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花乙女と死神王子の花想曲  作者: 島田莉音
0、プロローグ
1/26

遠い昔の、終わりの始まり


新作です。



《2020/1/21〜話自体が変わりました》


2000〜4000文字で、ゆっくーり話が進んでいきます。よろしくね‼︎

 






 満点の星空と、丸々と浮かんだ大きな満月。




 白銀の光が夜空から降り置いて、黄金の燐光を放つ一面の花畑を照らしていく。




 そんな花畑の中で、美しい男女が手を取って空を見上げていた。







「これが、最後になりますのね」



 柔らかな風が吹き、彼女の桜色の髪と真っ白なワンピースドレスの裾を揺らす。

 彼女の翡翠色の瞳は涙で潤みながらも、真っ直ぐに彼を見つめていて。


 そして、それは目の前の青年も同じだった。

 夜に溶ける藍青色インディゴブルーの長い髪と黒い服を風が揺らし、洋燈ランプを思わせる赤金色の瞳が、彼女の視線に答えるように向けられる。

 彼は悲しげな笑みを浮かべて、彼女の震える身体を抱き締めた。


「………あぁ。ごめんな、こんな選択しかできない王様で」








 生命の多様性により生まれた獣人、エルフ、ドワーフなどを始めとした亜人。

 しかし、人間と異なる姿、人間が持たざる大きな力を人間達(彼ら)が恐れ、数の暴力で殺戮を開始したことで始まった人亜戦争。


 亜人達の王である彼は明日、人間側に投降する。

 それはこれ以上、余計な血を流れさせないため。



 (人間)側から〝王自らが投降すれば、これ以上の殺戮は止める〟と提案されたからだった。



 だが、それはきっと破られるだろう。

 人間達はその約束を守らないだろう。



 何故なら、奴らは無抵抗な女子供であろうと、嬉々として殺してきたのだから。



 しかし、彼は一縷の望みがあるならばとその提案を受け入れた。


 なんて愚かしい選択だろうーーー彼女はそう思わずにいられない。

 でも、愚かであろうと……その選択をするのが彼だった。


「…………本当、ですわ。貴方もぐらい、残酷な王であればよかったのに」

「それは無理だなぁ。俺は、味方であろうが敵であろうが、無意味に死んで欲しくないから」


 彼が、仲間が死んでいく度に、人目のない場所で泣いていたことを知っている。

 敵の命を奪ってしまう度に、傷ついていたことを。

 そんな彼の隣にいた彼女が、誰よりも分かっている。



 優しすぎる亜人達の王。



 それが彼女が愛した人なのだから。

 だから、彼女は思ってもないことを言う。



 大切な者達を、仲間達を守るために……生贄となりに行く彼の、心残りにならないように。



「貴方が死んだ後、わたくしは貴方を忘れて幸せに生きますわ」

「…………うん」

「…………きっと、幸せになりますわ」

「……うん。幸せになってくれ」


 彼女は彼がいなければ幸せになれないのに。

 そんなことは分かりきっているのに、そんな嘘を吐く。

 そして、彼もまたその嘘を知りながら……呪いのような言葉(幸せになってくれ)と告げるのだ。



 だけど……彼は思わずにいられない。



「でも……もし、生まれ変わることができたなら……その時は、君と最後まで共にいたいな」


 本当は、今世で添い遂げたいと思う。

 けれど、自分達はいろんなものを背負いすぎてしまった。

 だから、二人はその本音に蓋をする。


「…………それは、難しいかと思いますわ」

「…………かもね」


 この世界には輪廻転生という概念があり、遠い未来に過去の記憶を引き継いで生まれ変わる者ーーー〝継承者〟と呼ばれる者がいる。

 しかし、それは神によって選ばれた者だけで、全員が全員、生まれ変われる訳ではない。

 加えて、もし来世も会おうとするならば……それは砂漠の中から一粒の金を見つけるような奇跡が起きなくてはならない。

 だけど、未来を考えるくらいは……許されるだろう。


「…………でも、わたくしも……もしまた出会えたなら……貴方と添い遂げたいですわ」

「………そっか」


 彼は優しく笑いながら、彼女の手を取り、キスを送る。

 そして、叶わぬ約束をした。


「なら、約束。君の今を、俺は手放そう。だけど……君の未来は、俺が貰い受ける」

「…………はい」

「未来で、君がどれだけ幸せに生きたかを教えてくれよ?」


 彼は彼女が自分のいない世界で生き残ると疑っていない。

 しかし、彼女は自分がこれからしようとしていることを、敢えて彼に告げなかった。


(ごめんなさい、それはできませんわ。だって、わたくしも直ぐに貴方の後を追いますものーーー)


 優しい彼がこれ以上苦しまないようにと、彼女はこれから自分が選ぶ選択を告げない。

 自分がしようとすることを告げない。

 彼も勝手にその身を犠牲にすることを決めてしまったのだ。

 だから、彼女も勝手にしたってーーー文句は言われないはず。

 だけど、それを告げてしまったら彼を悲しませることになるからーーー彼女はそれを隠す。


「うふふっ、出会えたら……お教えしましょう」


 どうせもう二度と会えないのだから、最後はせめて幸せに終えよう。

 彼女はもう一度近づいて、彼の頬に手を添える。



 そして、触れるだけのキスをして別れの言葉を告げたーーー。




「さよなら、愛しい人。わたくしの旦那様」



 涙が頬を伝う。

 それでも、笑ってみせる彼女に……彼は大きく目を見開き……。

 涙を零しながら、笑顔を返した。



「さよなら、愛した人。俺の大切な妃よ」






 そうしてーーー王は人間達の手によって無残な死を迎え、その伴侶はその身を犠牲(・・・・・・)に、亜人達が暮らす大陸に結界を張った。




 それから数百年ーーー物語は動き出す。







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