。
リヴィエもクスクスと苦笑しながら、頷いた。
「そう。自分の失敗を隠すために、闇魔法自体が悪いモノってことにしたんだろうな」
朝日の王はとてもとても狡猾で、自尊心が高い男だった。
ゆえに、自分の失敗……亜人達を迫害し、フォーゲル大陸に引き篭もらせてしまったことによる弊害を隠すために、闇魔法自体を悪しきモノにしたのだろう。
「…………阿呆らしいですわね……。自分が率先して亜人達を排除していった所為で、闇魔法が廃れたというのに……それを隠すために闇魔法自体を悪いモノにするとか……」
ベアトリーチェは呆れたように呟く。
闇魔法の真実が伝わってなかった理由が、まさかそんな呆れた理由だったなんて思いもしなかった。
「阿呆らしいけど、朝日の王の隠蔽工作は成功してるよな。現に、闇魔法=悪いモノ。だから人間に使える者はいないってなってるし」
『加えて、闇魔法の詳細を敢えて後世に残さず……もし、闇魔法の使い手が現れても、脅威にならぬようにしたのかもしれませんな』
「…………確かに。闇魔法は使い方が分からないと有用に使えないし」
夜空の王の記憶のおかげで、今のリヴィエはサラッと国の一つや二つを簡単に堕とせる程度の力が使えるが……それ以前のリヴィエならば、闇魔法の力が使えず、そんなことすらできなかっただろう。
「…………聞いてはならないことを……聞いてしまった気がする……ははははっ……話を聞いても? なんて言うべきではなかった……」
「「…………」」
ふと隣を見てみれば……顔を両手で覆い俯くベインの姿。
いつからか話に混ざっていなかったと思ったら……流石に、一般人(?)には闇が深すぎる話だったらしい。
ベアトリーチェは暫く黙ってリヴィエと顔を見合わせる。
だが……急にハッと思い出したような顔をすると、ジトっとした目で彼を睨んだ。
「…………というか。ここまで聞いてから思い出すのもアレですけれど。陰謀とか危険そうな話は無視するんじゃなかったんですの?」
ぎくりっ。
リヴィエはスススッと視線を逸らす。
だがジト目のベアトリーチェの圧力に負けたのか……大人しく両手を上げて、白状した。
「…………いや……そのつもりだったんだけど……ニルギスが長年集めてくれた情報を聞かずにいるのも、悪いかと思っちゃって……」
「本音はなんですの?」
「俺だけ真実を知ってるとか嫌だ。いっそ、巻き込むよな。一蓮托生って言うんだったかな?」
「…………」
面倒な真実だったゆえ、同じ情報を共有する者が欲しかったらしい。
ベアトリーチェは眉間を揉みながら、溜息を零すな。
リヴィエは「あはは〜」と笑った。
「まぁ、ほら。聞いたとしてもどうこうする訳じゃないし、いいじゃないか。この馬車の中だけの秘密ってことでさ」
「お父様は暫く立ち直れなさそうですわよ」
「………………」
「というか、朝日の王あたりの話はお父様は知らなくてもよかったのでは?」
「…………ルーフレール王家が朝日の王の子孫あたりからの記憶、無くしてやるか……」
「……一般人(?)には刺激的すぎる話ですものね」
リヴィエは闇魔法で、ベインから朝日の王あたりからの会話の記憶を奪い……そのまま睡眠の魔法で寝かせる。
この馬車での会話(朝日の王関連)は、二人(+一匹)の心の中にしまわれることとなるのだった……。




