第7話 相田さん
新キャラ相田さん。
割と好きな性格なんですよね〜
「ーーさき、杉崎!!」
耳をつんざくような声が俺の意識を明瞭にした。
「すみません。ちょっと呆けてました」
「らしくないな、ボーッとして。まったくしっかりしろよな。俺の話聞いてなかっただろ。」
声をかけてきたのは相田義武さん。
俺がバイトで働いているコンビニの先輩で、色々と面倒をみてくれる良い人だ。
金髪でピアスを開けているため、初めは近寄り難い印象を持っていたが話してみると意外と馬が合った。
ロックバンドで売れてメジャーデビューするのが夢らしく俺にも嬉しそうに語ってくれた。
この外見はバンドに個性をつけるためのキャラづくりらしい。もっとも、本人はかなり真面目な人でその仕事っぷりはバイト内でも定評がある程だ。
「ええと、何の話でしたっけ?」
「だからぁ、最近俺のお気に入りの子がうちに来なくなったって話!」
なんだ。めちゃくちゃしょうもない。
「えっと、一か月前はよく来てた子でしたっけ? 俺もそれくらいから働きだしたんでわからないんですよ」
「そうそう。黒縁眼鏡の前髪が長い子でさぁ。ちょっと地味だったけど俺は確信してる。あれは絶対化けるね」
「意外ですね。相田さんはもっと明るい子が好みだと思ってました」
「そりゃそっちもありだぜ? でもなんていうかこう守ってあげたくなるみたいな? そういうのがあの子にはあった!」
「そうですか」
これ以上話しても仕方ないので相槌だけ打つことにした。
「それで、お前はまだ進路のことで悩んでんのか?」
突然相田さんは声色を変えて質問をしてきた。
彼はひょうきんものを演じているようでその実人をよく見ている。
今日仕事に身が入っていないのを以前相談した大学のことと結び付けたようだ。
人との距離関係を明確につかむことのできるこの人は俺なんかよりよっぽど賢く、羨ましいと思った。
「いえそれもあるんですけど…… 今日若菜ちゃんに大人になるってどういうことですかって訊かれたんです。でも俺あまりうまく答えられた気がしなくて。なんだか納得いかないような感じだったし」
「ふーん。まあ俺は質問に答えることすらできんがな。なんたってもう二十代後半にもなるのに未だに夢なんざ追っかけてフラフラしてる。だから俺はそんな難しいことはわかりませーん!」
若菜のことも以前から話していた。
あの子の話をするとたいていニヤニヤしながらからかってくるものだからあまりこの人に話したくはなかったのだが、今回は仕事に身が入ってなかった俺に非がある。
それに自分では大人がどういうものなのかハッキリとわからない。
だから俺より年上の相田さんに一応聞いてみたが、案の定相田さんはおどけてみせた。
「でもな杉崎」
少し間をおいてから彼は真面目な顔をする。
「そんなこと訊いてくるってのはお前に惚れてるか、めちゃくちゃ悩んでてでもそんな話を聞いてもらう人もいないで一人で抱え込んでるって場合だ。もうここまできたらお前、責任取って告白でもしろよ」
放つ言葉には妙な説得力があった。
多分経験に基づくものではない、彼の性格だからこそ言い切ることができるのだろう。
ただのせられっぱなしなのは面白くない。
「アホですか」
とばっさり切り捨てておいた。
「じゃあ俺ちょっと店長と話あるから。レジ任せたぞ」
そういって彼は休憩室に入っていった。
相田さんは良い人だと言ったが訂正だ。
あの人はただの迷惑お節介野郎だ。