初めて語る真実、変わらぬ父のスタンス、そして……落とされる爆弾
長くなりそうなので、二つに分けます。
次話に続く‼︎
ガタガタ……。
ルフト侯爵家のタウンハウスで待機していた他の馬車(荷物や侍女などが乗っている)と合流し、王都を出ること数時間ほど。
ルフト侯爵領までの道のりは馬車で三日といったところ。
まだまだ時間はあったが、ベインは早々に話を切り出していた。
「さて……二人の話を聞いてもいいのかな?」
ベアトリーチェもリヴィエも以前、ベインから話を聞かせてもらうと宣言されていたため、あまり動揺せずに頷く。
そして、娘であるベアトリーチェから語った方がいいだろうと判断し……彼女は口を開いた。
「荒唐無稽な話だと、思ってくださっても構いませんわ」
ベアトリーチェはそう前置きして、語り出す。
過去に生きた者の力、記憶を引き継いだ者……継承者のこと。
湾曲して伝えられた歴史。
人亜戦争の詳細や、自分達が亜人側に立っていたこと。
花乙女のこと、夜空の王のこと。
前世では、リヴィエと自分が夫婦だったこと……前世ではどのように動き、どのように死んだか。
そして、継承者として数百年後の世界に生まれ……偶然にもリヴィエに再会したこと。
リヴィエの力の正体。
そして……一番大事な話。
今世では、平和な日々を、幸せな日々を過ごしたいということ。
そんなに多くのことを隠していた訳ではないが、話を聞き終えたベインは困惑した顔になっていた。
「…………まさか……そんなことが……」
実際に亜人を見たことがあるわけではないが……人亜戦争は数百年前に起きたの歴史の一つとして教わる。
そのため、継承者と呼ばれる者が存在するという話よりも、人亜戦争の話の方が驚かずにいられなかった。
加えて、教わった内容では、亜人達が人間を滅ぼそうとして始まったとされていた。
だが、亜人達が自らの身を守るためにフォーゲル大陸に篭ったことで、人間達の都合が良いように歴史を改変されていたなんて……。
「黙っていたことは謝りますわ。でも、継承者はとても数少なく……巨大な力を持つ者が多いので、面倒ごとや権力争い、戦争などに巻き込まれないよう秘している者が多いのですわ。それに湾曲した史実が残っているように……真実を語るべきではないと、口を噤む者が多いのでしょう」
「…………真実ではなく、都合がいいように伝えられているからこそってことか……」
「あぁ。真実を語れど、頭がおかしい奴だと思われるのが関の山だろう。ルフト侯爵だって、信じがたいだろう?」
リヴィエにそう言われ、ベインは少しだけ困ったような顔をしてしまう。
〝信じられない〟という気持ちはあるが、作り話にしては詳細もはっきりしすぎているし……たった数時間しか顔を合わせていない二人が、ここまで同じ作り話を話せるとは思えない。
ゆえに、ベインは二人の話が真実なのでは……? と思い始めていた。
しかし……。
「…………教えられてきたモノを覆すような話だったからね。完全に信じるとは言い切れないかな」
「そうですわよね。でも、この話をお父様以外に語る気はありません。下手にこの話が広まると、面倒ごとに巻き込まれそうですから。だから、お父様もそこまで深く考えなくても良いかと思いますわ」
「あぁ。ただ、前世と今世は別人だが……他人の記憶を持っているような状況だ。だから、人格に影響があって、大人びた態度や考え方をしていると分かってもらえたら充分だろう」
ベインはリヴィエにそう言われて、ベアトリーチェを見つめる。
人一人分の記憶があるならば、年齢よりも大人びた態度になるのも……影響を受けるのも当然だろう。
それでも、ベアトリーチェは自分の娘だ。
例え、どれだけ大人びていようと。
前世の記憶を持っていようが、それは揺るがない。
ベインは大きく息を吐いて、冷静さを取り戻す。
そして、彼女に質問した。
「一つ、聞かせて欲しい」
「……なんですの?」
「ベアトリーチェがリヴィエ殿下を受け入れたのは、前世の記憶が理由なのかい?」
「「…………」」
「あくまで、前世と今世は別人なんだろう? 前世の記憶に引きずられて、ベアトリーチェ本人が幸せになれないのは……」
「ふっ……ふふふっ……‼︎」
その質問に、ベアトリーチェは笑い声を漏らした。
真実を知っても、父のスタンスは揺るがなかった。
ベインにとって大切なのは、〝娘が幸せになれるかどうか〟。
ベアトリーチェはどこまでも変わらない父の姿に、温かい気持ちになりながら微笑む。
「確かに前世の記憶を持っていますけれど、婚約相手が前世の夫だったのは偶然ですし……わたくしが継承者であったのも、リヴィエ殿下が記憶を取り戻したのも……砂漠の中から一粒の金を見つけるような奇跡です」
「…………」
「だとしても、わたくしは花乙女ではありませんし、彼も夜空の王ではありません。きちんとわたくしとリヴィエ殿下で、新たな関係を始めるのです。だから、お父様が心配しなくても……ベアトリーチェとリヴィエ殿下として幸せになりますわ」
「…………そうか……なら、いいんだ」
ベインはホッとしたような顔になる。
リヴィエはそんな姿を見て、羨ましそうに呟いた。
「……ルフト侯爵は良い父親だな。俺の父上とは大違いだ」
「……そんなことはないって言ってあげたいところだけど……確かに、わたしと陛下はかなり違うかもね」
「あぁ」
ベインならば、きっとベアトリーチェが闇魔法を持っていても国王のように疎むことはなかっただろう。
だが、あぁなってしまったのも仕方ないと……今のリヴィエは知っている。
リヴィエは少し面倒そうに溜息を零す。
そして、爆弾を落とした。
「ルーフレール王家は〝朝日の王〟の子孫だから、あぁなっちゃったのも仕方ないよなぁ……」




